- 008 イーヴァイラスの力(1) -
文字数 3,970文字
エイジを含めた陰陽部の一行の六人は、エレナに連れられてヌンガイの森にやって来た。もう、陽は暮れて辺りは暗いが、木々の葉に隠れる街燈の明かりのみで、道筋だけは辛うじて判別できる状態である。
エレナを先頭にぞろぞろと陰陽部御一行が、薄暗い森の中の山道を歩いている。二番手はミラである。森に入ってからキョロキョロと辺りを見回して、すぐ前を歩くエレナと何やら話しながら歩いている。その後ろをベルナス、アリシアと続き、エイジとジェシカが続く。
ジェシカは、ずっと両腕をエイジの左腕にしがみついて歩いていて、おびえて口もきけない。
「だ、大丈夫、なんだから……」
やっと、ジェシカは口を開いた。
「ジェシカ、昔からこの森が嫌いだったな。姉貴に言ってジェシカだけでも帰らせてもらうか?」
「い、行けるから、へ、平気……よ」
ブルブル震えるジェシカの気を紛らわせてやろうとエイジは思った。
「おまえさ、今は俺にくっついてるけど、本当は、ベルナス先輩のとこに行きたいんだろ?」
「何言ってるのよ? さっき、一緒に部室に来たから、そんなこと言ってるんでしょ?」
「だって、おまえ、俺より先に教室出ただろう? なのにどこへ行ってたんだ?」
「それはね、えっと。ああ、エイジ、ヤキモチ焼いてくれてるんだね」
「違うよ、そんなんじゃないさ」
静かな森の道では、二人の会話は小声でも、一番前のエレナまで筒抜けだった。
「ちょっと、」エレナが振り返って言った。「一番後ろの二人組! ミラの気が散るから静かにしなさい! 夫婦喧嘩は帰ってからやってね」
夫婦喧嘩だって! エイジは、むっとしたが、またうるさいとか言われると思い、止めた。それにしても、ミラの気が散るとはどういうことなのか、少しひっかかった。
やがて、エイジは昨日化け物に遭遇した地点まで来ていることに気がついた。見覚えのある木々と恐怖の背景。そして何よりも、そこにはまだあのえぐられた地面の痕跡があったからだ。
「この穴だ」
エイジが言うと一同は振り返り、エイジの視線の先を見つめた。それは重量のあるものを思い切り叩きつけたような、生々しくえぐられた痕だった。
すると、出し抜けにミラが叫んだ。
「何か近くにいます!」
ミラは道の左側の森を指差した。そして、全員が身構え、ミラの指す方向を凝視した。
ザワザワっと木々の枝が揺れる音。バキバキっと折れる音。
何かが近付いて来ている。そして、薄暗がりの中、木々の中にぼんやりと象の化け物の姿が現れた。
「みんな、気をつけて!」
エレナが言った。
「ベルナス、アリシア、前へ」
「はい」
ちょっと、二人を前へって、どういうこと? エイジは、姉を見た。軍隊の司令官でも気取っているつもりなのか?
「ぶ、部長、と、遠くにもう一体います! こ、こちらに近づいてきています!」
ミラが後方の、つまり進行方向の右側の森を指して言った。
「はさみうちってことね」
エレナは深呼吸すると、大声でこう言った。
「私の声が聞こえる? チャウグナー・フォーンさん! あんた、シュファでしょ?」
姉は象の化け物をシュファと呼んだ。一体、姉は何を考えているんだ?
「おまえはテコレイ。……そうなんだな?」
象の化け物が喋った。そして、その姿ははっきりと見えるようになった。一同の眼前、30メートルもない位置に。
「やっと見つけたぞ、テコレイ」
なぜか、化け物は姉をテコレイと呼んだ。一体、姉とこの化け物の間にどんな関係があるのか?
エイジの後ろでジェシカがブルブルと震えている。
「それ以上近付いたら撃つわよ」
よく見ると、前へ出ているベルナスとアリシアの二人は、すくっと立って右腕を水平に伸ばし、手のひらを象の化け物に向けている。空手の掌打の型か、何かの構えのようなポーズだ。
あの二人は何のつもりなんだ?
