- 033 クティラ(2) -
文字数 4,255文字
二人掛けのソファ。エイジがその右側に座ると、アリシアは左側に座ったが、あまり大きくないソファだったので、エイジとアリシアは密着してしまった。
「あのう、何でしょう?」
エイジは、恐る恐る尋ねた。
「今日は、嬉しかった……」
「はい。俺もアリシア先輩の返事で嬉しくなりました」
「嬉しくて、眠れなくなってしまい、迷惑だとは思ったが、エイジと話をしてみたくなった」
「そうでしたか、なんかすみません。……あの、どうして、年下の俺と付き合う気になってくれたのですか?」
「私の精神は、年齢と共にあまり成長していないため、エイジとも釣り会うはず。年下とかは気にしていない」
「そうなんですか」
精神が成長していない、とはどういうことなのか、よくわからなかったが、取り敢えずスルーした。
「それにエイジの匂いが、私の大好きだった父の匂いと似ていた。以前、おぶされた時にそれを感じた」
そう言えば、あの後で俺の背中でアリシアが嬉しそうだったと、ジェシカは言っていたっけ、とエイジは思い出した。ただ、今、アリシアは、大好きだった、と過去形で言ったような気がする、と疑問に思った。
「お父さんの匂いですか。そう言えば、御両親とは一緒に住んでいないのですか?」
アリシアは、その質問には答えなかった。そして、なぜか別の話を始めた。
「私と付き合う前に、どうしても言っておかなければならないことがある」
「はい。何でしょう?」
「私の過去のこと」
「過去のこと?」
「そう。今から話すことは本当の話。この話を聞いて、エイジが私と付き合うのを止めても、私には問題はない」
何かイヤな予感がエイジの中によぎった。
「どうぞ。どんなことを聞いても、アリシア先輩と付き合う自信はありますから」
「そう。では、話す。私の両親がいない理由は、私が殺したため」
「え?」
「両親を亡くしたばかりのエイジに言うのも酷いと思うが、これは私の過去のこと」
「本当ですか?」
「本当」
エイジは絶句してしまった。そう話すアリシアも淡々としており、いつもの無表情のままであった。
「やはり、交際は止めたい?」
アリシアのその問いに、エイジは言葉に困ってしまった。
「いえ、そ、その突然で、なんと言うか、……ちょっと驚いてしまって、……いや、付き合います! 大丈夫です」
「そう。よかった」
「あの、それは、いつ頃の話ですか?」
「小学校の時」
「小学校の時って、本当に? どうして殺してしまったんですか?」
「私が友人と喧嘩したことを、私の両親が知り、そのことで、ひどく怒られてしまったことがあった。その時、私の中のクティラが目覚めてしまい、そして、その力が暴走してしまったことが原因」
「そう、だったんですか」
エイジは、それ以上にどう話を進めていいか、わからなくなった。
「気づいた時は、父も、母も、血まみれで、八つ裂きになっていた」
現場を想像したエイジは、吐き気をもよおした。
「え、あの、もしかして、その現場は、ここですか?」
「いいえ。ブライトン・シティであったことではない」
エイジは、また黙り込んでしまった。
しばらくして、またエイジは喋りだした。
「あの、なぜ、そんなことを俺に?」
「今まで私のことを好きになってくれた人は、部長しかいない。他の人は、エイジが初めて。だから、男の人との接し方もよくわからない。でも、私の親殺しをした過去を知らせないで付き合うのも、私はそのうち耐えられなくなる。その時、その事実を話したらエイジが去ってしまうのが恐かった。それなら、その前にエイジに知っておいてもらいたいと思ったから」
「そうでしたか。あの、その後って、警察に捕まったりしたんですか?」
