- 030 フサッグァ(2) -
文字数 3,949文字
見る間に、ベルナスの表情は一変した。目つきが悪くなったかと思うと、エイジの胸ぐらをつかんだ。
「こぉら! いい加減にせぇよ。ざけんな、そんなにてめぇの素情知りてぇんか?」
エイジは少しびびった。迫力が違う。
「どうです?」
あっと言う間に物腰の柔らかいベルナスに戻り、エイジの胸ぐらも放した。
「ちょっと、びびりました」
「それは、すみませんでした」
「あのう、先程のは、質問ですか?」
「いえいえ、ただのサンプルですので。訊きたいことは、訊いてください。私は、この部に男子が入ってくれて嬉しいのですから。あ、そういう意味ではありませんよ」
「わかってます。俺もベルナス先輩に、たくさん、助けられていますので、とても信頼しています」
「嬉しいですね。そう言っていただけると。私はあまり信頼されている人間ではありませんので、いい後輩ができました」
「そうなんですか?」
「はい。私は、人望とか信頼のない人間です」
「俺はベルナス先輩のことを、とても信頼していますよ。また、ちょっと込み入ったことを訊いてしまうかもしれませんが、それななぜですか?」
「やはり、このフサッグァの力のせいですね」
「そうなんですか……」
「やはり、私も力を制御できなかった時期がありましてね」
◇
すると、陰陽部の女子の四人が一団となって部室に押しかけてきた。
「やぁ、元気かね、男子諸君」
先頭は、エレナ。その後をずるずるとアリシア、ミラ、ジェシカ。こうして揃うとやはり四人とも粒ぞろいだ。これほどのカワイイ女性のレベルを保つ部は他にないだろう。
「それじゃ、今日は、男子二人にお使いを頼むわね」
「はぁ、お使い?」
エイジは、ぼやいた。
「ベルナスの知り合いのいる電器屋さんで、ストーブを買ってきてちょうだい」
「え? ストーブを? これから、夏だよ」
エイジは言った。
「だから、売れ残りが安くなってるんじゃない。この部室棟は、築30年の木造だから、冬になると隙間風がひどいのよねぇ。だから、お願い、かっこいいベルナスくんとかわいいエイジくん。男手があるって助かるなぁ。お金は、渡すから」
「はい、わかりました、部長」ベルナスはいつもの爽やかな笑顔で応えた。「行きましょう、エイジさん」
近くの商店街まで、かなりの距離がある。歩いて30分くらいだろうか。学園は、街中でも辺鄙な所に位置しているからである。
エイジが立ち上がると、
「気をつけてね」
と、ミラとジェシカが全く同時に言った。
ベルナスとエイジは、部室を出て、さらに校門を出た。二人は、並んで、学校前の並木道を歩いていた。
「お見受けすると、ジェシカさんは、ミラさんとエイジさんがキスしたくらいでは、心は揺るがないようですね」
ベルナスが歩きながら言った。
「そんなことは、ありませんでした。今朝も昼休みも、ちょっとガタガタしましたので」
エイジも歩きながら応えた。
「そうでしたか。でも、羨ましい限りです」
「で、さっきの話の続きを訊いてもいいですか」
「ええ。力の制御ができない時期のことですね。その前に、他の人にはない力に気づいたのは、小学生くらいでしたかね。体の中が燃えるような感じがして、叫びたい衝動にかられました。そこで、叫んでみると、電撃が発せられて、近くを飛んでいた鳥が、バサバサと何羽も落ちてきました。最初は、びっくりしました。何が起こったか、わからなかったですからね。ただ、ちょうど、それを見ていた近所のオバさんがいて、私を悪魔呼ばわりして近所中に言いふらしてしまったんです」
「ひどいオバさんですね」
「まぁ、普段から面白ネタには、事欠かない人で有名でしたからね。あっと言う間に広まりました。それから、学校にも知られてしまい、私は悪魔憑きということで、立場的に追い込まれました。友人も、私をいじめたりしましてね」