「チャウグナー・フォーンになれた気分はどう? 自慢しに来たってわけ? でも、こちらには、フサッグァ、クティラとヴルトゥームもいるわ。あなたに勝ち目はない」
と、エレナ。もう、姉が何を言っているのか、わからない。
象の化け物の歩みが止まった。
「懐かしいな、テコレイ。なぜだ。なぜ、幼馴染の俺を殺そうとするのだ」
「まず、言っておくわ。私はテコレイじゃない。エレナよ」
背後に気配。もう一体のヤツか?
「もう一人は、ギュトかしら? 懐かしいわね。でもそこをそれ以上動いたら、フサッグァの電撃をお見舞いするわ」
ふたたび、エレナのわからない単語がエイジを混乱させた。
「も、もう一体は、き、消えました」
ミラが、おどおどと言った。
「どうやら、俺もジェシカも、とんでもない場所にいるようだよ」
エイジは、ジェシカに小声で言った。
「エイジ、怖いよ。でも動けない」
「ここにいるのは、みんな人間じゃないらしい。姉貴も、なんか変だ。いや、昔からちょっとおかしいと思ってたけど、あ、でも、そういうおかしいとは違うけど。ああ、どうしよう」
「では、そこにいるのは、」象の化け物が言った。「テコレイの弟なのか?」
テコレイの弟? って、それは、俺のことなのか? と、エイジは思った。いや、それしかいないよな。ここで姉弟関係って自分と姉のエレナだけだ。ああ、それって、あの怪物が自分のことを知ってるってことなのか? と、エイジの思考が巡った。
「エイジ・ロックウッド」
と、象の化け物が言った。俺の名前を知っているのか!
「昨日のヤツか。俺に鞄を投げつけたのは」
そうか、鞄を見たのか。名前を読んだんだ。だが、人間の字を読めるのか?
「そうだったのか。偶然だったな。では、鞄を返してやろう。ここまで取りに来い、エイジ。俺は動いたら、フサッグァの電撃か、クティラの断裂波を食らうらしいからな」
象の化け物が言った。
「まじかよ!」
エイジは絶叫した。
◇
「鞄を取りに行きなさい、エイジ」
エレナが言った。
エイジは、蒼ざめた。
「い、い、いや、鞄は、もういらないよ。彼にあげようかな」
エイジは薄ら笑いをしながら、おびえた。
「ダメよ。行きなさい」
「行ったら、ダメ!」と、ジェシカが言った。「殺されちゃうわ」
そう言うと、ジェシカは、エイジにしがみついた。
「大丈夫よ」と、エレナは言った。一体、何の自信がそうさせるのか。「でも、血を吸われないようにしてね。エイジの血を吸われたら、ちょっと厄介だから」
どうにか行かないで済む言い訳をあれこれ考えてみたが、全く思いつかない。もう、目をつぶって行くしかない。
「わ、わ、わかった、わかった、行くよ、今、行く」
エイジの呂律は回っていない。
「ジェシカ放して」
「イヤよ。行ってはダメ」
「大丈夫、どうやら運命らしい」
エイジは何か悟った。
「血を吸われなければ、いいんだな」
エイジはジェシカの絡み付く腕を振りほどいて、姉に言った。
「そうよ。これがあなたの運命」
エレナは冷たく言った。
「何かあれば、我々にまかせてください」
ベルナスがエイジに言った。
「頼むよ、フサラとヴルトゥーム」
「いえ、ベルナスがフサッグァで、アリシアがクティラ。ミラがヴルトゥームよ」
「失礼。訂正してくれて、ありがとう、姉貴。だが、全然覚えきれないので、生きて戻ったら、また教えてくれ」
一同は、にやっと笑った。
エイジは前に進んだ。恐る恐るではなく、堂々とチャウグナー・フォーンの前に来た。そいつは昨日見たのと同じヤツだった。だが、長い鼻は昨日とは違い、垂れている。
「よく来た」と、象の化け物が言った。「おまえの鞄だ」
チャウグナー・フォーンはエイジのものと思われる鞄を前に差し出した。
「返してもらうよ」
エイジはチャウグナー・フォーンから鞄を受け取った。
「ありがとな」
「だが、それは、こっちの台詞だ」
チャウグナー・フォーンは大きな耳をバタつかせてエイジを耳で囲んだ。
しまった! エイジは鼻ばかり気にしていたため、耳に注意をおこたっていたのだ。あっという間にエイジは捕まってしまった。
後方で見ていたエレナが叫んだ。
「フサッグァの電撃、ヤツの耳を撃て!」
