- 035 捕獲作戦(2) -
文字数 3,305文字
一方、Bチームは数匹のシャンをベルナスの電撃で退治していた。
「厄介な者がひそんでいました」
ベルナスが言った。
「Aチームは大丈夫かしら?」
ジェシカが不安そうに言った。
「エイジさんもいますし、大丈夫ですよ」
「また、もう一匹来ますね。私の後ろにいてください」
「いえ、今度は私がやってみます」
そして、ジェシカは深く呼吸した。
「いあ いあ つぁーる!」
ジェシカは、そう叫んだ。
すると、ジェシカの影が、すくっと立ち上がり、何か得体の知れない姿に変わりながら巨大化していった。そして、巨大化したその姿に、緑の目が光っていた。それは、まるで巨大な二足で立ち上がった蜥蜴であった。忌まわしき翼。泣き叫ぶ多数の触手の腕。それがツァールの姿。ジェシカに閉じ込められていたイーヴァイラスが顕現した。だが、そのあらわれた忌まわしい姿は、ジェシカが作り出した幻影である。ジェシカは、自分の両手を振り回すと、同じようにツァールの両手も振り回された。そして、ジェシカが掴めば、ツァールも掴む。そして、ツァールに捕らえられたシャンは、いとも簡単に潰されていく。そうやって、ツァールは何匹ものシャンを葬っていった。
「凄いです、ジェシカさん」
ベルナスがそう言うと、ジェシカは得意顔だった。
Aチームの三人は、ヴルトゥームの殻、ラヴォルモスの楯の中に身を潜めて、シャンの攻撃をかわしているだけだった。
相変わらず、エイジにエルディリオン神族は顕れない。
「エイジ、頼むわよ。だんだん、シャンの攻撃が激しくなってきているわ」
エレナは言った。
ごつごつとシャンはミラのラヴォルモスの楯に体当たりしていた。
相変わらず、ミラとエイジはキスをしていた。
「エルディリオン神族は、ミラにも飽きたのかしら。ちょっと選手交代してみた方がいいかもね。エイジ、今度は私とキスするのよ」
「え、姉貴と!」
「そうよ」
遂にこの時が来た。でも、もう四の五の言ってられない。エイジは、ミラとキスするのを止めると、急いでエレナとキスした。
もう、なんでもきやがれ! 姉だろうが、なんだろうが、かまうもんか。
「あれ、きたよ!」
エイジの中にエルディリオン神族が現れた。
「ヴルトゥーム、開けよ」
エルディリオン神族をまとったエイジが言った。ラヴォルモスの楯が少し開き、エイジだけ外に出た。
「シャン! 滅びよ」
エルディリオン神族は、飛び回るシャンに向けて掌打の構えをとると、シャンは形を留めないで、みるみるひしゃげていった。そして、最後には、姿がなくなった。
そして、エイジは、もう一匹隠れていたシャンを摘み出すと、両手で掴んで頭と胴体を引きちぎった。
「全部、やっつけたぞ、女ども」
エイジは言った。
ラヴォルモスの楯が消え、エレナとミラが出てきた。
「助かったわ、エイジ」
エイジは、何を思ったか、またエレナを両腕で抱きしめて、キスをした。ミラは、不意打ちを受けたエレナを、ただ眺めた。
「あ、あのう、お二人、姉弟であっても、実は、そういう御関係なんですか?」
ミラは訊いた。しかし、その問いにも答えず、エイジはエレナを押さえたままキスし続けた。
エレナは抵抗していたが、やがて抵抗しなくなって、弟に身を委ねた。
「私、し、知らなかったので、ショックです」
ミラは、驚きを隠していなかった。
やがて、エイジはエレナを放した。
「はぁ、もう、何よ、エイジ! それから、ミラ、これは事故よ、いいこと、誰にも言っちゃダメ」
エレナは言った。
「全部、退治してやったんだ、それくらい、いいだろう」
エイジは応えた。
「あ、あのう、まだ、エルディリオン神族さんなのですか?」
ミラが尋ねた。
「当たり前だ。しばらく、このままで行く。ヴルトゥーム、次は、おまえの番だからな」
「え、何のことです?」
「もうすぐ、ここへ蜘蛛が来る。そいつも退治するから、その後はヴルトゥームとキスだ」
「さっきも、たくさんしましたよ」