「いいえ。しかし、私は自分の力で両親を殺したことを警察に言った。様々な証言をして裁判になった後、証拠不十分で不起訴になった。しかし、その後、私の地獄が始まった。私は、ある超能力を研究している施設に半年間入れられ、超能力に関する人体実験をさせられた。小学生の私からすると、とても恐ろしい実験だった。ひどい苦痛が伴い、精神的にも崩壊寸前まで追い込まれた。そして、そこでもクティラの力が暴走してしまい、その施設は壊滅した」
また、そんな事件か。もしかすると、両親殺しより、凄惨で恐ろしい状況だったかもしれない。
「その施設から逃げて、私は死のうと考えた」
「そこで、姉貴に会ったというわけですか?」
「そう。当時、エレナ・ロックウッドは、死のうとしている私に声をかけてくれた。私は、彼女に近づくなと警告したが、彼女は無視した。そこで、クティラの力が、また発動したのだが、彼女はグロースの力でクティラの力を抑え込んだ。そして、私はグロースの中に取り込まれて、ほとんどの感情を削除された」
「感情を削除ですか? それは、どういうことですか?」
「文字通り。私の感情の爆発が、クティラの力を制御できなくしていたのだ。だから、グロースは私の感情をほぼ消し去った」
「ちょっと待ってください、感情がなくなって、アリシア先輩はよかったんですか?」
「特に何とも思っていない」
それは、そうだろう。感情がないのだから、それに対する感情もないわけであるから。
「論理的には、正しい。私は、グロースとグロースの力を持つエレナ・ロックウッドに心を開くことを決めた。だから、私は部長に従うことにしている」
なるほど、そう言えば、以前にエレナはアリシアの感情を表に出さないようにさせたとか言っていたのは、このことか。
「さらにエレナ・ロックウッドは、私に後見人の世話と住居の手配までしてくれた」
エレナは、いつそんなことをしていたんだ?
「感情を削除されても、心がないわけではない。現に、部長やエイジのことは好きである。さらに、陰陽部にいれば居心地も良いと思っている。ただ、周囲の人に無愛想、無表情と、不快感を与えているかもしれない。……エイジは、なぜ、このような私と付き合いたいと思ったのか?」
「それは、カワイイからです」
「それならば、陰陽部の女子部員の中には、私以上の水準の者もいると思うが、なぜ私を選択したのか?」
「一番素敵だからです。少しでも長く一緒にいたいと思っています。一緒に走るのも、とても嬉しいんです」
アリシアは、その言葉に何も言わず、しばらくエイジを見つめていた。
そして、ゆっくりと、そのこわばった表情がゆるみだした。
「ありがとう。嬉しい」
アリシアは、にこりとした。エイジは、初めて見るアリシアの笑顔だった。感情が全くないわけではない、ということなのか。
「それから、部長には黙っていてほしいことがある」
「はい」
「実は、既に感情のほとんどは、回復している」
「え? そうなんですか?」
「エイジのことを好きになってから、回復してしまった」
「それは、どういうことですか?」
「わからない」
「では、クティラは暴走しますか?」
「だから、あえて感情を出さないようにしている」
「そうだったんですか」
「それが部長に知られたら、また削除されるかもしれない。でも、エイジを好きな気持ちを失ってしまうかもしれないのが、怖い」
「命にかけても、俺は絶対に言いません」
「よかった。……それから、感情の回復は、嫉妬する気持ちも伴っていた」
「それは、もしかして、ミラ先輩との件ですか?」
「そう。だが、それだけではない。ジェシカについても、そうである。ツァールを安定させる儀式の時に、エイジはジェシカを抱きしめた。その時、私は、その光景を見たくなかった。ショックだった」
「すみません」
「でも、それは仕方ないこと、と思っている。だが、エルディリオン神族の顕現で、エイジがミラとキスするのを見たら、少し自信がない。嫉妬の感情を自分で抑えきれるか、不安。だから、今ここで、私とキスしてほしい。そうすれば、エイジをもっと信頼できる」
突然の申し出に、エイジはびっくりした。
「はい」
だが、すぐにエイジは素直に応えた。
