- 039 アリシアとエイジ(1) -
文字数 2,839文字
翌日の放課後。
陰陽部のメンバーは全員席に着いていた。
「昨日は、お疲れ。みんな無事でよかった。さっき、ラザフォード少佐から連絡があって、みんなに感謝していたわ。ロイガーの消息が判れば、またみんなと仕事がしたい、って言ってくれたわ」
エレナは皆に話した。
「だけど、ロイガーは逃がす、蜘蛛神は死なす、と陰陽部の点数は満点とはいかないわね」
「蜘蛛神は、姉貴、いやグロースの光線みたいなので、殺したんじゃないか!」
エイジが言った。
「あら、エルディリオン神族が騙されて敵勢力に組み入ろうとしていたからじゃない。それをあえて、私のグロースで救ってあげたというのに」
「う、それは……」
「ところで、エイジ、エルディリオン神族となっている時、あなたは、なぜ、あんな態度に出るのかしら?」
「それは、俺もよくわからない。だけど、エルディリオン神族となっている時の記憶もしっかりしている。どういうわけか人格が変わることは、俺もわかっているさ」
「それが、エイジの本性なのかしら? まぁ、いいわ。ところで、話を戻すと、昨日の作戦は陰陽部としては50点よ。ただし、大活躍のジェシカだけは、90点ね」
ジェシカは嬉しそうだった。
「そんなことが嬉しいか?」
エイジは、目の前に座るジェシカに言った。
「ええ、とっても」
ジェシカはにこやかに笑った。
「ところで、あのツァールって、見た目が気持ち悪くない?」
「ひどいこと言うのね、エイジ。ツァールは、かわいい、いい子だわ。触手もかわいいわよ」
「それは悪かった」
エイジは謝った。
「さて、」エレナが言った。「昨日の疲れも、まだあるだろうから、今日はもうお終いにしましょう」
その言葉で全員は帰り支度を始めた。
そして、エイジが帰ろうとするとエレナがエイジの腕を捉まえた。
「待って、エイジ。それから、アリシアも。あなた達には話がある」
「ああ」
エイジは、なぜ呼ばれたのかは、すぐにわかったので頷いた。
他のメンバー達は、さよならと挨拶すると、部室を出て行った。残ったのは、エレナ、アリシア、エイジ。
「私が何を言いたいのか、わかってるよね?」
エレナが言った。
「わかってるよ」
エイジが言った。
「エイジには訊いてないわ。アリシア、あなたに、よ」
「遅れたことは、申し訳ありません」
「もう、謝られても過ぎてしまったことは、取り戻せない。軍と協力した作戦だったから、我々だけの問題ではないことがわかってると思うけど」
「言い訳はない。処分するなら、そうしてほしい」
「処分か。そうね。だけど、その前に原因をはっきりさせる必要があるわ。前の晩に、二人で会ったのは事実なの?」
「事実」
アリシアが応えた。エイジは、申し訳なさそうにうつむいていたが、エレナの方を向くと話し始めた。
「俺が悪い。前の日に、付き合ってくれ、とか言ったから」
「違う。私がエイジを電話で家に呼んだから。エイジは悪くない」
アリシアが言った。
「で、そこで何してたのかは、あえて訊かないけど。どうして、作戦の前の晩に責任者の私に黙って、デートする必要があるのかしら?」
エレナのその質問には、二人は答えなかった。そして、何も言えない二人にエレナは続けた。
「エイジは言っていたわね。作戦がうまく行ったら、と。この結果はうまく行ったと、言えるかしら。部内での採点は50点よ。異論ある? もし、アリシアがきちんと作戦に加わっていたら、どうなったかしら?」
「……わかった。俺も男だ。アリシア先輩とは付き合わない」
エイジは言った。
すると、アリシアの目には涙があふれてきた。そして、手で拭うこともしないで、そのまま涙が流れるままにしていた。
「それから、アリシア。私に言わなければならないことがあるのではなくて?」
「……はい、感情が……」
アリシアが、そう言いかける。
「言うな!」
エイジがそれを遮った。
「やっぱりね」エレナは、そう言った。「アリシア、わかってるよね? どうしたらいいのか」
そう言っているエレナの目にも涙が光った。
「絶対だめだ!」
エイジは、エレナに言った。
「でも、このままだと、誰かが危険な目にあったり、死ぬことになるのよ」
エレナは応えた。
「俺は、アリシア先輩とは付き合わないけど、俺が絶対何とかするから。俺がクティラの暴走を抑えるから!」
エイジは強く言った。
