Abyss

文字数 1,118文字

 ステンレスボディのトーラスが火を噴く。銃声は二発、三発と続き、そのたびに、肩や腕や足を撃たれた相手が沈んでいく。装填していた十七発入りの弾倉を三分で使い切り、トーラスを捨て、持ち替えたデザートイーグルはマグナム。一撃ごとが重いぶん、威力も絶大で、今度は額や首を外さずに狙う。

 それだけで全体の三分の二は屠っただろうか。シギは狙撃を避けるために身を隠した柱の陰から出て、痛みに呻く生存者の数をぐるりと確認すると、

「……ばけもの……」

 肩を撃ち抜かれて利き腕を封じられたハウンドが、慄きながら口にした。全弾七発の弾はまだ一発残っていて、彼は無言で照準をハウンドの左目に合わせると、躊躇いもせずトリガーを引いた。

 大組織で使役する子飼いは、ハウンドやハイエナ、ブローカーを含めて相当数いるが、優秀なのは数えるほどなので、こうして適宜、結果は出さないのにプライドばかり高いような、物怖じしない莫迦どもを間引くことも、総帥であるシギの仕事のうちだった。時に糸を引いて同士討ちさせるが、その段取りを打つのがこのところ手間なので、シギ自らが直接、粛清に出ることにしている。

 今回も、組織のやり方が気に入らないと漏らす連中の話を小耳に挟み、間者を入れて総帥暗殺の気運を高まらせ、嘘の情報を流して集まったところを返り討ちにした。これだから使えない莫迦は困るのだとばかり、吐息をついて、

「命乞いは聞かない」

 利き腕と利き足を封じられた銘々を見渡し、デザートイーグルに新しい弾倉を装填しながら、

「生きたいなら殺してみろ」

 挑発する。

 マグナムを使うと反動があるぶん、動きが僅かに遅くなる。銃を使う連中ならわかるだろう。敢えてすぐに構えない隙を作り、殺されるくらいならと背後から踊りかかる一人を振り向くこともしないまま、

「……殺せなければ、貴様ら全員殺してやる」

 装填したばかりの銃を捨て、体勢を低くすると、死体から拾った大型ナイフを逆手に構え、鉈を振り下ろしてきた男の喉元に深々と突き刺し、引き抜く。

 鮮血が舞った。喉元を狙った際、鉈が掠めた傷からも血が流れるが、シギは一向に気にした素振りはなく、進むも引くも地獄でしかない生存者をもう一度、怜悧な視線で見渡して、

()ね」

 残酷に言い放つ。

 ──そんな経緯を経たシギの傷を消毒して縫合した医者は、

「あと五ミリ、横にズレていれば神経断裂だ」

 どこか愉しそうに告げた。

「相変わらず無謀なようで安心するよ」

 寡黙な看護師に包帯を巻かれながら、

「その無謀の概念が理解できないんだが」

 シギは言って、処置室の奥で腕組みする従兄のヌエを、無表情に見る。

「はじめから

お前に、死の恐怖を説いたところで意味がない」
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