アリシアは目を閉じた。エイジの心を待つ準備はできた。
そして、エイジはアリシアの方を向き、目を閉じたアリシアの頬を両手で押さえて、くちびるをそっと優しく重ねた。
すると、一筋の涙が、アリシアの閉じた目から流れ落ちた。エイジの目からも。
アリシアも、エイジも、嬉しい、と思った。
エイジは、やがて頬から手を離して、アリシアの背中に回した。そして、アリシアをぎゅっと強く抱きしめた。強く。そして、くちびるも強く重ねた。何もかも忘れるかのように。
二人の目からは、とめどなく涙があふれた。
キスは長い間続いた。
やがて、二人は少し離れた。
「嬉しい、エイジ。やっと私のものになってくれたね」
「うん。アリシア先輩も俺のものに」
「二人でいる時は、アリシアって呼んでね」
「わかった、アリシア」
「お願い、もう一回……」
アリシアは熱い視線でエイジを見つめた。そして、再び、二人は、熱くキスをした。そして、激しい抱擁。互いの頭を押さえて、くちびるをむさぼった。歯を舐め、舌を絡ませて。
「エイジ、大好き」
「俺も大好きだ、アリシア」
二人はお互いの頭を両手で押さえたまま、くすっと笑った。
「これで、エイジとミラがキスしても、ちょっとは耐えられると思うわ。でも、ミラとキスしたら、その後で、私とは、その倍キスしてくれなきゃイヤよ。わかった?」
アリシアは、少し怒ったように言った。
「わかった、そうする。アリシアといっぱいキスするよ」
アリシアは満面の笑みになった。
エイジの前では、彼女の感情は、完全に解放された。
そして、エイジは、このままここにいても自分の理性が抑えられなくなるのを感じた。このままでは、突き進んでしまう。そして、少し残っていたエイジの理性が、体を起立させた。
「それじゃ、今日は帰ります」
エイジは言った。
「え? なぜ、帰っちゃうの? ずっとここにいて!」
「このままここにいたら、俺の理性は、あと数秒でなくなります」
「いいよ、理性なんか、なくなっても」
アリシアは、立ち上がったエイジの手を握った。
「ダメです。作戦が成功したら、アリシアと付き合うって、みんなの前で宣言しました。だから、絶対に成功させたいんです。そして、正々堂々とアリシアと付き合います」
「そう、そうだよね……」アリシアは少し残念そうに言った。「わかった。そうだね。私、がんばる。エイジもがんばって」
「うん。そして、すべてうまく行ったら、たくさんデートしよう」
エイジの言葉に、アリシアは、にこにこと微笑んだ。
「あのう、何でしょう?」
エイジは、恐る恐る尋ねた。
「今日は、嬉しかった……」
「はい。俺もアリシア先輩の返事で嬉しくなりました」
「嬉しくて、眠れなくなってしまい、迷惑だとは思ったが、エイジと話をしてみたくなった」
「そうでしたか、なんかすみません。……あの、どうして、年下の俺と付き合う気になってくれたのですか?」
「私の精神は、年齢と共にあまり成長していないため、エイジとも釣り会うはず。年下とかは気にしていない」
「そうなんですか」
精神が成長していない、とはどういうことなのか、よくわからなかったが、取り敢えずスルーした。
「それにエイジの匂いが、私の大好きだった父の匂いと似ていた。以前、おぶされた時にそれを感じた」
そう言えば、あの後で俺の背中でアリシアが嬉しそうだったと、ジェシカは言っていたっけ、とエイジは思い出した。ただ、今、アリシアは、大好きだった、と過去形で言ったような気がする、と疑問に思った。
「お父さんの匂いですか。そう言えば、御両親とは一緒に住んでいないのですか?」
アリシアは、その質問には答えなかった。そして、なぜか別の話を始めた。
「私と付き合う前に、どうしても言っておかなければならないことがある」
「はい。何でしょう?」
「私の過去のこと」
「過去のこと?」
「そう。今から話すことは本当の話。この話を聞いて、エイジが私と付き合うのを止めても、私には問題はない」
