第14話 狩魔の天使

文字数 1,939文字

終業の鐘の後に、スバルとソロネは静かに下校をした。


いつもなら右折するところを、今日は左折をする。

マリナの家に行くつもりだった。

あんみつを食べる約束をしていたよね。
なんで知っているの?

見てたの?

うん。

少し見てたよ。

魔導書で呼び出す前から、ずっとそばにいたよ。

ずっとそばにいたって?

魔法陣で召喚したんじゃなかったのか。

あの魔法陣の儀式は真魂のキネツ体幹をほんの少し焼いて、スバルちゃんと私をタキオン傍受装置で繋ぎ合わせる儀式だったの。

つまり、その儀式でやっとスバルちゃんは肉眼で私を認知できるようになったというわけ。

その前から私はずっとスバルちゃんを見守っていたよ。

そんな事が……。

どこまでぼくを見ていたの。

まさか……。

プライベートは極力死守し続けたよ。

これはお母さんの意志だよ。

可愛いスバルちゃんが一人で生きていくのが心配で、あまりにも不憫で胸が張り裂けそうで。

なんということだ。

お母さんはそんなにもぼくの事を……。

だってスバルちゃんは、誰よりも寂しがりやで甘えん坊で。

そして、強がっているけど素直で。

常時という訳にはいかなかったけど、それでも極力護り続けていたの。

ぼくは本当は宇宙一幸せ者だったんだな。
スバルはポケットからハンカチを取り出し、涙を拭った。


寂しかった。

それは間違いのない事実。

しかし、どんなに見守られていたとて実感を伴わない事には心の寂しさが埋まる事はない。

そう考え、唇を噛み締めた。

ぼくは実利主義なんだろう。

目に見えるものしか信じられない。

それは誰にでも当て嵌まることだよ。

視、聴、触、香、味の五感全てを働かせた、結果としての相手を感じ取ることが出来ないのは辛い事だよ。

どれか一つでも存在しないことには、そこには誰も居ないのと同じだよ。

やっと会えたね、スバルちゃん。

なんだか難しいな。

五蘊?

そう。

五蘊。

六境や十二処などの微細な違いなどの面倒なことは省くけど、結局は自分の目で見て聴いて触れた物が世界の全てとなるよ。

霊体の場合、認知そのものが難しいけどね。

奥深い世界だな。

ぼくはその世界の理解に到達出来るのかな。

考えてみれば全て当然の事ともなるよ。

ゆっくり実感を得ていこう。

当然、というけどね。

無理だと思う。

最近見た、天王星の話でぼくは自信をなくした。

セフィロトにおける天王星の超越のこと?

それは人間道の入口だよ。

生き物としての自己を最高まで磨き続けるタオを意味するよ。

マジ無理ゲー。

ぼくは天王星の話は積みゲーにしておくね。

そんなに難しいかな?

あ、そろそろマリナさんのお家だね。

マリナの家は、高級住宅街の一角にあった。


青い屋根の、ペンションのようなお洒落な建物で、父の遺産の一部で自分で建てたものだった。


スバルは呼び鈴を押す。

こんにちは。

マリナさん。

あれ?

スバル。

どうしたの?

シュークリームとプレッツェルを焼いたんだ。

良かったら食べて。

本当に?

スバルの焼いたお菓子は大好きだから、嬉しい。

でも、ごめん。

今日は来客があるんだ。

再婚するの?
再婚はしない。

でも、良いやつと付き合っている。

トナというんだけど。

トナさん……。

いい人そうだね。

応援するよ。

それじゃ、また来るよ。

お菓子の包みを渡すと、スバルは静かにマリナの家から去っていった。


心の中に冷たい風が吹き抜けるようで、虚無に包まれながらトボトボと歩き始める。

さよならをするの?
マリナさんには幸せになってほしい。

完全にさよならはしないし、いつかはあんみつを食べにいくけど、あまり深い仲にはなれそうもない。

そうか……。

私は、ピアス選びをする二人の姿が凄く好きだったけどね。

でも、スバルちゃんがその道を選ぶなら、きっとそれは正解ルートだよ。

正しさにはこだわらないけど、やはり間違った道を歩みたくはないな。

凄くセンチメンタルな気持ちをくれるんだ、マリナさんは。

青春って感じがする。

いい人だよね。

凄く。

シリウスの人だもの。

シリウスか。

ぼくはシリウスが何かも知らないけれど、それでも良いと思っているんだ。

駄目かな?

シリウスは最低限の倫理観を意味するものだから、スバルちゃんはとうの昔に到達しているよ。

あまりにも当たり前過ぎて、自覚を持てないくらいにね。

そういうものかな。

ぼくは高次の存在なのか。

高次も高次だよ。

半グレで一見素行が悪そうに見えても、スバルちゃんは存在そのものが澄みきっているよ。

希望の星を背負う運命の道まで漕ぎ着けたね。

あとは、カルマの振り返り。

それだけだよ。

カルマは悪の道ではないのか。
カルマを悪と見做す者、それそのものが既に悪であると見た方がいいね。

受け入れるんだよ。

かつての自分を。

通った道を。

分かった。

少しずつだけど、ぼくはタオを辿るよ。

悲しみを振り切るように、二人はコンビニに入ってドカ買いをして帰った。
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登場人物紹介

スバル

魔法使い志望。

ジュニアアイドルをしていた。

ノボル

スバルの級友

突然全てが虚しくなり、出家を決意する。

カンタ

スバルにいちゃもんをつける級友

マリナ

スバルの母

ネリア

可愛い彼女

魔王スケアクロー

スバルの上司にして魔王

ミウラ

打倒の標的にされている勇者

座天使ソロネ

スバルの守護天使

ドミニオン

会社の事務の人

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