- 009 イーヴァイラスの力(2) -
文字数 4,007文字
「久しぶりだ、テコレイ!」
真上から声がした。一同、上を見ると、木の枝の所に赤い目が二つ見えた。そして長い足のような影が多数生えている。まるで大きな蜘蛛であった。
「ギュトね!」
エレナが叫んだ。
「また会おう、テコレイ。だが、今はシュファを返してもらう」
大きな蜘蛛は、また蜘蛛の巣を吐き、象の化け物を取り込んで持ち上げた。
一同が蜘蛛の巣に右往左往しているうちに、象の化け物も大きな蜘蛛もどこかへ消えた。
◇
その日の陰陽部の活動はそれで終わった。エイジは姉と幼馴染に肩を貸してもらって家路に着いた。そして、その日の夜、エレナは弟の部屋へ行った。
「鞄、かえしてもらってよかったわね」
「あのさ……」
「何よ」
「姉貴、正直、どこから聞けばいいのかわからないんだけど、今日あったことみたいなのが部活動なの?」
「いい質問するじゃない。いい質問だわ。そうね、今日のは、いきなりメインディッシュって感じかしら。いつもはこんなに豪華じゃないんだけどね。いつもは、トランプしたりだとか、カラオケしたりだとか。でも、こういうのも楽しいでしょ」
「いや、俺、本当に死ぬかと思ったし」
「情けないこと言わないの。男でしょ。まぁ、いろいろ聞きたいと思うけど、明日、部室にまた来て。ね。私、エイジと部活できるなんて、本当に嬉しいわ」
「あのさ、今日、夜、一緒に寝てくれない?」
「え? 何、言ってるの! あんた、いくらなんでも、それは難しいでしょ、ダメよ。バカね」
「違うよ、怖いんだよ、あいつらがここへ来るんじゃないかって」
「そういえば小刻みに震えているわね。熱があるのかしら」
「もう、いいよ、俺、でも、今日、いろいろありすぎて……」
エイジはなぜか涙が出てしまっていた。
エレナはかわいそうに思い、こう言った。
「しょうがないね。一緒に寝るのは無理だけど、エイジが眠るまで手を握っていてあげるわ。でも、ジェシカに言わないで」
エレナはベッドに横たわったエイジの手を握った。
「あなたは、これから、もっともっとたくさんの冒険をすることになるから」
姉の言葉の意味はわからなかったが、エイジは不思議と安心し、眠りに落ちていった。
◇
翌日、部室。
陰陽部の全員が揃った。エイジも。
一番窓側に近い席にエレナが座り、その隣にアリシア、その前にベルナス、その隣にミラ、エイジ、その前にジェシカ。どうやら、部内の力関係を表しているようである。
「みんな、揃ったわね。じゃ、昨日の反省会始めるわ」
部長が言った。
「その前に質問がある」
エイジが言った。
「議事の進行予定によれば、質問は最後。いい?」
全くマイペースな姉だ。
「初めての実戦、御苦労様とまず言っておくわ。みんな、やるじゃない。ベルナスもアリシアも。ミラは最後の蜘蛛の出現は見えなかったのかしら?」
「すみません」
ミラが謝った。
「最初だから大目に見るわ。でも精進を忘れないこと。先輩方をよく見習いなさい」
「はい」
「千里眼の役目はミラ。敵の出現を予測するのも、ミラの係。今回、あの蜘蛛が象を助けるだけに動いたから我々は助かっただけよ。いい?」
「はい」
「次はアリシア。とどめが遅れたわね」
「迂闊」
アリシアは表情ひとつ変えないで言った。
「私が撃てと言ったら、躊躇しないで」
「その通りにします」
「それから、ベルナス。敵を倒したあとも油断しないこと。ミラの未熟さをあなたのフォローで補うのよ」
「そうします」
だが、ベルナスは笑顔だった。
「そして、新入部員の二人。びびらないこと」
「待て、俺は入部してないぞ。新入部員は二人じゃない」エイジは言った。「それに化け物と戦うなんて高校生のすることじゃない。ジェシカもここにいる必要はないぞ」
「あら、辞められると思っているの?」部長が言った。「こんなに秘密を見ていて」
「秘密なんて知らない」