「エイジ、もう、いいよ」アリシアは泣きながら言った。「とても短い間だったけど、女の子に生まれてきてよかった、と思ったよ。エイジと出会えてとても幸せ、と思えたよ。もっと、もっと、いつまでも、ずっと一緒にいれたら、って思ったけど。だけど、それは私の中のもう一人の私が許してくれないの。だから、もう、今までので十分。エイジ、あなたには、まだジェシカもミラもいるじゃない。私は、もう、いいから。私の知らない誰かまで傷つけて、幸せになれるわけない。ごめんね」
アリシアは、ずっと泣きっぱなしだった。
それを見ていたエレナも、少しもらい泣きしてしまった。
「アリシア。……そんなことを言うなら、私もアリシアの感情を削除するなんてできないじゃない。……どうしようか」
と、いつになく、弱気のエレナであった。
しばらく、三人は無言で過ごした。
その間も、アリシアは涙があふれていた。今までであれば、彼女の泣く姿はありえないのに。
すると、エレナが沈黙を破って嬉しそうに言った。
「ああ、そうか、ずっと一緒にいれたら、っていい事を言うわね、アリシア。でも、いいのかしら。エイジ、本当にアリシアを守れる? あんた、男だよね?」
「どういうこと?」
エイジは尋ねた。
「アリシア、ウチに住みなさい。どうせ、あなた、一人でしょ? 後見人には、私からも説明するわ。それにウチは、二人きりになったから、寂しくって。ね、そうしなさい」
「え、アリシア先輩が、ウチに住むってこと?」
エイジは大きい声で聞き直した。
「そうよ。でも、エイジのためじゃないわ。そうすれば、私も目が行き届くし、アリシアが感情を持っていても監視できるでしょ?」
エイジは、急ににやにやしだした。なぜか、微笑みを隠すことができない。
「ちょっと、エイジ! あんた、変なことを考えているでしょう!」
エレナは釘を刺した。
だが、アリシアとエイジは、顔を見合わせた。
「やったね!」
そして、喜んだのは、エイジとアリシアの二人。
「ちょっと、あんた達。勘違いしたらダメよ。付き合えないのよ、あんた達。わかってる?」
「そうですね、俺達、付き合えません。でも、嬉しいです。姉貴、いいの? 本当にいいの?」
「だから、ダメなのよ。アリシアは、私が面倒を見るんだから。いい? アリシア」
「はい、ありがとうございます、お姉さん」
アリシアは、涙でびしょびしょの笑顔で言った。
「でも、私をお姉さんと呼ぶのは、早すぎでしょ」
エレナも笑った。
だが、もう一つ悩みを抱えるだろうことは、全員が容易に想像できた。
「早い方がいいわね、引っ越し」
陰陽部のメンバーは全員席に着いていた。
「昨日は、お疲れ。みんな無事でよかった。さっき、ラザフォード少佐から連絡があって、みんなに感謝していたわ。ロイガーの消息が判れば、またみんなと仕事がしたい、って言ってくれたわ」
エレナは皆に話した。
「だけど、ロイガーは逃がす、蜘蛛神は死なす、と陰陽部の点数は満点とはいかないわね」
「蜘蛛神は、姉貴、いやグロースの光線みたいなので、殺したんじゃないか!」
エイジが言った。
「あら、エルディリオン神族が騙されて敵勢力に組み入ろうとしていたからじゃない。それをあえて、私のグロースで救ってあげたというのに」
「う、それは……」
「ところで、エイジ、エルディリオン神族となっている時、あなたは、なぜ、あんな態度に出るのかしら?」
「それは、俺もよくわからない。だけど、エルディリオン神族となっている時の記憶もしっかりしている。どういうわけか人格が変わることは、俺もわかっているさ」
「それが、エイジの本性なのかしら? まぁ、いいわ。ところで、話を戻すと、昨日の作戦は陰陽部としては50点よ。ただし、大活躍のジェシカだけは、90点ね」
ジェシカは嬉しそうだった。
「そんなことが嬉しいか?」
エイジは、目の前に座るジェシカに言った。
「ええ、とっても」
ジェシカはにこやかに笑った。
「ところで、あのツァールって、見た目が気持ち悪くない?」
「ひどいこと言うのね、エイジ。ツァールは、かわいい、いい子だわ。触手もかわいいわよ」
「それは悪かった」
エイジは謝った。
「さて、」エレナが言った。「昨日の疲れも、まだあるだろうから、今日はもうお終いにしましょう」
その言葉で全員は帰り支度を始めた。
そして、エイジが帰ろうとするとエレナがエイジの腕を捉まえた。
「待って、エイジ。それから、アリシアも。あなた達には話がある」
「ああ」
エイジは、なぜ呼ばれたのかは、すぐにわかったので頷いた。
他のメンバー達は、さよならと挨拶すると、部室を出て行った。残ったのは、エレナ、アリシア、エイジ。
「私が何を言いたいのか、わかってるよね?」
エレナが言った。
「わかってるよ」
エイジが言った。
「エイジには訊いてないわ。アリシア、あなたに、よ」
「遅れたことは、申し訳ありません」
