第36話 滋養の天使

文字数 2,232文字

打倒・勇者ミウラ(の誘導)を掲げ、ドミニオンとスバルは緊急会議を開く事にした。


パソコン椅子に座りながら、ドミニオンが缶コーヒーを渡して話を始める。

最初の変身の、バットマンがありますね。

あれを着てミウラの前に現れ、挑発する、というのが私の案でした。

まんまと本拠地に誘導されたミウラは、そのまま魔王と対決します。

そこで私が裏工作を。

そうでしたか。

ぼくは色仕掛けでなんとかしようとしました。

ヘンゼルとグレーテルの、パンを撒くか光る石を撒くかを考えて。

ダウンロード履歴にルールーと項羽がありましたね。

手応えとしては?

項羽がドンピシャでした。

ミウラはバイの可能性が高い。

最低な男ですね。

まあ、スケアクローが対の存在になるくらいですから。

対の存在とは?
勇者と魔王は同時に生まれ、運命のライトパーソンとして対立しあいます。

どちらかが倒されるまで、ずっと対決しっぱなし。

運命の赤い糸で結ばれているのですよ。

血に染まった糸の、ね。

なるほど。

気持ちの悪い縁だな。

相手が変わることはありますか?

いえ。

ヒューマノイドとしての見た目が変わっても、霊魂はずっと結ばれたままです。

永遠に戦いが続きます。

どちらか片方が堕ちるか、アセンションするとパートナー解消となりますが。

ということは、前任の魔王ワタルの対立相手はミウラではないと?
ええ。

勇者アイビと言いました。

女性の方でした。

刺し違えで亡くなりましたが。

妲己の霊魂と対になっているのは達王だよ。

酷い関係性だね!

下層同士の骨肉の争いということか。

このくだらないバカシアイの補助を行うのがぼくたちの仕事……。

いえ。

みんなの仕事です。

今回、スバルさんは修業の為にこの仕事を試練として架されましたが、本来君はアイドルとして活躍すべきなんです。

ミウラやスケアクローが足元にも及ばぬような華やかな舞台で、彼らの財産が空になるまで貢がせる勢いで活躍しなければならないんです。

なんてことだ。

確かにぼくは、過去にアイドル業で同じことを何度も繰り返した。

ファンの子に呆れ返るほど貢いでもらった。

それで、何か恩返しをとずっと考えていて。

スバルちゃんに出来る恩返しは、芸と美を磨くことだね。

一目見ただけで鼻血の噴水を吹き出させて昏倒させる程の美しさと芸の高さを見せつけないといけない。

ファンを芸と容姿だけで喜ばせられないことがイコール罪になるレベルだよ。

スバルちゃんは孤高の存在でなければならないんだ。

なんということだ。

やはり向上心。

ぼくは中途半端な人気で、それで良いと思っていて甘んじていた。

もっとだ。

とことん美しく、芸達者になろう。

グッ。

本来、それがぼくの仕事になる筈だったのに。

やはり駄目だ。

諦めよう。

……。
なんですか、その目は!

今はこんなヲタクみたいな容姿をしていますが、真魂の姿になれば私だって!

そうでしょうね。

弥勒なら間違いなく。

しかし……。

現実は残酷だね。

全部、全部持っていかれて。

残ったのはヴァーチャーの独占権だけ。

独占権ですって!

ああ、頑張ろう。

もっと頑張らないと、独占出来ない。

ソロネちゃんの声、ちゃんと聴こえているんですね。

恐るべきパーメットスコア。

姿も何となく、ぼんやりと見えます。

項羽はソロネの前の姿にそっくりなんですよ。

恐るべき美貌の持ち主でした。

……タラシっぷりもですか?
タラシかどうかは分かりません。

ただ、何故かモテます。

わかりますよ。

ソロネちゃんは可愛いので。

スバルはゆっくりと噛みしめるように缶コーヒーを含んだ。

天然水の柔らかい甘さが、コーヒーのアロマティックな風味と相乗効果にて高められ、驚く程の旨味が引き出されているものだった。


スバルは少し驚いて缶コーヒーの外装を確認する。

覇道コーヒーと書かれたそれを見た後で、再びドミニオンに視線を戻した。

兎に角、ミウラを呼び寄せる方法ですが……。
ミウラは美容整形に興味を持っています。

チラシや割引クーポンでもチラつかせて、ここまで誘導すればいいんじゃないですか?

それが彼にとっての光る石ですよ。

美容整形?

彼、そんなにブではないでしょう。

モテますし、女の子には困らない筈です。

何故そんなことに。

ミウラは顔への執着が強すぎるんだよ。

水星の超越が出来ていないの。

あの顔に少しでも傷がついたら死ぬ程悩むし、ニキビ一つで町を一つ破壊しかねないよ。

……なんで?

流石のぼくでも、そこまでじゃないよ。

そんなに脆いの?

脆いも何も、吹けば飛ぶようだよ。
そういうものです。

クトゥルフですので。

クトゥルフ……。

口程にもない。

チャチャッと誘導して、早くお家に帰ろうね。

スバルちゃんは既にこの世界の課題はクリアしているよ。

ちなみに、ノボルちゃんはとっくの昔にエル・カンターレに帰ったよ。

ノボルが家に帰ったって?

早く言ってよ。

本当にこの世界の仏門を叩いたのだとばかり……。

この世界の仏門全般、サンスクリットが採用されていて手の施しようがなかったんだって。

つまり程度が低過ぎて。

サンスクリット語は反転の文字だから、ノボルちゃんは逆立ちしても見たくないって言ってるみたいだよ。

サンスクリットですか。

やはりだめですね、この世界は。

これに気付いたから、きっとヴァーチャーも帰宅を許してくれるでしょう。

二人は溜息を吐いて、玉座の間を覗き見る。


魔王スケアクローは今度は

「イケイケ!鶯谷より川崎美女!嗚呼無常!」

という表題のアダルトビデオを鑑賞し、大いに盛り上がっていた。


スバルとドミニオンは顔を顰め、先程よりも大きな溜息を吐いた。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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