「辛かったでしょうね……」
「ええ。辛かったですよ。中学に入ると、母が病気で死にましてね。これはこの前も話しましたが、当時の私には、相当のショックでした。母の死も私に憑く悪魔のせいだと噂されました。それで、それをきっかけにワルになっていきました。同じように学校で爪はじきにされた連中とつるんで、私を追い詰めた元の同級生を中心に、恐喝をしました」
「その間は、力は制御できていたのですか?」
「いいえ。ことあるごとに、力が発現しました。どうも感情的になると、その傾向があったようですね。電撃で同級生をいたぶりました。私は、それで復讐心を満たしていたのかもしれません。恐れおののくかつての同級生。私は、それがある種の快感になっていきました」
「警察には捕まらなかったのですか?」
「ええ。そんなにヘマはやりませんでしたよ。ははは。でも、捕まっていた方が、よかったかもしれません」
「犯罪のカミングアウトですね、ちょっと驚きです」
「まぁ、今となっては、そうなんですが。実際、私が手にかけた同級生の何人かは再起不能となってしまいまして」
「だんだん、俺はベルナス先輩が怖くなってきましたよ」
「もう、そんなことはありませんので、大丈夫ですよ」
「はぁ」
エイジは、内心、恐ろしくなっていた。本当に恐ろしいものとは、イーヴァイラスでも、見えざる彼方の敵でもなく、人間なのかもしれない、と思った。
二人が、しばらく歩くと商店街に出た。電器店は、もう少し先のはずであった。
「この辺りは、以前の私の縄張りのようなものでして、おそらく知り合いにでも会うかと」ベルナスは言った。「案の定、あそこに以前のワル仲間の後輩がいましたね」
ベルナスが指差す方向には、肉屋があった。その肉屋で働く店員がベルナスを見つけたようだった。
「ベ、ベルナスさん! こ、こんにちは」
その店員は、明らかにベルナスに恐れをなしていた。
「やぁ、お肉屋さんのファルダさん。元気でしたか?」
ベルナスは言った。
「もう、そんな言い回しはやめてください。ファルダと呼び捨てで、お願いします。で、今日は、何の用ですか?」
ファルダというその店員はびくびくしている。おそらく過去にベルナスとの間に何かあったのだろう。
「いやですね。こちらは、私の後輩であるエイジさんと一緒なんです。彼が私のことを誤解してしまいます」
もう、誤解とかはない。そのまま、ファルダの態度でわかった。
「電撃は、勘弁してください! ここにある肉を持っていってもかまわないので!」
「いや、今日は肉には用がないので」
「では、お金出しますので!」
「まいったな。私は挨拶しただけなのに」
エイジは、ベルナスの恐ろしさが身に染みた。
「じゃ、また今度来ます、それでは、お肉屋さん」
「し、失礼します!」
二人は、また歩き出した。エイジが後ろを振り返ると、まだファルダはおじぎをしている。
「彼も立派に公正して、お肉屋さんで働いています。さて、電器店は、と。あ、あそこです、エイジさん」
ベルナスに、エイジさんと呼ばれることは、とても恐ろしいことなのではないだろうか、とエイジは少し身震いした。
そして、途中、あいさつをしてくる輩が何人かいた。
「ベルナス・ミーンドラ先輩! こんにちは!」
「おや、誰かと思ったら、君ですか」
ベルナスは、図体が大きく明らかに不良のその輩に声をかけた。
「まだ、フラフラした青春を送っているのですか?」
「いえ、先輩を見習うべく、精進しようとしているところです!」
「そうですか、いい心がけですね。でも、私を手本としてはいけませんね」
「はい! あ、いえ、気をつけます!」
そして、その彼も去っていった。
どうして、ベルナスのような男が陰陽部にいるのだろう、とエイジは思った。人は全く見かけによらないものだ。現在のベルナスは、長身の美男子で、優男にしか見えない。
