- 025 ヴルトゥーム(2) -

文字数 2,925文字

「尤もですね」ガゼルというセイール人が言った。「ブライトン学園陰陽部部長のおっしゃることには道理がある。少佐、この作戦は彼等陰陽部を中心に変更してみてはいかがでしょう」

「さすが、セイールの方は、理解が早い」また、エレナが発言した。「それでは、我々の作ってきた作戦を述べましょう」

 エイジには、今のセイール人ガゼルのフォローが、すーっと、どこかに飛んでいくのを感じた。

「では、ミラ、発表して」

 エレナは、いきなりミラに発言を振った。

「ひぇー!」

 ミラは叫び声をあげた。ミラはそんなことを打診されているわけがない、とエイジは思い、ミラを見ると、緊張を遥かに通り越して、上を向いてヘラヘラと笑っているだけだった。

「ミラ先輩」

 と、エイジは、小声で、声をかけたが、うわの空だった。

「あら、ミラ」エレナが言った。「彼等に対する作戦だのと、あまりの馬鹿さ加減でミラは爆笑しているわね。では、エイジ、お願いできるかしら」

 やっぱり、来たという感じであった。無論、作戦など全く頭にない。第一、ただ基地に一緒に来いと言われて来ているだけなのだから。

「え、そのですね……」

 当然、エイジにも答えなどない。冷や汗だらけのエイジ。早くこの場を離れることしか、頭になかったのだが。

「……そうです、こうです」なぜか、突然、エイジは思いついて語り始めた。「予めPS部隊は三兄弟の潜むヌンガイの森の後方千メートルの地点で待機してもらいます。これは、軍が接近したことを彼等に悟らせないために、この距離を置くものです。その間、陰陽部の攻撃手は森に潜入します。ヴルトゥームの力で森に潜むそれぞれの敵の位置を確認し、チャウグナー・フォーンにはフサッグァ、アトラック・ナチャにはクティラ、ロイガーにはツァールを対応させて、戦闘を交えます。我が部の戦闘開始と同時に後方のPS部隊に俺が連絡します。連絡を受けて、PS部隊は速攻で森に入り、三兄弟を制圧します」

 なぜか、エイジはペラペラとそんな話をしてしまった。それを全員が聞き、しばらく黙っていた。

「あら、少し、足りない点があると思うのだけど」エレナが言った。「エルディリオン神族の活躍がありませんね。その間、エイジは昼寝でもしているつもりかしら」

「姉貴の活躍も言ってないな」

 エイジは付け加えた。

「それでは、陰陽部内部の作戦行動は、おまかせしましょう」少佐が言った。「大佐の御子息の言う通り、我が部隊はヌンガイの森の後方で待機することにします。そちらから連絡があれば速攻し、仮に連絡がなくとも陰陽部が森に入って一時間後には、速攻することにします。それから、陰陽部の作戦行動は決まりましたら、我が部隊にも通知してください。よろしいですか?」

「完璧ですわ」

 エレナも賛同した。

「一つわからない点がありますので、質問をいいですか?」

 ガゼルが言った。

「はい」

「彼等は、ヌンガイの森で何をしているのでしょうか? そして、森から出ない理由は何でしょうか?」

「そ、そ、それは、」ミラが勇気を振り絞っているようだった。「わ、わ、私がお答えします。彼等は、あの森で何かを作っているようです。おそらく、味方への連絡用の機器か何かだと……」

「そんな話は、今までなかったわね」エレナは、驚いた。「どうして、教えてくれなかったの?」

「い、い、今、そう見えたので……」

「あ、そう。だそうです。おわかりかしら、ガゼルさん」

 エレナは言った。

「はい」

 ガゼルは応えた。

「だとすると、その通信機も破壊しなくてはな」少佐が言った。「今日は、ありがとう。では、軍議はこれで終了します」



「今日は、ありがとうな」大佐が言った。「私は、少佐と少し話してから家に帰るので、先に帰っていなさい」

 基地のゲートで大佐を残し、エレナ、エイジ、ミラの三人は第二管区航宙基地を後にした。
 三人は、基地脇の道を歩いていた。バス通りまではもう少しある。

「よくやったわ、エイジ」

 エレナが言った。

「なんで、何も考えてないのに、あんなことを振るんだよ!」エイジは、怒った。「ミラ先輩だって、かわいそうだったよ」

「ミラ、少しはエイジを見習いなさい」

 エレナは、ミラを諭した。

「ご、ごめんなさい」

「ミラ先輩、謝る必要なんか、ないよ。もうメチャクチャだよ、姉貴のやってることは」

「何を言っているの、我が弟は。軍に協力をすると言った時に誰も反対しなかったでしょ。なら、それは、私達も戦闘に参加するということ。何も考えていないとは、その時点で死ぬということを選択したも同じ。作戦を成功させるなら、考えて行動するのは当然のこと」

 ああ、確かに全くその通りだ。……何も言い返せない。

「でも、エイジ、」エレナが言った。「全くの即興で作戦を作り出すなんて、すばらしい才能だわね。エイジにそんなことができるなんて思ってもみなかったわ。まぁ、今日はエイジに免じて、ミラの件は赦してあげるから」

「あ、ありがとうございます」

 ミラは涙を浮かべて言った。

「先輩、泣かないでください」

 エイジはミラを慰め、ハンカチを差し出した。

「ありがとう、エイジくん。本当に優しいね」

 ミラは、みるみる涙と鼻水まみれになった。美少女が台無しであった。

「ごめんね、ミラ、私もちょっと言いすぎたわ」

 エレナはミラを抱きしめて言った。

「はい、これからも精進します」

 ミラが言った。
 エイジは、なぜミラがエレナに付き従っているのか、おかしいと思った。いや、ミラに限らず、他の部員もそうであるが。
 やはり、エレナの持つグロースとかいうイーヴァイラスの力を使って、全員を精神的に支配しているのだろうか?



 帰りのバスの中。時刻はもう夕刻を過ぎ、暗くなりかけていた。
 ミラとエイジは隣の席に座り、そのすぐ後ろの席にエレナが座った。

「凄いね、エイジくん。ありがとうね」

 ミラがエイジに言った。

「なんか、不思議にペラペラ出てきちゃった」

 エイジが言った。

「もう、私、エイジくんのことを大尊敬です」

「いや、そんな、ははは」

「あのね、それで、お願いがあるんだけど」

 また、女子のお願い! エイジは、自分でもお願いされキャラになってきたことを自覚してきた。ただ、美少女のお願いは、きかないわけにはいかない。

「なんでしょう?」

 エイジは、にこにこ笑って応えた。

「先程のお礼をしたいのだけど。……今、何も持っていないので、今晩、デートしませんか?」

「デート!」

 エイジは心臓が爆発するかと思った。心臓は、物凄い鼓動を開始したのである。

「あの、イヤだったら、いいんですけど、無理にとは言わないし……」

 ミラは、そう言って軽くウィンクした。
 エイジは、意外な申し出に、どうしようかと悩みだした。

「あ、うん、いいですね、はは、どうしようかな、」

 ミラの積極性にエイジはたじろいだ。

「あら、いいじゃない、エイジ」後ろの席から、エレナが言った。「お母さんには、エイジは寄り道してくるって言っておくわ。二人で夜道でも散歩してらっしゃいな。ふふ、もちろん、アリシアとジェシカには黙っていてあげるから」

「姉貴がそう言うなら、ミラ先輩、はは、デート、行きます」

 エイジは、しどろもどろであった。
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