第5話 辛辣の天使

文字数 2,064文字

全ての授業内容が空気のように感じられる事があるのか?

スバルはそのような意識を以て通常通りに授業を受けたが、まるで空気のようには感じられなかった。


何かもっとほかの、重要な要素を悟る事が出来、いつもより授業が楽しく充実したように感じられる。

(何故だ? 叡智の扉が開いていくようだ)
表面上の学問の理解の更にその先にある叡智領域に到達したようだね。

物凄い吸収力と判断力だよ。

スバルちゃんは、ホントに凄いよ。

(叡智とは? 知識とは一体、なんなんだ……。)
授業の内容を当然のように理解した上で、真のアストラルの持続の断片を感じ取る事が、叡智の扉を開くコツだよ。

アストラルには色々あって、スバルちゃんはいつも紫の道を歩いていたね。

今度は赤い道を歩いていこうね。

(ぼくは今迄、何を見て生きてきたんだろう)
滞りなく授業は終わり、スバルは過去の自分を振り返っていた。

ジュニアアイドルとして、モデルに歌にと活躍してきたが、自分の実力不足を感じ、静かに恥じ入った。

顔だけだったねえ。

表面上の美しさだけで世を渡り歩いていたねえ。

耳が痛いようだが、その通りだ。 

しかし美しさを識っていることも必要だと思うんだが。

あなたも大概だね。

間違いなく弥勒だわ。

弥勒の下から3番目だね。

下から?

三番目?

ぼくが?

順番はあまり関係なくてね。

とにかく、スバルちゃんには使命があるの。

可愛い四天王として世に君臨するという、絶対に外すことが許されない運命だよ。

嬉しいけど、自信がなくなってきた。

ノボルはどうなんだ?

可愛い四天王とは?

ノボルちゃんは、そもそも勘定に入れることすら畏れ多い存在だから、比較対象にするのは誤りだよ。

孤高の存在だからね。

自覚しようね。

お前ぇっ!

聞いたぞ!

可愛い四天王だとおっ?

スバルとソロネの会話を盗み聞いたカンタが、突然席の前に躍り出てきた。


スバルは動揺しつつ、冷静にカンタの姿を捉えた。


必死に言い訳を探す。

ぼくはジュニアアイドルをしていた。

その事は知っているだろう?

羨ましいぞ。

何がアイドルだ。

俺なんか、ビートルだ。

カブトムシ、だって?
スバルちゃんの甘い匂いに誘われて、深い安らぎに酔いしれる側の人間だね、カンタくんは。
ぶはっ。

ソロ、ちゃん。

追撃は辞め……。

ソロだと?

四天王だと言っていたじゃないか!

最近はソロ活動が多い。

しかし才能がないから辞めようと思うんだ。

お前ぇっ!

俺が何のためにお前に近付いたと思ってるんだ!

お前が、ユニコーン・ホーンのヴォーカルだっていうんで、入学時から喜び勇んでお前に付き纏い続けたんだぞ!

そんな理由でぼくにイチャモンをつけ続けていたの?
イチャモンだあ?

俺はお前の為を思って、最善最高のアドバイスを思いつく度に続けてきたんだ!

俺に感謝してほしいくらいだぞ!

イチャモンではなかっただって?

そうか……。

スバルちゃん、認識の差異が起こっているよ。

スバルちゃんにはイチャモンに感じても、カンタくんにとって日々の罵詈雑言が親愛の言葉だったんだね。

受け止め方の違いも意識した方がいいね。

ぼくはまるで、一人で生きていたような気がするよ。

自分の気持ちばかり前面に立てて、誰かの気持ちなんてこれっぽちも考えようとしなかった。

俺の俺の俺の話を聞けぇぇぇっ。

2分だけでもいいっ!

架した金のことなど、どうでもいいから?
凄いね、スバルちゃん。

シリウスの理解に到達しているよ!

スバルはタイガー&ドラゴンについて考え、カンタの罵詈雑言を半分程聞き流した。


あれ程迄鬱陶しかった彼の言葉が、耳に半分も入って来ない。


それはまるで、自動で内容を要約されているように感じられた。

あいつ、あんなに無駄が多かったのか。
とうとう都合の良い耳を手に入れたね。

本当に重要な音しか耳に入ってこない、チート能力だよ。

無駄だと?

俺は!

真理の扉を開いているんだぞ!

最高の最高の、最高の真言をひり出す事が出来るんだよ!

スバルちゃん、カンタくんは低次が過ぎて、一周回って究極真理しか話せないようになっているよ。

カンタくんの事が死ぬほど鬱陶しく感じても、邪険にしすぎるのはよくないね。

取り敢えず、親愛の印をプレゼントしてみたらどうかな?

親愛の印?

何があったかな?

あ、これとか……。

スバルはカバンから、樹脂製のタイルシールを取り出した。

タイル型の半立体のシールで、うさぎのイラストが描いてあった。

それを、そっとカンタに手渡す。

よかったら貰ってくれ。

カンタの好きなタイルシールだ。

おまっ、おまっ!

俺にタイルシールだとぉっ!

有り難く受け取るぜ!

さんきゅな!

飛び上がって喜ぶカンタの背中を見送り、スバルは小さく溜息を吐いた。


カバンの中のシールは、あと三組しかない。

またどこかで仕入れねばならんだろう。

ぼくは常にシールを持ち歩いている。

趣味もあるけど、大抵の人はシールを貰うと喜んで去っていくから。

気遣いの鬼だね、スバルちゃんは。

後でデートしよっか。

モスのココア、飲みたいね。

モスのココア?

最高に美味しいやつだね。

二人は和やかに会話を交わし、やがて学校を出た。

帰りにモスに寄り、贅沢に散財をした。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色