ベルナスの右手のひらから、閃光がほとばしって闇が照らされ、さらに、バリバリという電撃の音が辺りを包んだ。その電撃の先は、チャウグナー・フォーンだ。
そして、ばしっという音とともに化け物は後ろに倒れこんだ。抱え込まれたエイジは放され、化け物の横に横たわった。
「アリシア、エイジをお願い」
エレナが言った。
アリシアは倒れこんだチャウグナー・フォーンとエイジの元へ飛び出していった。アリシアは、チャウグナー・フォーンの耳の先から伸びる触手がエイジの首元に絡んでいるのを見ると、自分の右手を伸ばして『哈!』と叫んだ。
すると、シュっという音とともに、鋭い刃先のようなものが宙を舞い進んで行くのが見えた。チャウグナー・フォーンの触手は切断され、エイジはアリシアに抱き起こされた。
「アリシアさん……ありがとう」
エイジは気を失いそうになっていたが、何とかふんばっているようだった。
「ごめんなさい。私がついていながら。守りきれなかった」
アリシアが言った。
「俺、平気ですから」
そこへ、エレナを始め陰陽部一同がやってきた。
「エイジ! しっかりして!」
ジェシカは叫んだ。
「大丈夫だ」
エイジは立ち上がった。その手に鞄を持って。
その時、チャウグナー・フォーンが動き出した。ううっと唸りながら。
「気をつけて。まだ、生きているわ」
「少し、エイジの血を取り込んだようね。なら、今のうちにとどめをさしておいた方がいいわ。アリシア、クティラの断裂を」
エレナが言った。
「はい」
アリシアが右手を伸ばしたその瞬間。
フワっと何かが一同を取り囲んだ。蜘蛛の巣のようだ。
「うわ!」
陰陽部全員がその蜘蛛の巣に飲み込まれた。
エレナを先頭にぞろぞろと陰陽部御一行が、薄暗い森の中の山道を歩いている。二番手はミラである。森に入ってからキョロキョロと辺りを見回して、すぐ前を歩くエレナと何やら話しながら歩いている。その後ろをベルナス、アリシアと続き、エイジとジェシカが続く。
ジェシカは、ずっと両腕をエイジの左腕にしがみついて歩いていて、おびえて口もきけない。
「だ、大丈夫、なんだから……」
やっと、ジェシカは口を開いた。
「ジェシカ、昔からこの森が嫌いだったな。姉貴に言ってジェシカだけでも帰らせてもらうか?」
「い、行けるから、へ、平気……よ」
ブルブル震えるジェシカの気を紛らわせてやろうとエイジは思った。
「おまえさ、今は俺にくっついてるけど、本当は、ベルナス先輩のとこに行きたいんだろ?」
「何言ってるのよ? さっき、一緒に部室に来たから、そんなこと言ってるんでしょ?」
「だって、おまえ、俺より先に教室出ただろう? なのにどこへ行ってたんだ?」
「それはね、えっと。ああ、エイジ、ヤキモチ焼いてくれてるんだね」
「違うよ、そんなんじゃないさ」
静かな森の道では、二人の会話は小声でも、一番前のエレナまで筒抜けだった。
「ちょっと、」エレナが振り返って言った。「一番後ろの二人組! ミラの気が散るから静かにしなさい! 夫婦喧嘩は帰ってからやってね」
夫婦喧嘩だって! エイジは、むっとしたが、またうるさいとか言われると思い、止めた。それにしても、ミラの気が散るとはどういうことなのか、少しひっかかった。
やがて、エイジは昨日化け物に遭遇した地点まで来ていることに気がついた。見覚えのある木々と恐怖の背景。そして何よりも、そこにはまだあのえぐられた地面の痕跡があったからだ。
「この穴だ」
エイジが言うと一同は振り返り、エイジの視線の先を見つめた。それは重量のあるものを思い切り叩きつけたような、生々しくえぐられた痕だった。
すると、出し抜けにミラが叫んだ。
「何か近くにいます!」
ミラは道の左側の森を指差した。そして、全員が身構え、ミラの指す方向を凝視した。
ザワザワっと木々の枝が揺れる音。バキバキっと折れる音。
何かが近付いて来ている。そして、薄暗がりの中、木々の中にぼんやりと象の化け物の姿が現れた。
「みんな、気をつけて!」
エレナが言った。
「ベルナス、アリシア、前へ」
「はい」
ちょっと、二人を前へって、どういうこと? エイジは、姉を見た。軍隊の司令官でも気取っているつもりなのか?