「足りなかったんだよ。ヴルトゥームとはたくさんキスしないとな」
エレナもミラも、エイジの変貌には少しげんなりした。
「あのう、エルディリオン神族。あなたの名前は、何です?」
エレナが、珍しくも下手に出て訊いた。
「俺の名前など、なんでもいいだろう。エルディリオン神族と呼んでくれて結構だ」
「それでも、個人的にお聞きしたいなぁっと」
「おそらく、おまえも知らない名だ。ところで、グロース、おまえ、確かグロースだな。なぜ、オーティオン神族がここにいる?」
「まぁ、いろいろと」
「なぜ、ロイガーとあとの雑魚二匹をわざわざオーティオン神族が倒すのだ? それに、おまえなら、この惑星ごと消し去れるだろう」
「いえ、グロースのすべての力が、私に与えられているわけではなくて……」
「そうなのか。かわいそうなことだ。それより、あの蜘蛛神は、あれで隠れているつもりか?」
「あのエルディリオン神族の方、くれぐれも殺さずにお願いしますね」
エレナは頼んだ。
「面倒くさいな。あいつが無理に抵抗したら、捻りつぶしてやるのだが。足の一本二本無くなっても構わないか?」
「それぐらいでしたらOKですので」
「じゃ、任せろ」
だが、エルディリオン神族の力をまとったエイジは粗野な感じはあるがたくましく頼もしい。ミラもエレナもほれぼれとエイジを見た。
「部長、」ミラがエレナに小声で言った。「エルディリオン神族のエイジくん、素敵です……」
「本当だな。姉の私でも、吸い寄せられそう」
「さっきのキスは、いつもされているんでしょうか?」
「ミラ、怒るよ、そんなこと訊くなんて。してるわけないでしょ」
「でも、部長はエイジくんのことが大好きだ、ってベルナス先輩が言ってましたよ」
「あの男! 陰で、そんないい加減なことをいいふらしてるの?」
と、エレナとミラがおしゃべりしていた間に、ゴーンと響き渡る金属的な音がした。その方を見ると、どこから出したのかエイジは金属的な楯でアトラック・ナチャの体当たり攻撃を防いでいた。
◇
「来ましたね」ベルナスが言った。「そのまま、行けそうですか?」
「ええ! 任せてください」
ツァールを操るジェシカが応えた。
森の木々の奥に怪しく光る眼光。ばさばさと振りかざす大きな耳。上に直立する長い鼻。イーヴァイラスのチャウグナー・フォーン!
だが、ツァールとの大きさは違いすぎる。いくら鼻を高く掲げようと、その大きさの比率は微動にもしない。象の化け物はツァールが出てくるとは思ってもみなかったようで、一瞬たじろいだのがわかった。何しろ、兄のサグダのロイガーとは双子の兄弟と呼ばれているイーヴァイラス同士である。象の化け物となるシュファからすれば、兄であるサグダの真の姿と変わらないイーヴァイラスとは戦いづらいかもしれない。
「行け、ツァール! 象の化け物を捕まえろ!」
ジェシカがそう言うと、ツァールの左腕が触手となって、するするとチャウグナー・フォーンへと伸び、絡みついた。
チャウグナー・フォーンは、捕まえられながらも、鼻をツァールの触手へばしばしと打ちつけたりしたが、触手はいっこうにその力を緩めたりしない。
「ちょっと、痛いじゃない!」
ジェシカが叫ぶと、ツァールの背中から大きな翼が出てきた。そして、はばたくとチャウグナー・フォーンを捕まえたまま、空中に浮かんだ。そして、空中からチャウグナー・フォーンを地面に叩きつけると、チャウグナー・フォーンは、沈黙した。
そして、ゆっくりとツァールは着地した。チャウグナー・フォーンは石化し、そのまま固まった。
「やった! ベルナス先輩! 私、できた!」
ジェシカは叫んだ。
「やりましたね、ジェシカさん」
ベルナスも喜んだ。
戦力の差は歴然だったが、初陣勝利のジェシカは、喜び勇んだ。
「疲れませんでしたか?」
「大丈夫です」
「おそらく、石化したチャウグナー・フォーンは、しばらくこのままです。この場所だけ、GPSにマークしたら、目標地点へ急ぎましょう」
「はい」
「では、ジェシカさん、ツァールを退散させてください」
