第35話 禁断の天使

文字数 2,202文字

翌日、スバルが力無く出勤すると、玉座の間にて魔王スケアクローが大音量でアダルトビデオを視聴していた。


スバルは驚き慄き、持ちうる限りの全ての憎しみを込めた目で魔王を見つめた。

イッヒッヒ!

そこだ!

ほれ、今だ!

いれろ!

……。
絶望心を引きずりながら、キリキリと痛む胃を抑えて事務室へと向かう。

いつもの通り、ドミニオンがパソコンに向かう後ろ姿があった。

おはようございます。

朝からガッカリしました。

おはようございます。

魔王スケアクローが寝起きてすぐに癇癪を起こすので、仕方なく対処しました。

昨夜は夜勤でしたが、私も疲れているんですよ。

夜勤?

業務しっぱなしでは?

仮眠を取っています。

問題ありません。

社畜……?
そんな言葉を使ってはいけません。

社畜なんて言葉を使うのは畜生と同じですよ。

なるほど。

言葉に気を付けます。

しかし、あちこちはよくないですよ。

あちこち、よろしくないと?

いいんですよ。

私は。

凄い。

男の子の会話だね!

女の私には全く理解出来ない会話の流れだ!

え?

そうなの?

うん。

何があちこちなのか、まるで検討がつかないよ。

あちこちって、ドミニオンは恐らくどこにでもこんな業務態度で仕事をしている、ということさ。

やり過ぎだよ。

なるほどね。

ドミニオンは根っからの、会社に寝泊まりして仕事に熱中し過ぎるタイプってことね。

こういう人が一人でもいると、会社全体の姿勢と覇気に関わるよね。

そしてそれをあちこちの会社で行い、業界全体の業務認識ハードルを上げてブラック企業化させる元凶ってことだね!

働き者の皮を被った害悪な人間だね。

え?

そのままじゃ通じないのか。

何か言いましたか?

私がいないと、実は会社が回らないんですよ!

分かりますけどね。

しかし、男女の会話の食い違いがこんな所に。

何故だ。

脳構造が違うという事かな?

女性は堂々巡りで、男性は飛躍するよね。

それは私も分かっていたけど、目線の距離の問題だね。

これはゲンシヨウなどは関係しない、また別の付帯質の回転の違いだよ。

飛躍している?

何が?

端折りすぎだよ。

考えていることの全てが相手に伝わっていると勘違いしている現れだね。

誰にでも分かりやすく、丁寧懇切に少ししつこいと思うくらい説明を混ぜ込むようにすると、改善への道が開くよ。

そんな……。

きみはそんな事を考えて生きてきたの?

その通りだよ。

言葉の意味は7%も相手に伝わらない。

この事実に愕然とし、数多の融解現象の末にようやく編み出した姿勢だよ。

なんということだ。

分かった。

これは、他者マクロコスモスへの侵入だな。

なんて難しいんだ。

ここでミクロかマクロかの判断の分岐で、自分のヘヴ基数の度合いが測れるね。
……ソロネとの会話は楽しいですか?

いいなあ。

ぼくもヴァーチャーと直接話したい。

すみません。

自分だけ楽しんでいるみたいで。

いいんですよ!

あなたはミカエル〜ヴァーチャー〜ソロネの流れのお気に入りですからね!

甘やかされて、ずーっと甘やかされて育って来ましたから!

ほんっとにあなたは、ずーっと砂糖漬けにされて来たんですよ!

まさか……。

ぼくは砂糖をまぶすように育てられたって?

それはスバルちゃんが可愛すぎるからだよ。

お母さんはずっとメロメロだったよ。

知らなかったな。

やはり実感は大事だ。

気づかなかった。

申し訳ない。

あなたのお母さんは、お父さんの相手で手一杯だったからね。

ドミニオンも、どうしようもない甘えん坊だよ。

みんなそうだけどね!

甘えん坊?

まさか。

全く甘え足りないようだが。

羨ましいです!

あ!

早くミウラに魔王を倒させて、二人で帰りましょう!

西の茜の門を潜ればすぐです!

死ねますよ!

いいんですか?

乗っちゃいますよ。

不穏な流れだね。

またヴァーチャーに怒られると思うけど、仕方ないね。

次なる刺客を召喚するしかないか。

優秀な四人組が結成されたから。

四人組!

また私も駆り出されますね!

あ、でもヴァーチャーが一緒ならいいか。

早く会いたいなあ。

この人はずっと働かされっぱなしになるのかな?

ぼくは暫く休みたい。

鉱山作業の方がずっといい。

平和だ。

スバルちゃん。

スバルちゃんは素晴らしい銀鉱山を持っているけど、今後は掘削の技術が必要になってくるから、蛍石ちゃんに教えを乞うた方がいいよ。

そうでないと、シルバーアクセサリーの販売に支障が出るかもね。

シルバーアクセサリーですって?

あなた、ヴァーチャーにブローチをプレゼントしていましたね!

あんなに大事にされて!

羨ましい!

何故、あなたに才能が流れていったのか!

マッタク!

全く!

??

一体、何に怒っているんだ?

褒めちぎられ続けて生きる筈の運命が、みんなスバルちゃんに流れていっちゃったの。

ドミニオンは永遠に叱責され続ける運命を辿る羽目になっているんだよ。

まさか!

ぼくは永遠に、ソロネちゃんに褒められ続けて生きていくっていうの?

そんな、なんて運命が待っていたんだ!

本当です!

ぼくは永遠にヴァーチャーに憧れの眼差しを受けて生きていく筈だったのに!

あなたに!

息子のあなたに!

全て!

歓びを!

持っていかれた!

遠い血縁の父なんだよね?

本当のお父さんじゃないよね?

間接父ってとこかな。

あはれドミニオン。

お父さん道を極める事も出来ず。

う、あああああ!
事務室にドミニオンを悲しみの悲鳴が響き渡る。


一方、玉座の間では

「びしょ濡れ!禁断の人妻独り占め!〜背徳の快楽道〜」

というアダルトビデオを視聴する魔王スケアクローが、違う意味で絶叫していた。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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