「ぶ、部長、と、遠くにもう一体います! こ、こちらに近づいてきています!」
ミラが後方の、つまり進行方向の右側の森を指して言った。
「はさみうちってことね」
エレナは深呼吸すると、大声でこう言った。
「私の声が聞こえる? チャウグナー・フォーンさん! あんた、シュファでしょ?」
姉は象の化け物をシュファと呼んだ。一体、姉は何を考えているんだ?
「おまえはテコレイ。……そうなんだな?」
象の化け物が喋った。そして、その姿ははっきりと見えるようになった。一同の眼前、30メートルもない位置に。
「やっと見つけたぞ、テコレイ」
なぜか、化け物は姉をテコレイと呼んだ。一体、姉とこの化け物の間にどんな関係があるのか?
エイジの後ろでジェシカがブルブルと震えている。
「それ以上近付いたら撃つわよ」
よく見ると、前へ出ているベルナスとアリシアの二人は、すくっと立って右腕を水平に伸ばし、手のひらを象の化け物に向けている。空手の掌打の型か、何かの構えのようなポーズだ。
あの二人は何のつもりなんだ?
「チャウグナー・フォーンになれた気分はどう? 自慢しに来たってわけ? でも、こちらには、フサッグァ、クティラとヴルトゥームもいるわ。あなたに勝ち目はない」
と、エレナ。もう、姉が何を言っているのか、わからない。
象の化け物の歩みが止まった。
「懐かしいな、テコレイ。なぜだ。なぜ、幼馴染の俺を殺そうとするのだ」
「まず、言っておくわ。私はテコレイじゃない。エレナよ」
背後に気配。もう一体のヤツか?
「もう一人は、ギュトかしら? 懐かしいわね。でもそこをそれ以上動いたら、フサッグァの電撃をお見舞いするわ」
ふたたび、エレナのわからない単語がエイジを混乱させた。
「も、もう一体は、き、消えました」
ミラが、おどおどと言った。
「どうやら、俺もジェシカも、とんでもない場所にいるようだよ」
エイジは、ジェシカに小声で言った。
「エイジ、怖いよ。でも動けない」
「ここにいるのは、みんな人間じゃないらしい。姉貴も、なんか変だ。いや、昔からちょっとおかしいと思ってたけど、あ、でも、そういうおかしいとは違うけど。ああ、どうしよう」
「では、そこにいるのは、」象の化け物が言った。「テコレイの弟なのか?」
テコレイの弟? って、それは、俺のことなのか? と、エイジは思った。いや、それしかいないよな。ここで姉弟関係って自分と姉のエレナだけだ。ああ、それって、あの怪物が自分のことを知ってるってことなのか? と、エイジの思考が巡った。
「エイジ・ロックウッド」
と、象の化け物が言った。俺の名前を知っているのか!
「昨日のヤツか。俺に鞄を投げつけたのは」
そうか、鞄を見たのか。名前を読んだんだ。だが、人間の字を読めるのか?
