- 037 捕獲作戦(4) -

文字数 2,776文字

 森の中。
 やっと湖畔まで辿りついたAチーム。
 エイジは、グロースの顕現が終わった後のエレナを担いでいて、歩いていた。ミラは、その後ろを歩いていた。

「この女は、グロースの顕現が終わると、いつも倒れるのか?」

 エイジは、ミラに訊いた。

「ぶ、部長のグロースが顕現すると、か、かなりの生体エネルギーを使う、って言ってました」

 ミラが応えた。

「これじゃ、戦力どころか、足手まといだな。どこかに寝かせて行くか」

「あ、あの、一応、エイジくんのお姉様なので、大切に、お、お願いします」

「面倒くせぇな。第一、なんで、俺がオーティオン神族の弟なんだ? ありえないだろ」

「あ、あの、そのあたりは、誤魔化し誤魔化しで、お、お願いします」

「で、ロイガーを捕まえたら、今度は、ミラちゃんと、……いいんだろ?」

 エイジは、いやらしく笑った。

「そ、それは、いろいろ問題もありますよ、第一、おそらく、アリシア先輩もいますし……」

「あぁ、あの、クティラ持ってる子ね」

「あのぅ、エイジくん、今、喋っているのは、エイジくんなの、それともエルディリオン神族なの?」

「なんか、よくわからんのだ。人格っていうか、なんか、そういのうも融合されたみたいな感じだな」

「もしかして、顕現したまま生きていくことになるんですか?」

「それは、ないな。俺、すぐ眠くなるし。眠ったら、オリジナルのエイジの人格に戻ると思うよ」

「そうなんですか」

「なに、今のこの俺に不満?」

「い、いえ、そうじゃなくて、なんていうか、ワイルドなエイジくんも素敵だなぁって」

「そうか! ワイルドか! 俺ってワイルドか!」

 エルディリオン神族をまとったエイジは、実に単純なキーワードで喜んだ。
 ミラは、こうした男の扱いに、実に手慣れているようであった。

「あ、湖の向こう岸に、Bチームがいるようです!」

 ミラは、ヴルトゥームの力を発揮して、彼等が見えたようだ。夜明けだが、薄暗い森の中で、エイジにはよくわからなかった。

「よかった、二人とも、無事のようです」

「あっちには、フサッグァとツァールを持ってるのがいるんだったな」

「そ、そうです」

「今、俺の仲間になってるのは、大昔に戦争した相手ばかりなんだな」

「大昔、戦争したんですか?」

「なんだ、覚えてないのか、ヴルトゥームは」

「ヴルトゥームと言っても、力だけで、記憶とかはないんです。部長には、記憶もあるみたいですけど」

「そうなのか。まぁ、エルディリオン神族が、ほとんどのオーティオン神族とイーヴァイラスどもをウボ・サスラっていう沼の化け物の中に溶かしたからな。蘇ることは、ほぼないだろうが」

「じゃ、なぜ、私達には力があるんですかね? それに、三兄弟とかは力だけでなく姿形まで顕現していますよ」

「どこかの馬鹿が、ウボ・サスラを突付いたんだろう」

「そうなんですか。あのう、では、エルディリオン神族は、また、イーヴァイラスを溶かしたりしますか? 我々も含めて」

「まぁ、今の俺には、積年の恨みも何もなし。イーヴァイラスだろうが、なんだろうが、仲良くやるから、安心しろ」

「よかったです!」

「だって、俺、ミラちゃんに惚れちゃってるもの。溶かしたりなんか、しないからさ」

「なんか、オヤジくさいです、そんな言い方」

「いやぁ、それはすまんな!」

 くだらない会話をしながら、歩いていた二人だが、目標地点が、肉眼でも見えるようになってきた。
 湖岸の最北地が目標地点である。

「何か、見えるか?」

 エイジがミラに訊いた。

「宇宙船のようです。でも、この型は、きっと連邦のものではないと思います。どこか、別の星系のものだと思います」

 ヴルトゥームの力を使ったミラが言った。

「ロイガーはいるのか?」

「見えません」

「宇宙船の中にもいないか?」

「宇宙船の中にもいないようです」

「しまった。もう、どこかへトンズラしやがった。ヤツの今の居場所はわかるか?」

「どこかしら、え、ええと、わかりました、雲の上です!」

「なんだって! そうか、ヤツは星間宇宙を歩むもの、だったな!」

 エイジは、上空を見た。

「おい、もう、起きろ、エレナ!」

 エイジは、担いでいたエレナを呼び捨てにして、頬を軽く叩いた。

「あん……」エレナは気が付いた。「ここは、どこ?」

「もうじき目標地点だが、ロイガーのヤツ、空に逃げたようだ」

「え、そうなの?」

「どうする?」

「Bチームは、いるの?」

「湖の反対側にいるらしい」

「そう、じゃ、ミラ、照明弾を上げて!」

「は、はい」

 ミラは、担いでいたリュックから、照明弾を取り出し、打ち上げた。
 ぱん!

「きゃ!」

 発射の音に、ミラは一瞬怯んだ。
 と、辺りに、閃光。

 一方の、反対側の湖畔の所にいたBチーム。
 朝もやの中、ジェシカは、対岸の森の上に光るものを見つけた。

「ベルナス先輩、照明弾です!」

 ジェシカが言った。

「そうですね。一発だけのようですから、トランシーバの電源を入れろという合図ですね」

 ベルナスは、トランシーバの電源を入れ、コールボタンを押した。

「こっちはAチームよ。無事だった?」

 エレナの声が受信できた。

「Bチーム。全員無事です。途中、チャウグナー・フォーンを石化させてきました。ジェシカの活躍です」

 ベルナスが言った。ジェシカは、自慢そうにした。

「そう、お手柄ね。こっちは蜘蛛神に会ったけど、抵抗されたので、殺してしまったわ。ところで、ロイガーが空に逃げたようなの。ツァールS作戦を開始するわ」

「わかりました」

「それじゃ、がんばって。通信以上」

 通信は切れた。

「では、ジェシカさん。また、お願いしますね」

「はい。……いあ いあ つぁーる!」

 ジェシカの影が、再びツァールに変わっていく。

「飛ぶわよ、ツァール!」

 ツァールの体から一本の触手がジェシカに伸びて、彼女の体を掴んだ。そして、そのまま翼を生やしたツァールは、空中へ舞った。

「気持ちいい!」

 ジェシカは、嬉しそうだった。

「あんたの双子の弟を探すのよ、ツァール。見つかった?」

 ツァールは、頷いた。

「じゃ、そこへ急いで!」

 ばさばさと羽ばたくツァール。と、その進行方向に、ツァールと同じような影が見えた。ロイガーであった。

「ほんとうに、あんたにそっくりだわ。でも、今は、あんたの弟でも、なんでもないから。いいわね」

 また、ツァールは頷いた。ツァールは右手の触手をするするとロイガーめがけて伸ばした。ロイガーはツァールの触手に捕らえられてしまい、失速した。

「今よ、湖に叩き込んでやりなさい!」

 ツァールは、ロイガーをもと来た方角へ引っ張った。そして、眼下の湖へと叩きつけるように落とした。湖に物凄い水しぶきが上がった。

「やった! 凄い、ツァール!」

 空から見ていたジェシカは喜んだ。
 姿はそっくりでも、実力は弟のロイガーより、兄のツァールの方が上であるようだった。
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