二人は、電器店の入り口に入った。
「いらっしゃい」
店の奥から若い女性の声がして、その店員の彼女が出てきた。
「あら、ベルナス! ここへ来るなんて、珍しいわね」
よく見ると、ミラも真っ青の美人であった。
「バイト中だったかい?」
ベルナスが訊いた。
「ええ。そちらのお兄さんは?」
「陰陽部の後輩のエイジさん」
「エイジ・ロックウッドです」
エイジは紹介されたので、そう応えた。
「新しい舎弟なの?」
「いやだな、舎弟とか言わないでくださいね。そうそう、エイジさん、こちらが私の彼女でもあるマリ・ミディラです」
「この方がベルナス先輩の彼女さんですか? 凄い美人ですね!」
エイジは素直に驚いた。
「いや、エイジさん、お上手ね」
マリは笑った。
「今日は、ストーブを買いにきたのだけれど、今の時期に売っているかな?」
「奥に一つだけ残っているけど。これから暑くなる季節だというのに、今日買うの?」
「ええ、ウチの部長さんが、どうしても欲しいというので」
「ああ、部長さんも、ロックウッドだったけ。それじゃ、こちらは?」
「そう、部長の弟でもあるのですよ」
「まぁ、あの部長の!」マリは驚いたように言った。「ベルナスを公正できる人の弟さんだなんて、会えて光栄だわ」
どうやら、エレナは、ここでも有名らしい。
「それじゃ、ストーブを持って行ってね」
マリは店の奥に戻り、なにやらごそごそと商品を動かしていた。
「あった、あった。これ。売れ残りなんだけどね」そう言って、一つのダンボール箱を持ってきた。「これしかないわ」
「これで、十分です。部長も納得するでしょう」
「お代は、いいわ。これ問屋に返品を忘れて邪魔だったから」
「そういうわけには行きません。部長から、お金を預っているので」
「そう? じゃ、遠慮なく」
「じゃ、今日は、これで帰ります。また、今度デートいたしましょう」
「ええ、いいわ。連絡、待ってるわね」
そう言って、ベルナスはストーブの箱を持ち上げた。
「こぉら! いい加減にせぇよ。ざけんな、そんなにてめぇの素情知りてぇんか?」
エイジは少しびびった。迫力が違う。
「どうです?」
あっと言う間に物腰の柔らかいベルナスに戻り、エイジの胸ぐらも放した。
「ちょっと、びびりました」
「それは、すみませんでした」
「あのう、先程のは、質問ですか?」
「いえいえ、ただのサンプルですので。訊きたいことは、訊いてください。私は、この部に男子が入ってくれて嬉しいのですから。あ、そういう意味ではありませんよ」
「わかってます。俺もベルナス先輩に、たくさん、助けられていますので、とても信頼しています」
「嬉しいですね。そう言っていただけると。私はあまり信頼されている人間ではありませんので、いい後輩ができました」
「そうなんですか?」
「はい。私は、人望とか信頼のない人間です」
「俺はベルナス先輩のことを、とても信頼していますよ。また、ちょっと込み入ったことを訊いてしまうかもしれませんが、それななぜですか?」
「やはり、このフサッグァの力のせいですね」
「そうなんですか……」
「やはり、私も力を制御できなかった時期がありましてね」
◇
すると、陰陽部の女子の四人が一団となって部室に押しかけてきた。
「やぁ、元気かね、男子諸君」
先頭は、エレナ。その後をずるずるとアリシア、ミラ、ジェシカ。こうして揃うとやはり四人とも粒ぞろいだ。これほどのカワイイ女性のレベルを保つ部は他にないだろう。
「それじゃ、今日は、男子二人にお使いを頼むわね」
「はぁ、お使い?」
エイジは、ぼやいた。
「ベルナスの知り合いのいる電器屋さんで、ストーブを買ってきてちょうだい」
「え? ストーブを? これから、夏だよ」
エイジは言った。