何かイヤな予感がエイジの中によぎった。
「どうぞ。どんなことを聞いても、アリシア先輩と付き合う自信はありますから」
「そう。では、話す。私の両親がいない理由は、私が殺したため」
「え?」
「両親を亡くしたばかりのエイジに言うのも酷いと思うが、これは私の過去のこと」
「本当ですか?」
「本当」
エイジは絶句してしまった。そう話すアリシアも淡々としており、いつもの無表情のままであった。
「やはり、交際は止めたい?」
アリシアのその問いに、エイジは言葉に困ってしまった。
「いえ、そ、その突然で、なんと言うか、……ちょっと驚いてしまって、……いや、付き合います! 大丈夫です」
「そう。よかった」
「あの、それは、いつ頃の話ですか?」
「小学校の時」
「小学校の時って、本当に? どうして殺してしまったんですか?」
「私が友人と喧嘩したことを、私の両親が知り、そのことで、ひどく怒られてしまったことがあった。その時、私の中のクティラが目覚めてしまい、そして、その力が暴走してしまったことが原因」
「そう、だったんですか」
エイジは、それ以上にどう話を進めていいか、わからなくなった。
「気づいた時は、父も、母も、血まみれで、八つ裂きになっていた」
現場を想像したエイジは、吐き気をもよおした。
「え、あの、もしかして、その現場は、ここですか?」
「いいえ。ブライトン・シティであったことではない」
エイジは、また黙り込んでしまった。
しばらくして、またエイジは喋りだした。
「あの、なぜ、そんなことを俺に?」
「今まで私のことを好きになってくれた人は、部長しかいない。他の人は、エイジが初めて。だから、男の人との接し方もよくわからない。でも、私の親殺しをした過去を知らせないで付き合うのも、私はそのうち耐えられなくなる。その時、その事実を話したらエイジが去ってしまうのが恐かった。それなら、その前にエイジに知っておいてもらいたいと思ったから」
「そうでしたか。あの、その後って、警察に捕まったりしたんですか?」
「いいえ。しかし、私は自分の力で両親を殺したことを警察に言った。様々な証言をして裁判になった後、証拠不十分で不起訴になった。しかし、その後、私の地獄が始まった。私は、ある超能力を研究している施設に半年間入れられ、超能力に関する人体実験をさせられた。小学生の私からすると、とても恐ろしい実験だった。ひどい苦痛が伴い、精神的にも崩壊寸前まで追い込まれた。そして、そこでもクティラの力が暴走してしまい、その施設は壊滅した」
また、そんな事件か。もしかすると、両親殺しより、凄惨で恐ろしい状況だったかもしれない。
「その施設から逃げて、私は死のうと考えた」
「そこで、姉貴に会ったというわけですか?」
「そう。当時、エレナ・ロックウッドは、死のうとしている私に声をかけてくれた。私は、彼女に近づくなと警告したが、彼女は無視した。そこで、クティラの力が、また発動したのだが、彼女はグロースの力でクティラの力を抑え込んだ。そして、私はグロースの中に取り込まれて、ほとんどの感情を削除された」
「感情を削除ですか? それは、どういうことですか?」
「文字通り。私の感情の爆発が、クティラの力を制御できなくしていたのだ。だから、グロースは私の感情をほぼ消し去った」
「ちょっと待ってください、感情がなくなって、アリシア先輩はよかったんですか?」
「特に何とも思っていない」
それは、そうだろう。感情がないのだから、それに対する感情もないわけであるから。
「論理的には、正しい。私は、グロースとグロースの力を持つエレナ・ロックウッドに心を開くことを決めた。だから、私は部長に従うことにしている」
なるほど、そう言えば、以前にエレナはアリシアの感情を表に出さないようにさせたとか言っていたのは、このことか。
「さらにエレナ・ロックウッドは、私に後見人の世話と住居の手配までしてくれた」
エレナは、いつそんなことをしていたんだ?
