譃-4

文字数 810文字

 あぁ、だから嫌なんだ、と嘆息しながら、アゲハは仰向けで横になったまま、腕を伸ばして顔を隠した。

 報われないのに焦がれてしまう。悪癖だと自覚しながら、アゲハは自分を止められない。

 過去を一切話さないシギだって、巨大な衝動を持て余すフユトだって、みんな弱さを抱えて何処かが壊れているはずなのに、アゲハからすれば強く生きているように見える。シギは圧倒的な権力で、フユトは壮絶な暴力で、他を寄せ付けないしひれ伏さない。では、仮にアゲハがそのどちらかを手に入れたとして、二人と同じになれるだろうかと思案したとき、やはりアゲハは否だと答える。

 だってわかっている。本当はわかっている。

 お前は弱い、と、否応なく思い知らせて欲しいから、アゲハは弱いのだ。生殺与奪を他人に託して安堵する弱者であるのに、更に、お前は弱過ぎるから駄目だと烙印を押されるのを待っている、救いのない臆病者。だからあの子のように、自分の寿命も決められやしない。

「……お願いだから絶望させて、」

 そしてアゲハは性懲りもなく、

「ボクが全てを諦められるよう……」

 やはり他力本願なまま、そんな自分をとことん嫌いになることも出来ず、変わろうとしても変われぬ甘えに、辟易して逃げ出したくなる。

 誰かに何かを求めてばかりで、生ぬるく易しい温室育ちの腑抜けた思考で、始めようとしないまま立ち止まっていて、そんなの何も、変わるはずがないと知りながら。周りを巻き込んで振り回し、傷つけるばかりだと知りながら。

 ここに居場所なんてなかった。最初からなかった。美しき殺人者に憧れて、何とか縋り付き、しがみつきしたものの、あの純粋な狂気はアゲハの手には入らない、この両手には持ちえない。ともすると飲み込まれてバラバラに砕け、残骸すら見つからず、ひっそり朽ちるだけ。

 あの日、あの路地で真一文字に首を斬られたのが、あの男でなくアゲハだったら、息苦しい世界での正しい呼吸を知れただろうか。
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