刻印

文字数 1,311文字

 今年で十二歳になったばかりの少年は、けれど、その年頃に見合わず落ち着いていて、表情や感情に乏しい。実の母親から育児放棄(ネグレクト)され、売られた経験があるのだと、彼は自らの父親から聞き及んでいる。

 そもそも、その少年は彼の従兄弟らしい。奔放な妹と疎遠になった結果、最悪の環境で育った甥を引き取ることが罪滅ぼしだと考えるほど、彼の父は感情的ではない。要は、表情にも感情にも乏しい少年は、使い勝手のいい駒になると踏んでのことだろう。

 実の父親ながら、あの男の考えは

に価する──と、今は同じ父を持つ義理の兄弟を見て、彼は改めてそう思った。

「少しいいだろうか」

 彼がドアを開けると、ベッドにぼんやり座っていた少年は、虚ろな顔で振り向いた。

 長期の栄養失調だったため、少年は未だに小柄で線の細い体をしている。青黒い髪は切ることを拒まれるので、背中に届くほどまで伸びていた。確かにこの容貌なら、

もいいだろうと納得する。たった二歳下の少年が孕む、独特の色気はやはり、過去の影響なのだろうか。

 虚ろに見上げる少年の目に、己の白髪と白い肌が映っていることを認めつつ、十四歳のヌエは言う。

「ついて来て欲しいところがある」

 そうして少年と連れ立ったのは、郊外の廃墟群に存在する、廃工場だった。少年を先に中へ入れ、自身は後から続いて、入り口の扉を後ろ手に閉める。途端、中は昼間でも薄暗くなり、頼れるのは僅かな隙間から零れる光源のみだ。

 びく、と少年の両肩が震える。真後ろで扉を押さえたまま、彼の勘の良さに感服しながら、ヌエはか細い背中を押した。工場内の奥に蠢く気配へと差し出すように。

「……なかなかの上玉連れてきたな」

 下劣な声が言った。父の組織に所属するハウンドで、特に悪趣味な数人がこの場に呼び出されている。声をかけられるのも不快そうに、ヌエは目を眇め、

「約束だ、輪姦(マワ)していいよ」

 少年にも理解ができるよう、はっきりと言い放つ。

 自分が何のためにここまで連れてこられたのか、今の言葉で理解しただろうに、少年は怯えも、動揺もしていないようだった。ぼんやり立ち尽くすばかりで、反応がない。それが殊更に不気味だが、ヌエは手出しするつもりなどないので、扉を体で塞ぎ、少年の退路を断つ。

 なるほど、児童性愛(ペドフィリア)で有名なハウンドを集めただけはある。五人はいるハウンドの、この中の二人は廃墟群で年端もいかない娼婦や男娼を強姦した上で最中に絞め殺すのが趣味、との噂だ。抵抗してもしなくても、少年はここで死ぬ。

 同情はしなかった。立ち尽くすだけの少年が大人の男たちに囲まれ、押し倒され、無抵抗の両手を押さえつけられながら服を破かれても、ヌエは動かない。助けを求められても何もするな、という指示ではあったし、指示がなくてもそのつもりだ。少年がどうなろうと、痛む胸などない。

 まるで木偶の人形だなと思いながら、一人、また一人と犯される様を、ヌエは観察していた。少年は本当に抵抗せず、声や悲鳴すら上げない。必死の抵抗や逃げようとする素振りに興奮する性質の男が一人、傍観者のヌエに食指を向けたのを目線で制して、

「俺に触ったらころすよ」

 ヌエの警告に、男は黙って引き下がった。
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