「あら、今日は化け物の正体と陰陽部の秘密を暴きに来たのではなくて?」
「う……」
「それにあの化け物は、エイジのことを知ってしまった。陰陽部に入らないと言うなら、今後、あの化け物をどうやって追い払うつもりかしら?」
エイジはあの化け物よりも姉の方が恐ろしくなった。
「エイジ……」前に座っている幼馴染が不安そうに言った。「お姉さんの言うこと、ちゃんと聞いておこうよ」
エイジの意図していない所で入部問題はもう終わっていたのだ。仕方なくエイジは入ることにした。
「入部させてください……」
「そう。では、エイジ・ロックウッド君。あらためて、よろしく。私が部長のエレナ・ロックウッド」
「エイジ・ロックウッドです。よろしくお願いします」
他の部員は頭をもたげて笑いをこらえた。
「ようこそ、陰陽部へ」ベルナスが言った。「やっと男子一人の状態から解放されます」
「やっと本筋に入れるわね。やりやすくなった」と、部長。「質問があるでしょう、新入部員」
「まず、」エイジが言った。「あの化け物は一体、何ですか?」
「神。いや、かつての宇宙の支配者。前にも言わなかったかしら」
「なぜ、あの化け物は姉貴、いや部長のことを知っているんだ? なぜ、テコレイと呼ぶ?」
「私の幼馴染みだからよ」
「え? 初耳だ」
「どこから話せばいいかしら。そうね、彼等は昔は普通の人間の子供だったのよ。ある研究所に引き取られて、ある実験をされたの。エイジが生まれる前のこと。私が小さい時は、彼等とお友達みたいなものだったわ」
「姉貴、いや部長も実験されたのか? 俺も?」
「まさか。私達は、実験なんかされてない。それで、どうやって人間が手に入れたかわからないイーヴァイラスの力を彼等は遺伝的に移植されたのよ」
「化け物はあの二体だけなのか?」
「私の記憶が正しければ、全部で三体。三男のシュファ。こいつが象の化け物で、イーヴァイラスのチャウグナー・フォーンが移植されている。次男は、ギュトで蜘蛛のアトラック・ナチャが移植されているわ。そして、ブライトン・シティで確認されてはないけど、長男のサグダ、おそらくこれは触手の生えた蜥蜴の化け物ロイガーが移植されてるわ。こいつが一番の厄介者よ」
そこまで、エレナは一気に話した。エイジもジェシカも、ほぼ理解できなかった。
「ああ、とにかく三体はいるんだな。気をつけないとな、ジェシカ」
「うん」
「それから、もうひとつの質問、」エイジは恐る恐るたずねた。「あの、みなさん、普通の人間なんですか?」
「フフフ」とエレナ。「見れば、わかるでしょう。普通の人間。でも、イーヴァイラスの力を持っているのよ」
「イーヴァイラスってことは、あの化け物と同じってことですか?」
「そう」
エイジとジェシカは青ざめた。
「ってことは、俺もジェシカもイーヴァイラスの方達と一緒にいるってことで、ちょ、ちょっと待ってくださいね、落ち着くから、気持ちをね、いや、無理です、やっぱり、ちょっと……」
エイジは慌てたように言った。
「その力は、ここにいる誰もが持っているのよ。エイジにも、ジェシカにも。あなた、自分の姉も怖いの?」
「し、信じられない。あ、姉貴も、な、何か力を持ってるの?」
「私のは、どうやら、それを顕現させる力、つまり目覚めさせる力のようだわ。イーヴァイラスのグロースの力よ。ここでおさらいすると、ベルナスが電撃のフサッグァで、アリシアが空間断裂波のクティラ。ミラが千里眼のヴルトゥーム。どう、凄い布陣でしょ」
エレナは得意気だった。
「それで姉貴はその超能力戦隊のリーダーってわけ?」
「そう」
さらに、エレナは得意気になった。
「ところで、部長はどうやってその力に目覚めたのですか?」
それまで黙って聞いていたジェシカが言った。
「おや、興味持ったの? 義妹よ」
エイジは、エレナがジェシカを義妹と呼ぶことに、ジェシカが違和感を持っていないことに気づいた。
