第4話 確証の天使

文字数 2,097文字

スバルとソロネは、共に並んでマルテラス魔法学校へ登校した。


ソロネは巨大な羽根と金色に輝く光輪を背中に背負っていたが、誰一人として彼女に気付く者はなかった。

本当にソロネちゃんの姿は誰にも見えないみたいだ。
スバルちゃん、私との会話の時は周りに気を付けようね。

まるで独り言みたいに見えるから、どう捉えられても差し支えがないようにお話しようね。

うん。

気を付けよ。

そのまま教室に入っていき、スバルは席に付いた。

教科書類を確認すると、全ての内容が理解が可能となっており、スバルは優越感に浸る。

なんでぼく、こんな簡単な問題が理解出来なかったんだろう。
問題の趣旨が理解出来ていなかったんだね。

数学は全て幾何学の為に存在し関数を前提として考えると、こんがらがった糸が何もかも解けていくよ。

ここではいやらしいひっかけ問題がないから、何もかもが空気のように感じられるね。

あんなに難しかった問題が空気とは……。

まだそんな風には思えない。

そのうちぼくもそうなるかな。

慣れだね。

ほら、この教科書に誤植があるよ。

これは何かの神霊メッセージとも読むことが出来るね。

シリウス言語を駆使して読み解けるようになろうね。

なるほど……。

唐変木が書いた、と読めるな。

何が唐変木だって?
スバルが教科書の誤植から神霊量子の歪を読み取った途端、クラスメイトのノボルが話しかけてきた。


彼は眼鏡三兄弟と呼ばれる奇人変人組の長男と言われていた。

いや、唐変木とはどういう意味だ?
それは、元々中華領域に存在した故事なんだ。

木偶の坊という意味さ。

ノボルは相変わらず博識だな。

凄く頭がいいよね。

当たり前だろう。

ぼくだぞ?

そう、だね。

その自信はどこからくるんだ?

経験則さ。

ぼくは間違えた事がないんだ。

今迄生きたその中の絶対的な正解が積み上がった先に、ぼくという存在があるのだよ。

ぼくは釈迦如来をも超越しているのさ。

釈迦如来だって?

……それは凄いな。

弥栄よりも上だって言うのかい。

その通りだ。

故に、ぼくは全てを扱う事が出来る。

何もかもが許される存在だよ。

スバルちゃん、この人の言っている事は間違いないよ。

確かに釈迦如来を超越しているよ。

釈迦如来か……。

そこまでの到達にはどうすればいいんだ?

スバルには無理だ。

お前はウスノロのトンチキだ。

気付きが遅過ぎた。

永遠にお前は阿羅漢のままさ。

ぐうの音も出ないようだ。
いつもならノボルに食ってかかるところだが、今日のスバルは違った。

ソロネによる助言と確定的な返答により、ノボルの言葉に対して疑問と嫉妬を抱くことなく、心の距離を保つことで冷静に対処が可能となった。


スバルはいつもノボルと喧嘩し、彼に返り討ちにあっていた。

今日のお前はやけに物分りがいいな。

その気持ちを忘れない事だ。

ぼくに勝とうなんざ未来永劫無理だと言うことを、心根によく叩き込んでおくといい。

流石にスバルは眉を寄せたが、ソロネの存在を思い出して小さく頷いた。

苦虫を噛み潰したような顔で、筆箱のチャックをあける。

今迄ノボルに対して反抗的な態度に出た事を謝罪するよ。

お詫びに練り消しでもどうだい?

練り消しか。

貰っておこう。

彼はオレンジの香りの練り消しを受け取ると、爽やかな秋の風のように颯爽と去っていった。

教室の一番前の席に戻り、静かに席に着くと練り消しを練り始める。


その様子を、スバルは少し不機嫌な様子で見つめていた。

いかんな。

ぼくの心に、やましいものがあるようだ。

なんてことだ。

さっきの会話でそれに気付くなんて、スバルちゃんは本当に凄いね。

本来なら、五億六千七百万年の月日と幾億もの輪廻を繰り返しても気付けないよ。

ノボルはそんなに凄いやつだったのか。

ぼくは見る目が無さすぎたな。

スバルは反省し、全ての教科書に目を通した。

ノボルは授業中に爆睡し、大鼾をかいていたとて、指名されると即座に問題を解いていた事を思い出す。


彼もまた、超人的な理解力と膨大な知識を蓄えていたことが今なら分かる。

ノボルもアカシックレコードの情報を全て暗記しているのか?
ノボルちゃんは、アカシックレコードの内容を自らの力で得ていった経歴があるよ。

やっぱりスバルちゃんは、逆立ちしても彼には敵わないね。

ぼくも随分知識を得るのに積極的だったと思うんだがなあ。

上には上がいる、か。

スバルちゃんは、半グレ領域の開拓に一生懸命だったね。

ノボルちゃんは高学歴の中の高学歴。

インテリマスターだよ。

半グレ?!

薬中になったり、スプタンをしたりすることが?

スプタンはともかく、ヤク中はね。

酔ったの?

いや、精神薬をね。

全く効かないという事もなかったけど、狂わなかったなあって。

みんなが良いというからやってみたけど、気持ち悪くなっただけで。

心底落胆したよ。

アイスだね。

それは酔わないよね。

頭が壊れるだけだよ。

スバルちゃんは元々冷静だったんだね。

スバルははたと周囲を見回し、誰もこの会話を聞いていない事を確認した後で頷いた。


スプリットタンの経験や覚醒剤酷似成分の乱用などをクラスメイトの耳に入れる訳にはいかない。


チャイムの音と共に、スバルはある種の優越感と落胆とが入り混じった感情に翻弄されるのを、グッと我慢していた。

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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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