第27話 屈辱の天使
文字数 2,075文字
翌日、スバルは早速項羽に変身し、勇者ミウラを迎え撃つことにした。
タカトウ高校の門前にて待機する。
項羽の姿を見た生徒たちは黄色い声を上げ、彼に山程のプレゼントを渡した。
両手に持った紙袋に、山程の贈り物が詰め込まれている。
まさかと思うが項羽は伝説のネコだったのでないか、という疑惑が脳裏をかすめた。
彼女三人に囲まれながら、勇者ミウラはゆるゆると正面玄関から現れた。
ふと彼は項羽扮するスバルに目を留め、やがて会話を止めて立ち止まる。
流石に本人の名を名乗るのは良くないと思い、咄嗟に偽名を使った。
ミウラは小さく降雨、と呟き、彼女を押しのけてスバルに近付く。
ミウラは自分周りの三人の彼女を少し邪険気味に返すと、即座に項羽の手を取った。
スバルは少し引き気味に、ミウラの手をすり抜ける。
軽い足取りのミウラ後に続きながら、スバルは三人の彼女に軽く会釈すると重い足取りで歩き出した。
気付かれないように、こっそりと溜息を吐く。
やがて二人はサイゼに到着し、窓際の席に着いた。
メニュー表を手に取ると、ミウラは一人で確認を始めた。
スバルは注文が確認出来なかったが、ドリンクバーを頼むだけにすることに決めた。
(試し行為ってこともある。これでぼくが卑しく彼のメニューの所有権を主張しようものならミウラは酷く激昂するだろう。昔所属していたアイドルユニットでそういう事があった。ポテトを一本貰っただけで酷く責め立てられたよ)
ミウラは定員を呼び、セットやデザートなどを大量に頼んだ。
サイゼリヤは値段が良心的ということで、注文の敷居が低くなる。
それ故、異常な量を注文していた。
運ばれてきた料理を豪快に食べるミウラを見ながら、スバルはチビチビとお冷を含む。
ミラノ風ドリアのチーズの香りが食欲をそそり、注文欲を必死に我慢しつつ拳を握りしめる。
これは、アクセント・リボーン・パストと言って、トラウマとなった経験が忘れた頃に波のように押し寄せてくる現象だよ。
スバルちゃんはプリンスの時代に謂れもない我慢を強いられたんだね。
その負の念が、いつの間にか現れるんだね。
抜けるには、古い修業を抜けて新しい修業を始めるしかないよ。
スバルはお冷の中の氷を眺めながら、男社会に於ける強弱の在り方をぼんやりと考えていた。