「感情を削除されても、心がないわけではない。現に、部長やエイジのことは好きである。さらに、陰陽部にいれば居心地も良いと思っている。ただ、周囲の人に無愛想、無表情と、不快感を与えているかもしれない。……エイジは、なぜ、このような私と付き合いたいと思ったのか?」
「それは、カワイイからです」
「それならば、陰陽部の女子部員の中には、私以上の水準の者もいると思うが、なぜ私を選択したのか?」
「一番素敵だからです。少しでも長く一緒にいたいと思っています。一緒に走るのも、とても嬉しいんです」
アリシアは、その言葉に何も言わず、しばらくエイジを見つめていた。
そして、ゆっくりと、そのこわばった表情がゆるみだした。
「ありがとう。嬉しい」
アリシアは、にこりとした。エイジは、初めて見るアリシアの笑顔だった。感情が全くないわけではない、ということなのか。
「それから、部長には黙っていてほしいことがある」
「はい」
「実は、既に感情のほとんどは、回復している」
「え? そうなんですか?」
「エイジのことを好きになってから、回復してしまった」
「それは、どういうことですか?」
「わからない」
「では、クティラは暴走しますか?」
「だから、あえて感情を出さないようにしている」
「そうだったんですか」
「それが部長に知られたら、また削除されるかもしれない。でも、エイジを好きな気持ちを失ってしまうかもしれないのが、怖い」
「命にかけても、俺は絶対に言いません」
「よかった。……それから、感情の回復は、嫉妬する気持ちも伴っていた」
「それは、もしかして、ミラ先輩との件ですか?」
「そう。だが、それだけではない。ジェシカについても、そうである。ツァールを安定させる儀式の時に、エイジはジェシカを抱きしめた。その時、私は、その光景を見たくなかった。ショックだった」
「すみません」
「でも、それは仕方ないこと、と思っている。だが、エルディリオン神族の顕現で、エイジがミラとキスするのを見たら、少し自信がない。嫉妬の感情を自分で抑えきれるか、不安。だから、今ここで、私とキスしてほしい。そうすれば、エイジをもっと信頼できる」
突然の申し出に、エイジはびっくりした。
「はい」
だが、すぐにエイジは素直に応えた。
アリシアは目を閉じた。エイジの心を待つ準備はできた。
そして、エイジはアリシアの方を向き、目を閉じたアリシアの頬を両手で押さえて、くちびるをそっと優しく重ねた。
すると、一筋の涙が、アリシアの閉じた目から流れ落ちた。エイジの目からも。
アリシアも、エイジも、嬉しい、と思った。
エイジは、やがて頬から手を離して、アリシアの背中に回した。そして、アリシアをぎゅっと強く抱きしめた。強く。そして、くちびるも強く重ねた。何もかも忘れるかのように。
二人の目からは、とめどなく涙があふれた。
キスは長い間続いた。
やがて、二人は少し離れた。
「嬉しい、エイジ。やっと私のものになってくれたね」
「うん。アリシア先輩も俺のものに」
「二人でいる時は、アリシアって呼んでね」
「わかった、アリシア」
「お願い、もう一回……」
アリシアは熱い視線でエイジを見つめた。そして、再び、二人は、熱くキスをした。そして、激しい抱擁。互いの頭を押さえて、くちびるをむさぼった。歯を舐め、舌を絡ませて。
「エイジ、大好き」
「俺も大好きだ、アリシア」
二人はお互いの頭を両手で押さえたまま、くすっと笑った。
「これで、エイジとミラがキスしても、ちょっとは耐えられると思うわ。でも、ミラとキスしたら、その後で、私とは、その倍キスしてくれなきゃイヤよ。わかった?」
アリシアは、少し怒ったように言った。
「わかった、そうする。アリシアといっぱいキスするよ」
アリシアは満面の笑みになった。
エイジの前では、彼女の感情は、完全に解放された。
そして、エイジは、このままここにいても自分の理性が抑えられなくなるのを感じた。このままでは、突き進んでしまう。そして、少し残っていたエイジの理性が、体を起立させた。
「それじゃ、今日は帰ります」
エイジは言った。
「え? なぜ、帰っちゃうの? ずっとここにいて!」
「このままここにいたら、俺の理性は、あと数秒でなくなります」
「いいよ、理性なんか、なくなっても」
アリシアは、立ち上がったエイジの手を握った。
「ダメです。作戦が成功したら、アリシアと付き合うって、みんなの前で宣言しました。だから、絶対に成功させたいんです。そして、正々堂々とアリシアと付き合います」
「そう、そうだよね……」アリシアは少し残念そうに言った。「わかった。そうだね。私、がんばる。エイジもがんばって」
「うん。そして、すべてうまく行ったら、たくさんデートしよう」
エイジの言葉に、アリシアは、にこにこと微笑んだ。