「だから、売れ残りが安くなってるんじゃない。この部室棟は、築30年の木造だから、冬になると隙間風がひどいのよねぇ。だから、お願い、かっこいいベルナスくんとかわいいエイジくん。男手があるって助かるなぁ。お金は、渡すから」
「はい、わかりました、部長」ベルナスはいつもの爽やかな笑顔で応えた。「行きましょう、エイジさん」
近くの商店街まで、かなりの距離がある。歩いて30分くらいだろうか。学園は、街中でも辺鄙な所に位置しているからである。
エイジが立ち上がると、
「気をつけてね」
と、ミラとジェシカが全く同時に言った。
ベルナスとエイジは、部室を出て、さらに校門を出た。二人は、並んで、学校前の並木道を歩いていた。
「お見受けすると、ジェシカさんは、ミラさんとエイジさんがキスしたくらいでは、心は揺るがないようですね」
ベルナスが歩きながら言った。
「そんなことは、ありませんでした。今朝も昼休みも、ちょっとガタガタしましたので」
エイジも歩きながら応えた。
「そうでしたか。でも、羨ましい限りです」
「で、さっきの話の続きを訊いてもいいですか」
「ええ。力の制御ができない時期のことですね。その前に、他の人にはない力に気づいたのは、小学生くらいでしたかね。体の中が燃えるような感じがして、叫びたい衝動にかられました。そこで、叫んでみると、電撃が発せられて、近くを飛んでいた鳥が、バサバサと何羽も落ちてきました。最初は、びっくりしました。何が起こったか、わからなかったですからね。ただ、ちょうど、それを見ていた近所のオバさんがいて、私を悪魔呼ばわりして近所中に言いふらしてしまったんです」
「ひどいオバさんですね」
「まぁ、普段から面白ネタには、事欠かない人で有名でしたからね。あっと言う間に広まりました。それから、学校にも知られてしまい、私は悪魔憑きということで、立場的に追い込まれました。友人も、私をいじめたりしましてね」
「辛かったでしょうね……」
「ええ。辛かったですよ。中学に入ると、母が病気で死にましてね。これはこの前も話しましたが、当時の私には、相当のショックでした。母の死も私に憑く悪魔のせいだと噂されました。それで、それをきっかけにワルになっていきました。同じように学校で爪はじきにされた連中とつるんで、私を追い詰めた元の同級生を中心に、恐喝をしました」
「その間は、力は制御できていたのですか?」
「いいえ。ことあるごとに、力が発現しました。どうも感情的になると、その傾向があったようですね。電撃で同級生をいたぶりました。私は、それで復讐心を満たしていたのかもしれません。恐れおののくかつての同級生。私は、それがある種の快感になっていきました」
「警察には捕まらなかったのですか?」
「ええ。そんなにヘマはやりませんでしたよ。ははは。でも、捕まっていた方が、よかったかもしれません」
「犯罪のカミングアウトですね、ちょっと驚きです」
「まぁ、今となっては、そうなんですが。実際、私が手にかけた同級生の何人かは再起不能となってしまいまして」
「だんだん、俺はベルナス先輩が怖くなってきましたよ」
「もう、そんなことはありませんので、大丈夫ですよ」
「はぁ」
エイジは、内心、恐ろしくなっていた。本当に恐ろしいものとは、イーヴァイラスでも、見えざる彼方の敵でもなく、人間なのかもしれない、と思った。
二人が、しばらく歩くと商店街に出た。電器店は、もう少し先のはずであった。
「この辺りは、以前の私の縄張りのようなものでして、おそらく知り合いにでも会うかと」ベルナスは言った。「案の定、あそこに以前のワル仲間の後輩がいましたね」
ベルナスが指差す方向には、肉屋があった。その肉屋で働く店員がベルナスを見つけたようだった。
「ベ、ベルナスさん! こ、こんにちは」
その店員は、明らかにベルナスに恐れをなしていた。
「やぁ、お肉屋さんのファルダさん。元気でしたか?」
ベルナスは言った。