「はい。凄いです。私もあるのかなって。そうしたら、私も強くなれますね」
「姉貴、あ、いや部長、」エイジが口を挟んだ。「ジェシカの質問の答えは? どうやって、力があることに気づいた? なぜ、俺に教えてくれなかったんだ?」
「力は、いつの間にか気づいたのよ。よく覚えていない。エイジに教えなかったのは、聞かれなかったからよ」
聞かれなかったから? エイジは思った。そんな力があるのかなんて、知りようもないのに聞ける訳がない。
姉は明らかに何か核心的なことを隠しているに違いない。
エイジは語気を強くして質問を続けた。
「それから、力が顕現した人間はまた元の人間に戻れるのか?」
「それはわからないわ」
エレナは自信なさそうに答える。
「最後に、力が顕現した人間は、あの化け物みたいに変貌してしまうことはないのか?」
すると、その質問に全員の視線が、エレナに集まった。そして、エレナはしばらく沈黙した後、こう言った。
「……わからないわ」
エレナは申し訳なさそうな表情だった。弟のエイジは、姉のこんなに弱気な姿を見たことはなかった。
「信じてる」
しばらく続いた沈黙の後、それまで一言も発していなかったアリシアがポツリと言った。
「僕も部長を信じていますよ」ベルナスも言った。「大丈夫です。心配されているようなことは、何もありません。それは僕達が実証しているではありませんか」
「そ、そうです、」ミラだった。「私も最初は不安だったけど、今はそんなこともありません。だから、お二人も私達と一緒に部活しましょ、楽しいです」
エイジはジェシカを見た。何も言葉を発しなかったが、屈託のない微笑みで返された。
そして、姉を見た。うっすらと涙を浮かべているが、とても嬉しそうだった。エイジはびっくりした。こんな表情は今まで自分に見せたことはない。いつも我が儘、強気で負けず嫌い。エイジは本当に驚いた。
「部長、」エイジが言った。「いや、姉貴。いい仲間に恵まれたな。俺もこの中にいれてくれるかい?」
「そうよ。うん……ありがとう」
真上から声がした。一同、上を見ると、木の枝の所に赤い目が二つ見えた。そして長い足のような影が多数生えている。まるで大きな蜘蛛であった。
「ギュトね!」
エレナが叫んだ。
「また会おう、テコレイ。だが、今はシュファを返してもらう」
大きな蜘蛛は、また蜘蛛の巣を吐き、象の化け物を取り込んで持ち上げた。
一同が蜘蛛の巣に右往左往しているうちに、象の化け物も大きな蜘蛛もどこかへ消えた。
◇
その日の陰陽部の活動はそれで終わった。エイジは姉と幼馴染に肩を貸してもらって家路に着いた。そして、その日の夜、エレナは弟の部屋へ行った。
「鞄、かえしてもらってよかったわね」
「あのさ……」
「何よ」
「姉貴、正直、どこから聞けばいいのかわからないんだけど、今日あったことみたいなのが部活動なの?」
「いい質問するじゃない。いい質問だわ。そうね、今日のは、いきなりメインディッシュって感じかしら。いつもはこんなに豪華じゃないんだけどね。いつもは、トランプしたりだとか、カラオケしたりだとか。でも、こういうのも楽しいでしょ」
「いや、俺、本当に死ぬかと思ったし」
「情けないこと言わないの。男でしょ。まぁ、いろいろ聞きたいと思うけど、明日、部室にまた来て。ね。私、エイジと部活できるなんて、本当に嬉しいわ」
「あのさ、今日、夜、一緒に寝てくれない?」
「え? 何、言ってるの! あんた、いくらなんでも、それは難しいでしょ、ダメよ。バカね」
「違うよ、怖いんだよ、あいつらがここへ来るんじゃないかって」
「そういえば小刻みに震えているわね。熱があるのかしら」
「もう、いいよ、俺、でも、今日、いろいろありすぎて……」
エイジはなぜか涙が出てしまっていた。
エレナはかわいそうに思い、こう言った。
「しょうがないね。一緒に寝るのは無理だけど、エイジが眠るまで手を握っていてあげるわ。でも、ジェシカに言わないで」