「そうでしたね。……つぁーる あい あい!」
ツァールは、すっと消えた。
「厄介な者がひそんでいました」
ベルナスが言った。
「Aチームは大丈夫かしら?」
ジェシカが不安そうに言った。
「エイジさんもいますし、大丈夫ですよ」
「また、もう一匹来ますね。私の後ろにいてください」
「いえ、今度は私がやってみます」
そして、ジェシカは深く呼吸した。
「いあ いあ つぁーる!」
ジェシカは、そう叫んだ。
すると、ジェシカの影が、すくっと立ち上がり、何か得体の知れない姿に変わりながら巨大化していった。そして、巨大化したその姿に、緑の目が光っていた。それは、まるで巨大な二足で立ち上がった蜥蜴であった。忌まわしき翼。泣き叫ぶ多数の触手の腕。それがツァールの姿。ジェシカに閉じ込められていたイーヴァイラスが顕現した。だが、そのあらわれた忌まわしい姿は、ジェシカが作り出した幻影である。ジェシカは、自分の両手を振り回すと、同じようにツァールの両手も振り回された。そして、ジェシカが掴めば、ツァールも掴む。そして、ツァールに捕らえられたシャンは、いとも簡単に潰されていく。そうやって、ツァールは何匹ものシャンを葬っていった。
「凄いです、ジェシカさん」
ベルナスがそう言うと、ジェシカは得意顔だった。
Aチームの三人は、ヴルトゥームの殻、ラヴォルモスの楯の中に身を潜めて、シャンの攻撃をかわしているだけだった。
相変わらず、エイジにエルディリオン神族は顕れない。
「エイジ、頼むわよ。だんだん、シャンの攻撃が激しくなってきているわ」
エレナは言った。
ごつごつとシャンはミラのラヴォルモスの楯に体当たりしていた。
相変わらず、ミラとエイジはキスをしていた。
「エルディリオン神族は、ミラにも飽きたのかしら。ちょっと選手交代してみた方がいいかもね。エイジ、今度は私とキスするのよ」
「え、姉貴と!」
「そうよ」
遂にこの時が来た。でも、もう四の五の言ってられない。エイジは、ミラとキスするのを止めると、急いでエレナとキスした。
もう、なんでもきやがれ! 姉だろうが、なんだろうが、かまうもんか。
「あれ、きたよ!」
エイジの中にエルディリオン神族が現れた。
「ヴルトゥーム、開けよ」
エルディリオン神族をまとったエイジが言った。ラヴォルモスの楯が少し開き、エイジだけ外に出た。
「シャン! 滅びよ」
エルディリオン神族は、飛び回るシャンに向けて掌打の構えをとると、シャンは形を留めないで、みるみるひしゃげていった。そして、最後には、姿がなくなった。
そして、エイジは、もう一匹隠れていたシャンを摘み出すと、両手で掴んで頭と胴体を引きちぎった。
「全部、やっつけたぞ、女ども」
エイジは言った。
ラヴォルモスの楯が消え、エレナとミラが出てきた。
「助かったわ、エイジ」
エイジは、何を思ったか、またエレナを両腕で抱きしめて、キスをした。ミラは、不意打ちを受けたエレナを、ただ眺めた。
「あ、あのう、お二人、姉弟であっても、実は、そういう御関係なんですか?」
ミラは訊いた。しかし、その問いにも答えず、エイジはエレナを押さえたままキスし続けた。
エレナは抵抗していたが、やがて抵抗しなくなって、弟に身を委ねた。
「私、し、知らなかったので、ショックです」
ミラは、驚きを隠していなかった。
やがて、エイジはエレナを放した。
「はぁ、もう、何よ、エイジ! それから、ミラ、これは事故よ、いいこと、誰にも言っちゃダメ」
エレナは言った。
「全部、退治してやったんだ、それくらい、いいだろう」
エイジは応えた。
「あ、あのう、まだ、エルディリオン神族さんなのですか?」
ミラが尋ねた。
「当たり前だ。しばらく、このままで行く。ヴルトゥーム、次は、おまえの番だからな」
「え、何のことです?」
「もうすぐ、ここへ蜘蛛が来る。そいつも退治するから、その後はヴルトゥームとキスだ」
「さっきも、たくさんしましたよ」
「足りなかったんだよ。ヴルトゥームとはたくさんキスしないとな」