「そうだったのか。偶然だったな。では、鞄を返してやろう。ここまで取りに来い、エイジ。俺は動いたら、フサッグァの電撃か、クティラの断裂波を食らうらしいからな」
象の化け物が言った。
「まじかよ!」
エイジは絶叫した。
◇
「鞄を取りに行きなさい、エイジ」
エレナが言った。
エイジは、蒼ざめた。
「い、い、いや、鞄は、もういらないよ。彼にあげようかな」
エイジは薄ら笑いをしながら、おびえた。
「ダメよ。行きなさい」
「行ったら、ダメ!」と、ジェシカが言った。「殺されちゃうわ」
そう言うと、ジェシカは、エイジにしがみついた。
「大丈夫よ」と、エレナは言った。一体、何の自信がそうさせるのか。「でも、血を吸われないようにしてね。エイジの血を吸われたら、ちょっと厄介だから」
どうにか行かないで済む言い訳をあれこれ考えてみたが、全く思いつかない。もう、目をつぶって行くしかない。
「わ、わ、わかった、わかった、行くよ、今、行く」
エイジの呂律は回っていない。
「ジェシカ放して」
「イヤよ。行ってはダメ」
「大丈夫、どうやら運命らしい」
エイジは何か悟った。
「血を吸われなければ、いいんだな」
エイジはジェシカの絡み付く腕を振りほどいて、姉に言った。
「そうよ。これがあなたの運命」
エレナは冷たく言った。
「何かあれば、我々にまかせてください」
ベルナスがエイジに言った。
「頼むよ、フサラとヴルトゥーム」
「いえ、ベルナスがフサッグァで、アリシアがクティラ。ミラがヴルトゥームよ」
「失礼。訂正してくれて、ありがとう、姉貴。だが、全然覚えきれないので、生きて戻ったら、また教えてくれ」
一同は、にやっと笑った。
エイジは前に進んだ。恐る恐るではなく、堂々とチャウグナー・フォーンの前に来た。そいつは昨日見たのと同じヤツだった。だが、長い鼻は昨日とは違い、垂れている。
「よく来た」と、象の化け物が言った。「おまえの鞄だ」
チャウグナー・フォーンはエイジのものと思われる鞄を前に差し出した。
「返してもらうよ」
エイジはチャウグナー・フォーンから鞄を受け取った。
「ありがとな」
「だが、それは、こっちの台詞だ」
チャウグナー・フォーンは大きな耳をバタつかせてエイジを耳で囲んだ。
しまった! エイジは鼻ばかり気にしていたため、耳に注意をおこたっていたのだ。あっという間にエイジは捕まってしまった。
後方で見ていたエレナが叫んだ。
「フサッグァの電撃、ヤツの耳を撃て!」
ベルナスの右手のひらから、閃光がほとばしって闇が照らされ、さらに、バリバリという電撃の音が辺りを包んだ。その電撃の先は、チャウグナー・フォーンだ。
そして、ばしっという音とともに化け物は後ろに倒れこんだ。抱え込まれたエイジは放され、化け物の横に横たわった。
「アリシア、エイジをお願い」
エレナが言った。
アリシアは倒れこんだチャウグナー・フォーンとエイジの元へ飛び出していった。アリシアは、チャウグナー・フォーンの耳の先から伸びる触手がエイジの首元に絡んでいるのを見ると、自分の右手を伸ばして『哈!』と叫んだ。
すると、シュっという音とともに、鋭い刃先のようなものが宙を舞い進んで行くのが見えた。チャウグナー・フォーンの触手は切断され、エイジはアリシアに抱き起こされた。
「アリシアさん……ありがとう」
エイジは気を失いそうになっていたが、何とかふんばっているようだった。
「ごめんなさい。私がついていながら。守りきれなかった」
アリシアが言った。
「俺、平気ですから」
そこへ、エレナを始め陰陽部一同がやってきた。
「エイジ! しっかりして!」
ジェシカは叫んだ。
「大丈夫だ」
エイジは立ち上がった。その手に鞄を持って。
その時、チャウグナー・フォーンが動き出した。ううっと唸りながら。
「気をつけて。まだ、生きているわ」
「少し、エイジの血を取り込んだようね。なら、今のうちにとどめをさしておいた方がいいわ。アリシア、クティラの断裂を」
エレナが言った。
「はい」
アリシアが右手を伸ばしたその瞬間。
フワっと何かが一同を取り囲んだ。蜘蛛の巣のようだ。
「うわ!」
陰陽部全員がその蜘蛛の巣に飲み込まれた。