エレナはベッドに横たわったエイジの手を握った。
「あなたは、これから、もっともっとたくさんの冒険をすることになるから」
姉の言葉の意味はわからなかったが、エイジは不思議と安心し、眠りに落ちていった。
◇
翌日、部室。
陰陽部の全員が揃った。エイジも。
一番窓側に近い席にエレナが座り、その隣にアリシア、その前にベルナス、その隣にミラ、エイジ、その前にジェシカ。どうやら、部内の力関係を表しているようである。
「みんな、揃ったわね。じゃ、昨日の反省会始めるわ」
部長が言った。
「その前に質問がある」
エイジが言った。
「議事の進行予定によれば、質問は最後。いい?」
全くマイペースな姉だ。
「初めての実戦、御苦労様とまず言っておくわ。みんな、やるじゃない。ベルナスもアリシアも。ミラは最後の蜘蛛の出現は見えなかったのかしら?」
「すみません」
ミラが謝った。
「最初だから大目に見るわ。でも精進を忘れないこと。先輩方をよく見習いなさい」
「はい」
「千里眼の役目はミラ。敵の出現を予測するのも、ミラの係。今回、あの蜘蛛が象を助けるだけに動いたから我々は助かっただけよ。いい?」
「はい」
「次はアリシア。とどめが遅れたわね」
「迂闊」
アリシアは表情ひとつ変えないで言った。
「私が撃てと言ったら、躊躇しないで」
「その通りにします」
「それから、ベルナス。敵を倒したあとも油断しないこと。ミラの未熟さをあなたのフォローで補うのよ」
「そうします」
だが、ベルナスは笑顔だった。
「そして、新入部員の二人。びびらないこと」
「待て、俺は入部してないぞ。新入部員は二人じゃない」エイジは言った。「それに化け物と戦うなんて高校生のすることじゃない。ジェシカもここにいる必要はないぞ」
「あら、辞められると思っているの?」部長が言った。「こんなに秘密を見ていて」
「秘密なんて知らない」
「あら、今日は化け物の正体と陰陽部の秘密を暴きに来たのではなくて?」
「う……」
「それにあの化け物は、エイジのことを知ってしまった。陰陽部に入らないと言うなら、今後、あの化け物をどうやって追い払うつもりかしら?」
エイジはあの化け物よりも姉の方が恐ろしくなった。
「エイジ……」前に座っている幼馴染が不安そうに言った。「お姉さんの言うこと、ちゃんと聞いておこうよ」
エイジの意図していない所で入部問題はもう終わっていたのだ。仕方なくエイジは入ることにした。
「入部させてください……」
「そう。では、エイジ・ロックウッド君。あらためて、よろしく。私が部長のエレナ・ロックウッド」
「エイジ・ロックウッドです。よろしくお願いします」
他の部員は頭をもたげて笑いをこらえた。
「ようこそ、陰陽部へ」ベルナスが言った。「やっと男子一人の状態から解放されます」
「やっと本筋に入れるわね。やりやすくなった」と、部長。「質問があるでしょう、新入部員」
「まず、」エイジが言った。「あの化け物は一体、何ですか?」
「神。いや、かつての宇宙の支配者。前にも言わなかったかしら」
「なぜ、あの化け物は姉貴、いや部長のことを知っているんだ? なぜ、テコレイと呼ぶ?」
「私の幼馴染みだからよ」
「え? 初耳だ」
「どこから話せばいいかしら。そうね、彼等は昔は普通の人間の子供だったのよ。ある研究所に引き取られて、ある実験をされたの。エイジが生まれる前のこと。私が小さい時は、彼等とお友達みたいなものだったわ」
「姉貴、いや部長も実験されたのか? 俺も?」
「まさか。私達は、実験なんかされてない。それで、どうやって人間が手に入れたかわからないイーヴァイラスの力を彼等は遺伝的に移植されたのよ」
「化け物はあの二体だけなのか?」
「私の記憶が正しければ、全部で三体。三男のシュファ。こいつが象の化け物で、イーヴァイラスのチャウグナー・フォーンが移植されている。次男は、ギュトで蜘蛛のアトラック・ナチャが移植されているわ。そして、ブライトン・シティで確認されてはないけど、長男のサグダ、おそらくこれは触手の生えた蜥蜴の化け物ロイガーが移植されてるわ。こいつが一番の厄介者よ」