エレナもミラも、エイジの変貌には少しげんなりした。
「あのう、エルディリオン神族。あなたの名前は、何です?」
エレナが、珍しくも下手に出て訊いた。
「俺の名前など、なんでもいいだろう。エルディリオン神族と呼んでくれて結構だ」
「それでも、個人的にお聞きしたいなぁっと」
「おそらく、おまえも知らない名だ。ところで、グロース、おまえ、確かグロースだな。なぜ、オーティオン神族がここにいる?」
「まぁ、いろいろと」
「なぜ、ロイガーとあとの雑魚二匹をわざわざオーティオン神族が倒すのだ? それに、おまえなら、この惑星ごと消し去れるだろう」
「いえ、グロースのすべての力が、私に与えられているわけではなくて……」
「そうなのか。かわいそうなことだ。それより、あの蜘蛛神は、あれで隠れているつもりか?」
「あのエルディリオン神族の方、くれぐれも殺さずにお願いしますね」
エレナは頼んだ。
「面倒くさいな。あいつが無理に抵抗したら、捻りつぶしてやるのだが。足の一本二本無くなっても構わないか?」
「それぐらいでしたらOKですので」
「じゃ、任せろ」
だが、エルディリオン神族の力をまとったエイジは粗野な感じはあるがたくましく頼もしい。ミラもエレナもほれぼれとエイジを見た。
「部長、」ミラがエレナに小声で言った。「エルディリオン神族のエイジくん、素敵です……」
「本当だな。姉の私でも、吸い寄せられそう」
「さっきのキスは、いつもされているんでしょうか?」
「ミラ、怒るよ、そんなこと訊くなんて。してるわけないでしょ」
「でも、部長はエイジくんのことが大好きだ、ってベルナス先輩が言ってましたよ」
「あの男! 陰で、そんないい加減なことをいいふらしてるの?」
と、エレナとミラがおしゃべりしていた間に、ゴーンと響き渡る金属的な音がした。その方を見ると、どこから出したのかエイジは金属的な楯でアトラック・ナチャの体当たり攻撃を防いでいた。
◇
「来ましたね」ベルナスが言った。「そのまま、行けそうですか?」
「ええ! 任せてください」
ツァールを操るジェシカが応えた。
森の木々の奥に怪しく光る眼光。ばさばさと振りかざす大きな耳。上に直立する長い鼻。イーヴァイラスのチャウグナー・フォーン!
だが、ツァールとの大きさは違いすぎる。いくら鼻を高く掲げようと、その大きさの比率は微動にもしない。象の化け物はツァールが出てくるとは思ってもみなかったようで、一瞬たじろいだのがわかった。何しろ、兄のサグダのロイガーとは双子の兄弟と呼ばれているイーヴァイラス同士である。象の化け物となるシュファからすれば、兄であるサグダの真の姿と変わらないイーヴァイラスとは戦いづらいかもしれない。
「行け、ツァール! 象の化け物を捕まえろ!」
ジェシカがそう言うと、ツァールの左腕が触手となって、するするとチャウグナー・フォーンへと伸び、絡みついた。
チャウグナー・フォーンは、捕まえられながらも、鼻をツァールの触手へばしばしと打ちつけたりしたが、触手はいっこうにその力を緩めたりしない。
「ちょっと、痛いじゃない!」
ジェシカが叫ぶと、ツァールの背中から大きな翼が出てきた。そして、はばたくとチャウグナー・フォーンを捕まえたまま、空中に浮かんだ。そして、空中からチャウグナー・フォーンを地面に叩きつけると、チャウグナー・フォーンは、沈黙した。
そして、ゆっくりとツァールは着地した。チャウグナー・フォーンは石化し、そのまま固まった。
「やった! ベルナス先輩! 私、できた!」
ジェシカは叫んだ。
「やりましたね、ジェシカさん」
ベルナスも喜んだ。
戦力の差は歴然だったが、初陣勝利のジェシカは、喜び勇んだ。
「疲れませんでしたか?」
「大丈夫です」
「おそらく、石化したチャウグナー・フォーンは、しばらくこのままです。この場所だけ、GPSにマークしたら、目標地点へ急ぎましょう」
「はい」
「では、ジェシカさん、ツァールを退散させてください」
「そうでしたね。……つぁーる あい あい!」
ツァールは、すっと消えた。