第3話 辛口の天使

文字数 2,017文字

いつもなら出現後1時間以内にソロネは煙のように消えてしまうが、魔導書による召喚後は全くその気配はなかった。


ソロネは優しい笑顔を向けてスバルに話しかける。

魔導書の効力が切れるまで、ずっとスバルちゃんのそばにいるね。

他の人には私は見えないよ。

スバルちゃんにだけ姿が確認出来るから。

二十四時間戦います。

それって、お風呂やトイレの時も?
プライベートは死守するつもりだよ。

その時は外で待ってるね。

それなら安心だ。

寝るときは?

添い寝を求めるなら添い寝するよ。
毎晩添い寝してくれる?
いいよ。

今日は、学校を休んじゃった分を取り戻そうか。

スバルちゃん、手を出して。

スバルがそっと手を出すと、ソロネは白い手を差し出す。

金属製のカチューシャが彼に渡った。


幾つもダイヤモンドがあしらわれた、見事なティアラだった。

これは睡眠学習装置だよ。

これでスバルちゃんは、アカシックレコードの全ての内容を丸暗記出来るよ。

学校のお勉強なんて目じゃなくなるね。

ねえ、凄すぎない?

あまりにも突飛で、驚きを通り越して腰が引けてしまうんだけど。

このくらい出来ないと、スバルちゃんは今後苦労するだけになっちゃうよ。

この世の叡智の全てを手にして、それから応用力を身につけようね。

最低限このくらいの努力をしないと、スバルちゃんには未来がなかったよ。

ぼくの未来、どれだけ暗かったの。
鉱山での強制労働生活なんて生易し過ぎる、恐ろしい奴隷人生だったよ。

カマは掘られるし、日々消耗するだけで全く利はないし、全てを失ったにも関わらずスバルちゃんは海の藻屑にもなれずに、今よりずっとずっと苦しい環境に身を置くことになっていたよ。

あわわ。

そんな。

ネリア……。

本当にありがとう。

ソロネちゃん、よろしくお願いします。

スバルはカチューシャを装着し、そのまま椅子に座り込んだ。

頭の中にあらゆる知識が入ってくるといった感覚はないが、何故か目の前のテーブルは木製ではなく実は合成樹脂製である、と理解が可能となった。

このテーブル、無垢材じゃなかったの?

合成樹脂って……。

それは量販店で購入したものみたいだね。

既に丸暗記は終わったよ。

カチューシャはそのまま手に持っておいてね。

アカシックレコード本体の更新が有った時にまた装着して、最新情報を取得していこう。

いいの?

ぼくはこんな、特別待遇みたいな扱いを受けて。

今後、シュリヤントラ・コロニーにおける御経綸組にスバルちゃんは仲間入りするから、生まれながらに背負った星を輝かせ続けないと、永遠に竹槍の雨の中を歩くだけになるよ。

このくらいのテコ入れは当然だよ。

高貴な身分に生まれた自覚を持とうね。

それは褒めているのかな?

分かった。

ぼくは美しい星に生まれたんだね。

星の輝きの突起部分✩は乱視によるものだから、スバルちゃんは乱視を治そうね。

本来、星は丸だよ。

丸い心を持とうね。

約束だよ。

そういえばそうだね。

視力が良くなるかな?

いつも眼鏡をかけてるけど、実は両目5.5でね。

この眼鏡はお洒落なんだ。

乱視とは、心眼の話だよ。

スバルちゃんは少し、物の見方が歪んでいるかな。

可愛い四天王に所属するために、その歪んだ思想は取り払わないといけないよ。

可愛い四天王とは!?

分かった。

ぼくは先入観だらけの偏見大魔王なんだね。

もっと心根を真っ直ぐにするよ。

しなやかな、柳のような心であろうね。

いつだって真理は、真っ直ぐなようで曲がりくねっているから。

本当の意味で真っ直ぐ突き進める心だね。

なるほど。

そういう話がアカシックレコードにあるようだ。

しかし今のぼくには難しくて理解出来ない。

点質からなる幾重にもなる円の回転に添うために、そのままではいられない?

応用力が高いみたいだね。

スバルちゃんは素質あるよ。

大丈夫。

ゆっくり学んでいこう。

ぼくは最終的に、何になるの?
希望の星だよ。

みんなが憧れる大スターだね。

なれるよね、スバルちゃん?

本当に?

うん。

大スターになるね。

なろうね。

絶対だよ?

スバルは信じられない想いでソロネに視線を向ける。


自分が希望の星の、可愛い四天王に所属する大スターになる?


それだけで心は春のようになって、スバルは高揚する精神を落ち着けるのに精一杯だった。

どうしよう。

ぼく、調子に乗りそうだけど。

そこまで自覚出来れば大丈夫だよ。

徐々に馴染ませて、落ち着きを得ていこう。

クラスメイトくんの煽り程度で動揺しないように。

カンタのことかい?

あいつは何なんだ。

融解現象からなる小我の発生と、六次元真理のリボーン・アクセントオブフューチャーが起こっているよ。

つまり、スバルちゃんの悪いところを的確に指摘してきているの。

ぼくは普通科だが、魔法の成績が中の中だといけないのか。
スバルちゃんは、常に成績トップであることが求められているんだね。

希望の星だからね。

なんでも出来るようにならないとね。

向上心の欠如があったか。
二人のやりとりは、朝方まで続いた。


就寝時間が遅れた為、添い寝の時間は30分だけとなった。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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