そこまで、エレナは一気に話した。エイジもジェシカも、ほぼ理解できなかった。
「ああ、とにかく三体はいるんだな。気をつけないとな、ジェシカ」
「うん」
「それから、もうひとつの質問、」エイジは恐る恐るたずねた。「あの、みなさん、普通の人間なんですか?」
「フフフ」とエレナ。「見れば、わかるでしょう。普通の人間。でも、イーヴァイラスの力を持っているのよ」
「イーヴァイラスってことは、あの化け物と同じってことですか?」
「そう」
エイジとジェシカは青ざめた。
「ってことは、俺もジェシカもイーヴァイラスの方達と一緒にいるってことで、ちょ、ちょっと待ってくださいね、落ち着くから、気持ちをね、いや、無理です、やっぱり、ちょっと……」
エイジは慌てたように言った。
「その力は、ここにいる誰もが持っているのよ。エイジにも、ジェシカにも。あなた、自分の姉も怖いの?」
「し、信じられない。あ、姉貴も、な、何か力を持ってるの?」
「私のは、どうやら、それを顕現させる力、つまり目覚めさせる力のようだわ。イーヴァイラスのグロースの力よ。ここでおさらいすると、ベルナスが電撃のフサッグァで、アリシアが空間断裂波のクティラ。ミラが千里眼のヴルトゥーム。どう、凄い布陣でしょ」
エレナは得意気だった。
「それで姉貴はその超能力戦隊のリーダーってわけ?」
「そう」
さらに、エレナは得意気になった。
「ところで、部長はどうやってその力に目覚めたのですか?」
それまで黙って聞いていたジェシカが言った。
「おや、興味持ったの? 義妹よ」
エイジは、エレナがジェシカを義妹と呼ぶことに、ジェシカが違和感を持っていないことに気づいた。
「はい。凄いです。私もあるのかなって。そうしたら、私も強くなれますね」
「姉貴、あ、いや部長、」エイジが口を挟んだ。「ジェシカの質問の答えは? どうやって、力があることに気づいた? なぜ、俺に教えてくれなかったんだ?」
「力は、いつの間にか気づいたのよ。よく覚えていない。エイジに教えなかったのは、聞かれなかったからよ」
聞かれなかったから? エイジは思った。そんな力があるのかなんて、知りようもないのに聞ける訳がない。
姉は明らかに何か核心的なことを隠しているに違いない。
エイジは語気を強くして質問を続けた。
「それから、力が顕現した人間はまた元の人間に戻れるのか?」
「それはわからないわ」
エレナは自信なさそうに答える。
「最後に、力が顕現した人間は、あの化け物みたいに変貌してしまうことはないのか?」
すると、その質問に全員の視線が、エレナに集まった。そして、エレナはしばらく沈黙した後、こう言った。
「……わからないわ」
エレナは申し訳なさそうな表情だった。弟のエイジは、姉のこんなに弱気な姿を見たことはなかった。
「信じてる」
しばらく続いた沈黙の後、それまで一言も発していなかったアリシアがポツリと言った。
「僕も部長を信じていますよ」ベルナスも言った。「大丈夫です。心配されているようなことは、何もありません。それは僕達が実証しているではありませんか」
「そ、そうです、」ミラだった。「私も最初は不安だったけど、今はそんなこともありません。だから、お二人も私達と一緒に部活しましょ、楽しいです」
エイジはジェシカを見た。何も言葉を発しなかったが、屈託のない微笑みで返された。
そして、姉を見た。うっすらと涙を浮かべているが、とても嬉しそうだった。エイジはびっくりした。こんな表情は今まで自分に見せたことはない。いつも我が儘、強気で負けず嫌い。エイジは本当に驚いた。
「部長、」エイジが言った。「いや、姉貴。いい仲間に恵まれたな。俺もこの中にいれてくれるかい?」
「そうよ。うん……ありがとう」