第27話 屈辱の天使

文字数 2,075文字

翌日、スバルは早速項羽に変身し、勇者ミウラを迎え撃つことにした。


タカトウ高校の門前にて待機する。


項羽の姿を見た生徒たちは黄色い声を上げ、彼に山程のプレゼントを渡した。

なんでこんなにモテるんだ、項羽は。
両手に持った紙袋に、山程の贈り物が詰め込まれている。


まさかと思うが項羽は伝説のネコだったのでないか、という疑惑が脳裏をかすめた。

項羽は、天草四郎時貞とか森蘭丸とかジャコモ・カサノバとか……。
恐ろしい男だ。

そんなにイロを振りまいていたのか。

あの色気はある意味誰も真似できないね。
ぼくはそんな勇気が持てない。

モテるけど、カマを掘られる気概は持てない。

とんでもない勇者だ、項羽は。

本人も、溢れんばかりの色気に随分悩まされたようだよ。

あ、ミウラが出て来たね。

彼女三人に囲まれながら、勇者ミウラはゆるゆると正面玄関から現れた。


ふと彼は項羽扮するスバルに目を留め、やがて会話を止めて立ち止まる。

あ……!

きみは?

えっと。

こんにちは。

こうう……。

あの、降雨といいます。

流石に本人の名を名乗るのは良くないと思い、咄嗟に偽名を使った。


ミウラは小さく降雨、と呟き、彼女を押しのけてスバルに近付く。

きみほど美しく素晴らしい人は見たことがないよ。

これからお茶でもどう?

えっ。

いいんですか?

ミウラは自分周りの三人の彼女を少し邪険気味に返すと、即座に項羽の手を取った。


スバルは少し引き気味に、ミウラの手をすり抜ける。

そこのドトールにいかない?
ドトールは嫌です。

サイゼにしませんか?

サイゼか。

きみはよく分かっているね。

行こう。

僕はミラノ風ドリアが食べたくなった。

……。
軽い足取りのミウラ後に続きながら、スバルは三人の彼女に軽く会釈すると重い足取りで歩き出した。


気付かれないように、こっそりと溜息を吐く。

男同士の関係性の中でも最も醜い部分に当たったね。
(分かってくれる?ぼくもこういう扱いを沢山受けて、本当に辟易しているんだ。心が腐りそうだよ。)
この扱いが最高に気持ち良いと思う人もいるんだよ。

スカッと系に入れる人さえいるよ。

(何に対してスカッとするんだ?よく分からない)
過去の経験との照らし合わせだね。

物語そのものに共感することは滅多になくて、大体は自分の経験との照らし合わせで共感を覚えるよ。

この扱いにスカッとする人は、ミウラの彼女に恨みを持つ人だね。

女嫌いとか。

(思いつきもしなかったよ、そんなこと。そんなに世界は病んでいるのか)
やがて二人はサイゼに到着し、窓際の席に着いた。

メニュー表を手に取ると、ミウラは一人で確認を始めた。

スバルは注文が確認出来なかったが、ドリンクバーを頼むだけにすることに決めた。

降雨くんは何を頼む?

ぼくはガッツリ食べちゃうけど。

私はドリンクバーだけで充分です。
ドリンクバーだけで頼むと高くなっちゃうから、ぼくの注文との抱合せにするね。

いいかい?

構いません。
ケチだねえ、ミウラは。

それとも頭が回るのかな?

(試し行為ってこともある。これでぼくが卑しく彼のメニューの所有権を主張しようものならミウラは酷く激昂するだろう。昔所属していたアイドルユニットでそういう事があった。ポテトを一本貰っただけで酷く責め立てられたよ)
酷い目にあったね。

とても高貴キャラのすることではないね。

(よく知ってるね。そう。高貴をモチーフにしたアイドルだったよ)
すみません。

やはり私はお冷だけで充分です。

ドリンクバーはキャンセルで。

お腹が空いていないので。

あ、そう?

分かった。

そうするね。

ミウラは定員を呼び、セットやデザートなどを大量に頼んだ。

サイゼリヤは値段が良心的ということで、注文の敷居が低くなる。

それ故、異常な量を注文していた。

(長くなったレシートを見て、こんなに頼んでもこれだけ!とか言いたいんだろうな)
サイゼあるあるだね。

行ったことないけど。

サイゼは滅多に来ないね。
そう?

嬉しいな。

僕はしょっちゅう来るよ。

ミウラさんは、どんな剣技を扱うんですか?
剣技かい?

オリジナルが多いね。

星将圧勝剣とか。

神鬼蕾鳴剣とか。

ぐっ。

それは一体、どんな技ですか?

ふ。

食べ終わったら、近くの空き地で技を披露してあげようね。

運ばれてきた料理を豪快に食べるミウラを見ながら、スバルはチビチビとお冷を含む。

ミラノ風ドリアのチーズの香りが食欲をそそり、注文欲を必死に我慢しつつ拳を握りしめる。

痩せ我慢だね。

これが終わったら、美味しい物を食べに行こうね。

イタリアンがいいね。

(酷い苦行だ。こんな苦しみはとっくに抜けたと思っていたのに、またこんな想いをする羽目になるなんて。)
これは、アクセント・リボーン・パストと言って、トラウマとなった経験が忘れた頃に波のように押し寄せてくる現象だよ。

スバルちゃんはプリンスの時代に謂れもない我慢を強いられたんだね。

その負の念が、いつの間にか現れるんだね。

抜けるには、古い修業を抜けて新しい修業を始めるしかないよ。

項羽もまさか、こんな想いを?
なあに?

僕に惚れたの?

仕方ないね。

いえ……。
スバルはお冷の中の氷を眺めながら、男社会に於ける強弱の在り方をぼんやりと考えていた。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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