もののあはれ-3

文字数 1,060文字

 繰り返すたび、慣れていく体と反比例して、フユトの嫌悪は露骨になっていく。体力が続く限りの抵抗はなくなったものの、シギの軍門に下って堪るかという意地で、踏みとどまっている。

 ある程度はシギに明け渡すようになった体を、拘束具なしでうつ伏せ、腰だけを上げる形で、フユトは飼い主に曝している。枕を抱いて口元を埋めるのが唯一の抵抗で、そんな余裕すらないほどに掻き乱してやりたいと、シギは潤滑剤を纏った指で窄まりをくすぐる。

「……ふ、……っ」

 思わず鼻から抜ける声を何とか堪えつつ、フユトの背中が震えてやまないのを見ながら、まずは一本、侵入した。温かい粘膜が出迎えるものの、異物と判断された指を押し出すように蠢く。それを宥めるように引っ掻きながら、もう一本、入り口に宛てがい、

「ふ、ぅ……ッ」

 一本目に添えながらこじ開けると、悲愴ささえ滲む吐息が、一瞬の圧迫感を堪える。フユトの背中が冷や汗を滲ませ、ガタガタと震えていた。

 これさえ凌げば解放される。シギから散々、そう教えられたフユトは、無駄に抵抗する気力を失って久しいが、やはり苦痛は慣れないらしい。

 なるべく早く終わらせてやろうと、粘膜を撫でて宥めながら目的の場所を探す。萎縮して見つけづらいそこを、今までの感覚から的確に押さえ、くん、と突き上げてやる。

 その時のフユトの反応がどうだったか、もう覚えてはいない。慣れない感覚に驚いていたような気はするものの、今の反応が上書きしてしまって、はっきりと思い出せない。

 上擦る喘ぎを堪えようと声を飲み込む癖は相変わらずだったが、前立腺(そこ)だけで達する悦さを知ってしまえば、抜け出せなくなる。

 びく、とフユトの腰が跳ねた。シーツを握りしめる指先が白くなっている。丸まった爪先が空を掻き、やがて弛緩していく。絶頂の呻きごと唇を奪うと、シーツから離れた手が首に縋り、シギの執拗な舌を享受して、顔が更に蕩けていく。

「……頭クラクラする……」

 唾液の糸を引いて離れた唇で、フユトが感想を呟いた。極まったせいで虚ろになった目を覗き込み、限界を確認する。

 本番に及ぶのは凡そ一ヶ月ぶりだった。シギがフユトを翻弄するだけだった時期と違い、なるべく負担をかけないよう、調整している。間が開いてしまうと、馴れるまで苦痛を伴うことは熟知していながら、シギはただ、フユトを安易に壊してしまわないよう、毒牙にかけるタイミングを見極めているのだ。

 とろんと恍惚した眼差しのフユトから、シギの唇に触れるだけのキスを仕掛けて、

「……すき」

 額を合わせ、至近距離で紡ぐ。
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