第9話 恐怖の天使

文字数 2,154文字

ネリアにプレゼントをしたい。

何がいいかな。

スバルは彼女のネリアに贈り物をしようと考えていた。

わざわざ自分の為にソロネを呼び出す魔導書をヤフオクで落札してくれたのだ。

しかも初落札だというのだから、恐らく目的の商品発見後にアカウントの作成をしたのだろう。


そこまで手間をかけてくれた彼女に、感謝の意を伝えないという選択肢はなかった。

ネリアちゃんはなんでも喜ぶと思うよ。

手作りのお菓子とか。

やはりシュークリームにしようかな。

苺とピスタチオが乗ったやつ。

ぼくも食べたいのもあるけど。

凄いね、スバルちゃん。

コージーコーナーみたいなシュークリームが焼けるの?

なまらでかいのが良いよね。

なまらでかいシュークリームか。

いいね。

材料を買ってくるか。

この間の岐阜県産無肥料無農薬の小麦粉は使わないの?
北海道産にしようと思う。

ここはなまらでかさを意識してね。

ピスタチオは新鮮一番だから生産地に飛行機で直に買いに行きたい。

飛行機に乗るの?

魔法でひとっ飛びでいいんじゃない?

ぼくはまだ空を飛ぶ魔法を会得していないんだ。

航空整備取り扱いの免許も取っていないし。

水中歩行魔法は使えるかな?

水上でも良いよ。

教えるから。

あ!

水上歩行魔法を使って、ナナハンでエクアドルまで走りたいな。

是非教えてよ。

魔法を覚えるには、このカチューシャを身に着けてね。

それだけで、全ての魔法が扱えるようになるよ。

魔力切れには気を付けて。

でも、エクアドルまでピスタチオを買いに行くの?

私は地産地消をモットーとしているの。

個人的には、近所のスーパーにお金を落とすのをお勧めするなあ。

そう言いながら、ソロネは小さなサファイアが幾つも散りばめられたカチューシャを差し出した。

スバルは少し躊躇しつつ、カチューシャを受け取った。


身に付けると何の体感も無かったが、少し念を込めただけで指先から炎が発生するようになった。


炎を眺めた後、スバルは小さく頷く。

やはり近所のスーパーでいいか。

それにしても凄い。

こんなに簡単にライターの火みたいな炎を出せるなんて。

ぼくはゴミ捨ての魔法しか使えなかった。

投げたゴミが100%ゴミ箱に入る魔法さ。

魔法力が低いから、あとは座学で誤魔化していたよ。

プレート記憶が出来るなんて、逆に凄いね。

スバルちゃんのその魔法は、いつか世界を救うよ。

希望の星だね。

スバルちゃん、魔法を使う前にはカッコつける必要があるの、知っている?

ゴミ箱魔法がいつか世界を救う?

よく分からないし、カッコつける必要があるのも知らなかった。

無詠唱でいいんだよね?

無詠唱でもいいよ。

でも、魔法の前には何か動きを取り入れようね。

本当にその魔法を使っていいかどうかを考える余地を作るんだよ。

無詠唱でも、術キャンセルという選択肢を設けるの。

そんなに覚悟を決めて魔法を扱うの?

重いんだね、魔法って。

スバルちゃんは将来、魔法がうまく使えなくて何度も命を落とすの。

そして見た目が美しいという理由で、骨まで食べられちゃうんだよ。

肉体を食べればその美しさを手に入れられると本気で思い込んでいる、安直で野蛮な人間社会の中で生きる事を強制されるところだったの。

そのカチューシャは永遠に持っていてね。

魔法を少しでも極めていこうね。

なんて未来だ。

分かった。

魔法を極める。

ポージング研究もするよ。

だけど、どうしてそんなことになるの?

お家に帰れなくなっちゃうからだよ。

ヒルの王に囚われて、そのまま奴隷化されるの。

自分がなさすぎるのが理由で。

スバルちゃんはエーテル回転を、ブレが無い強固なものにしていかないと、未来は暗いよ。

涙が出そうな話だ。

ネリアに深く深く感謝しよう。

勿論、ソロネちゃんにも。

シュークリーム食べられる?

残念だけど、シュークリームは食べられないな。

実体がないから。

可愛い四天王として元気に活躍して貰う事が、私の何よりの喜びだよ。

なんて天使だ。

すぐに魔法の練習をしよう。

それと、スーパーに買い物へも。

スバルは買い物リストをメモしながら、少し考え込んでいた。


自分はどうやら、途方もなく勘違いだらけの阿呆なのではないかという疑惑が益々強くなっていた。


ペンを持つ手が震える。

ソロネちゃん。

きみはぼくを見捨てたりしないよね?

ずっと一緒にいるよね。

勿論だよ。

救えるギリギリラインまで救いに行くよ。

でも最終的に自分の進路を決めるのはスバルちゃんだから、スバルちゃんにはどうしても銀の心を持って貰いたいな。

清く美しくいい子だともっといいな。

清く美しくいい子って、なんだ?

ぼくは清くはないけれど、美しいしいい子だと思うよ。

残念ながらいい子ではないんだな。

勘違いをして、いい子のつもりの悪い子になることがあるよ。

自由なつもりで全く自由ではない時間は終わりだよ。

スバルちゃんは、宇宙最高の美しさと徳の高さを得ていこうね。

宇宙最高は言い過ぎだと思うよ。

でも努力するよ。

いい子にもなる。

徳ってどうやって上げるんだろう。

徳は、トーラス回転に上手く乗ることで自然に上がっていくけど、自分の身の回りの環境を大事にすることでかつてない程に爆上げするよ。

真の意味の優しさを周囲にアピールしていこう。

地産地消もその一つか。

分かった。

地域貢献の為に尽力しよう。

メモを書ききると、スバルは丁寧に折りたたんでカバンに仕舞い、ソロネと共に家を出た。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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