第7話 提案の天使

文字数 1,894文字

翌日、学校に登校するとノボルの姿がなかった。

スバルは首を傾げながら席につく。

珍しいな。

ノボルが休むなんて。

ノボルちゃんは就活の面接に行ってるんだよ。

スバルちゃんは進路を決めた?

就活?!

しまった。

ただぼんやりと過ごしていて、ぼくは将来について何も考えていなかったよ。

進路希望の紙に何も書いていなかったね。

これじゃ、雪月花を超越できないよ。

なんということだ。

ユーチューバーにでもなろうかな。

私と一緒なら、きっとネタには困らないよ。

方向性を決めるのが難儀かな。

元ジュニアアイドルとして活動するのは限界がありそうだが、一応は名も売れているしなんとかなりそうなものだけどね。
実を伴わないと、イタいだけだよ。
わかってる。

どうしたものか。

今になって焦りだすとは。

スバルは暫く焦った気持ちになっていたが、カバンから音楽プレーヤーを取り出すと、イヤホンをセットしてヘビメタルを聴き始めた。


すると、心が少しずつ落ち着いていった。

ヘビメタ療法は程々にした方がいいよ。

これが効く人は、大麻でラリるような精神性の持ち主だよ。

そうかもしれないね。

ぼくはエディブルを食べたら多幸感に包まれたから、クズの素質があるのかもしれない。

褒めて伸びる人間だよ。

エディブルも、作って配れば人気者になれるよね。
あ!

昨日作ったクッキー。

ファンクラブの子達に配らなくちゃ。

ファンクラブにエディブルを配ったら、組織が宗教化するよ。

スバルちゃんはそれで過去に何度も刺されているから、辞めたほうがいいね。

怖いこと言わないでよ。

ぼくはもう危険な橋を渡るのは辞めるから。

クッキーは、日頃の感謝の気持ちとして配るね。

また勘違いされちゃうよ。

それで入れ食い状態になって、何回梅毒を感染された?

鼻がもげるまでにはいかなかったけど。

そうか。

勘違いされちゃうのか。

適度に塩対応した方がいいよ。

そのクッキーは、クラスメイトと先生に配るのはどうかな?

先生に賄賂じゃないけどね。

良い考えだな。

職員室に持っていこう。

スバルは時間を確認し、すぐにお菓子を持って職員室へと向かった。



お世話になっている教諭に感謝の気持ちを伝え、クッキーの包みを配布していく。


教師一団の表情が徐々にほころんでいくのが見て取れた。

これで多少は待遇を甘くしてもらえるといいね。
根回しになってしまったか。

まあいい。

損はないだろう。

教室に戻ると、カンタがスバルの前に躍り出てきた。
おい!

今日は何曜日だ!

水曜日だ。
ということは、勇者伝説ミ・ウ〜ラは明日だな。

サンキュー!

お前カレンダーとして優秀な!

勇者伝説?

アニメかな?

それよりカンタ、クッキーは好きか?

ほら、あげるよ。

お、クッキーか!

なんだチョコチップじゃないのかよ。

こんな気取ったクッキー焼きやがって、お前それでも男かよ。

いらないならいいんだ。
誰が要らないと言った!

食ってやんよ!

おら!

寄越せよ!

カンタは乱暴にスバルの手からクッキーの包みを奪い取ると、そのまま教室の隅の席へと向かっていった。


スバルは半目になりながら、自分の席につく。

落ち込まないで、スバルちゃん。

あれが天邪鬼だよ。

素直さの欠片も存在しない、一歩間違えると永遠に地獄の業火に放り込まれていた、存在そのものがクズの典型的な在り方だよ。

勉強だと思って受け止めていこう。

随分とはっきりモノを言うね。

ソロネちゃんは気にしないの?

スバルちゃんの成長に認識を合わせた回答をしているよ。

あんなのに気を取られることそのものが不毛であり、いちいち気にする価値もないという心を根底に置いて、その上で無難で柔和な態度を心がけていこうね。

世渡りの秘訣だよ。

流石にそこまでの達観は難しいよ。

しかし、無視は得意だ。

笑って流すしかないんだね。

あまり私もこういう言い方はしたくないの。

スバルちゃんの成長に期待するね。

良心が痛むなんてこともあるの?
あるよ。

先の暴言は、星としての態度にあるまじき粗暴なものだよ。

もっと丸く生きようね。

乱視の輝きを自覚しよう。

天使だね。

分かった。

ソロネちゃんの態度は勉強になった。

ぼくも、そう。

三枚舌でいくね。

そうだね。

天使でいるのも罪深いものだよ。

その言葉は粗暴だと思うよ。

ぼくは学んだ。

流石スバルちゃんだね。
意気投合したような空気になったが、先程の会話はスバルにとって喧嘩に思えた。


アカシックレコードに載っていた「正しい心理戦の行い方」という本の内容を当て嵌めていくと、最上級のバトルの例の項目と合致したからだった。


心理戦なるものに一種の憧れを抱くこともあったが、思うようなものではない事を身に沁みて理解する。

人類の知能の頭打ちは案外遠くない事を、何となくだが自覚したのである。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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