「もう、謝られても過ぎてしまったことは、取り戻せない。軍と協力した作戦だったから、我々だけの問題ではないことがわかってると思うけど」
「言い訳はない。処分するなら、そうしてほしい」
「処分か。そうね。だけど、その前に原因をはっきりさせる必要があるわ。前の晩に、二人で会ったのは事実なの?」
「事実」
アリシアが応えた。エイジは、申し訳なさそうにうつむいていたが、エレナの方を向くと話し始めた。
「俺が悪い。前の日に、付き合ってくれ、とか言ったから」
「違う。私がエイジを電話で家に呼んだから。エイジは悪くない」
アリシアが言った。
「で、そこで何してたのかは、あえて訊かないけど。どうして、作戦の前の晩に責任者の私に黙って、デートする必要があるのかしら?」
エレナのその質問には、二人は答えなかった。そして、何も言えない二人にエレナは続けた。
「エイジは言っていたわね。作戦がうまく行ったら、と。この結果はうまく行ったと、言えるかしら。部内での採点は50点よ。異論ある? もし、アリシアがきちんと作戦に加わっていたら、どうなったかしら?」
「……わかった。俺も男だ。アリシア先輩とは付き合わない」
エイジは言った。
すると、アリシアの目には涙があふれてきた。そして、手で拭うこともしないで、そのまま涙が流れるままにしていた。
「それから、アリシア。私に言わなければならないことがあるのではなくて?」
「……はい、感情が……」
アリシアが、そう言いかける。
「言うな!」
エイジがそれを遮った。
「やっぱりね」エレナは、そう言った。「アリシア、わかってるよね? どうしたらいいのか」
そう言っているエレナの目にも涙が光った。
「絶対だめだ!」
エイジは、エレナに言った。
「でも、このままだと、誰かが危険な目にあったり、死ぬことになるのよ」
エレナは応えた。
「俺は、アリシア先輩とは付き合わないけど、俺が絶対何とかするから。俺がクティラの暴走を抑えるから!」
エイジは強く言った。
「エイジ、もう、いいよ」アリシアは泣きながら言った。「とても短い間だったけど、女の子に生まれてきてよかった、と思ったよ。エイジと出会えてとても幸せ、と思えたよ。もっと、もっと、いつまでも、ずっと一緒にいれたら、って思ったけど。だけど、それは私の中のもう一人の私が許してくれないの。だから、もう、今までので十分。エイジ、あなたには、まだジェシカもミラもいるじゃない。私は、もう、いいから。私の知らない誰かまで傷つけて、幸せになれるわけない。ごめんね」
アリシアは、ずっと泣きっぱなしだった。
それを見ていたエレナも、少しもらい泣きしてしまった。
「アリシア。……そんなことを言うなら、私もアリシアの感情を削除するなんてできないじゃない。……どうしようか」
と、いつになく、弱気のエレナであった。
しばらく、三人は無言で過ごした。
その間も、アリシアは涙があふれていた。今までであれば、彼女の泣く姿はありえないのに。
すると、エレナが沈黙を破って嬉しそうに言った。
「ああ、そうか、ずっと一緒にいれたら、っていい事を言うわね、アリシア。でも、いいのかしら。エイジ、本当にアリシアを守れる? あんた、男だよね?」
「どういうこと?」
エイジは尋ねた。
「アリシア、ウチに住みなさい。どうせ、あなた、一人でしょ? 後見人には、私からも説明するわ。それにウチは、二人きりになったから、寂しくって。ね、そうしなさい」
「え、アリシア先輩が、ウチに住むってこと?」
エイジは大きい声で聞き直した。
「そうよ。でも、エイジのためじゃないわ。そうすれば、私も目が行き届くし、アリシアが感情を持っていても監視できるでしょ?」
エイジは、急ににやにやしだした。なぜか、微笑みを隠すことができない。
「ちょっと、エイジ! あんた、変なことを考えているでしょう!」
エレナは釘を刺した。
だが、アリシアとエイジは、顔を見合わせた。
「やったね!」
そして、喜んだのは、エイジとアリシアの二人。
「ちょっと、あんた達。勘違いしたらダメよ。付き合えないのよ、あんた達。わかってる?」
「そうですね、俺達、付き合えません。でも、嬉しいです。姉貴、いいの? 本当にいいの?」
「だから、ダメなのよ。アリシアは、私が面倒を見るんだから。いい? アリシア」
「はい、ありがとうございます、お姉さん」
アリシアは、涙でびしょびしょの笑顔で言った。
「でも、私をお姉さんと呼ぶのは、早すぎでしょ」
エレナも笑った。
だが、もう一つ悩みを抱えるだろうことは、全員が容易に想像できた。
「早い方がいいわね、引っ越し」