「もう、そんな言い回しはやめてください。ファルダと呼び捨てで、お願いします。で、今日は、何の用ですか?」
ファルダというその店員はびくびくしている。おそらく過去にベルナスとの間に何かあったのだろう。
「いやですね。こちらは、私の後輩であるエイジさんと一緒なんです。彼が私のことを誤解してしまいます」
もう、誤解とかはない。そのまま、ファルダの態度でわかった。
「電撃は、勘弁してください! ここにある肉を持っていってもかまわないので!」
「いや、今日は肉には用がないので」
「では、お金出しますので!」
「まいったな。私は挨拶しただけなのに」
エイジは、ベルナスの恐ろしさが身に染みた。
「じゃ、また今度来ます、それでは、お肉屋さん」
「し、失礼します!」
二人は、また歩き出した。エイジが後ろを振り返ると、まだファルダはおじぎをしている。
「彼も立派に公正して、お肉屋さんで働いています。さて、電器店は、と。あ、あそこです、エイジさん」
ベルナスに、エイジさんと呼ばれることは、とても恐ろしいことなのではないだろうか、とエイジは少し身震いした。
そして、途中、あいさつをしてくる輩が何人かいた。
「ベルナス・ミーンドラ先輩! こんにちは!」
「おや、誰かと思ったら、君ですか」
ベルナスは、図体が大きく明らかに不良のその輩に声をかけた。
「まだ、フラフラした青春を送っているのですか?」
「いえ、先輩を見習うべく、精進しようとしているところです!」
「そうですか、いい心がけですね。でも、私を手本としてはいけませんね」
「はい! あ、いえ、気をつけます!」
そして、その彼も去っていった。
どうして、ベルナスのような男が陰陽部にいるのだろう、とエイジは思った。人は全く見かけによらないものだ。現在のベルナスは、長身の美男子で、優男にしか見えない。
二人は、電器店の入り口に入った。
「いらっしゃい」
店の奥から若い女性の声がして、その店員の彼女が出てきた。
「あら、ベルナス! ここへ来るなんて、珍しいわね」
よく見ると、ミラも真っ青の美人であった。
「バイト中だったかい?」
ベルナスが訊いた。
「ええ。そちらのお兄さんは?」
「陰陽部の後輩のエイジさん」
「エイジ・ロックウッドです」
エイジは紹介されたので、そう応えた。
「新しい舎弟なの?」
「いやだな、舎弟とか言わないでくださいね。そうそう、エイジさん、こちらが私の彼女でもあるマリ・ミディラです」
「この方がベルナス先輩の彼女さんですか? 凄い美人ですね!」
エイジは素直に驚いた。
「いや、エイジさん、お上手ね」
マリは笑った。
「今日は、ストーブを買いにきたのだけれど、今の時期に売っているかな?」
「奥に一つだけ残っているけど。これから暑くなる季節だというのに、今日買うの?」
「ええ、ウチの部長さんが、どうしても欲しいというので」
「ああ、部長さんも、ロックウッドだったけ。それじゃ、こちらは?」
「そう、部長の弟でもあるのですよ」
「まぁ、あの部長の!」マリは驚いたように言った。「ベルナスを公正できる人の弟さんだなんて、会えて光栄だわ」
どうやら、エレナは、ここでも有名らしい。
「それじゃ、ストーブを持って行ってね」
マリは店の奥に戻り、なにやらごそごそと商品を動かしていた。
「あった、あった。これ。売れ残りなんだけどね」そう言って、一つのダンボール箱を持ってきた。「これしかないわ」
「これで、十分です。部長も納得するでしょう」
「お代は、いいわ。これ問屋に返品を忘れて邪魔だったから」
「そういうわけには行きません。部長から、お金を預っているので」
「そう? じゃ、遠慮なく」
「じゃ、今日は、これで帰ります。また、今度デートいたしましょう」
「ええ、いいわ。連絡、待ってるわね」
そう言って、ベルナスはストーブの箱を持ち上げた。