もののあはれ-2
文字数 1,083文字
これで寝息を感じていなければ、死に顔と誤解しそうな程に、静かな顔だった。せめて寝顔くらい崩れていればからかい甲斐もあるのに、と残念に思いつつ、フユトがそっと、その青黒い髪に触れようとすると、
「……人のことは言えないな」
目を開けたシギとばっちり視線がかち合った。
「いや、俺はまだ一分も見てない」
はっきりと主張しながら、慌てて、伸ばした左手を引っ込めようとするのを、シギの手に捉えられる。口元へ運ばれた指先に口付けられ、それだけでぞわりと鳥肌が立つ。爪の生え際を舌先が撫で、ざらつく軟体動物が指を這い、優しく吸われる。いつもはフユトが好んでする仕草をシギが忠実になぞるから、
「──……勃った」
耳まで真っ赤になっていると自覚しながら、フユトがぼそっと呟くのを聞き逃さず、僅かに冷えた指先が先端を擽りながら絡みつく。
「だめ、待って、」
「待たない」
フユトを仰向けにし、自らはそこに覆い被さる形で、シギが見下ろす。とぷとぷと溢れ始めた粘液を塗りつけるように鈴口を片手で愛撫しつつ、もう片方の手はフユトの頬にかかる髪を撫で、シギの唾液に濡れた指が力なく腕に添えられるのを見やって、
「だめもいやも、待ても聞かない、そう言った」
目を瞑って声を殺すフユトに言い聞かせる。
腰が揺らめくのを抑えるために、両足が強ばっているのはわかっている。フユトが欲しいのは蜜を垂れ流すだけの行為ではなく、もっと、確実に鬱屈が解放される、あの瞬間なのも知っている。だから待たない、だから聞かない。鬱屈しているのはフユトだけではない。
「中も、お願いだから、中も触って……っ」
延々と寸止めされる苦痛を知り尽くすフユトが、素直に折れた。
「どうして欲しい」
折れたフユトにシギは畳み掛け、フユトの羞恥を促す。この時のフユトにシギが一番そそられるのを、本人は知らない。目元を赤くして発情しきっているのに、ねだれば与えられるのに、言葉にしてしまう恥ずかしさで引き結ばれる唇と、葛藤に揺れる濡れた瞳。
言えば叶えてやれるのに、この男はなかなかそれを口にしないから、こちらもかなり焦れている。けれど、願望を汲み取って動いてやるほど、優しくはない。
「──……ゆ、び……」
フユトが微かに言ったから、恐らくは期待しているであろう周囲を、触れるか触れないかでぐるりとなぞる。途端、甘く達したフユトが短く息を詰めた。
「満足か」
シギはフユトの反応を見るまでもなく、達したことを知っているのに、フユトは事実を知られたくないようで、息を整えてから首を振り、
「頂戴……」
シギの首を抱き寄せ、耳元で消え入るように求めた。
「……人のことは言えないな」
目を開けたシギとばっちり視線がかち合った。
「いや、俺はまだ一分も見てない」
はっきりと主張しながら、慌てて、伸ばした左手を引っ込めようとするのを、シギの手に捉えられる。口元へ運ばれた指先に口付けられ、それだけでぞわりと鳥肌が立つ。爪の生え際を舌先が撫で、ざらつく軟体動物が指を這い、優しく吸われる。いつもはフユトが好んでする仕草をシギが忠実になぞるから、
「──……勃った」
耳まで真っ赤になっていると自覚しながら、フユトがぼそっと呟くのを聞き逃さず、僅かに冷えた指先が先端を擽りながら絡みつく。
「だめ、待って、」
「待たない」
フユトを仰向けにし、自らはそこに覆い被さる形で、シギが見下ろす。とぷとぷと溢れ始めた粘液を塗りつけるように鈴口を片手で愛撫しつつ、もう片方の手はフユトの頬にかかる髪を撫で、シギの唾液に濡れた指が力なく腕に添えられるのを見やって、
「だめもいやも、待ても聞かない、そう言った」
目を瞑って声を殺すフユトに言い聞かせる。
腰が揺らめくのを抑えるために、両足が強ばっているのはわかっている。フユトが欲しいのは蜜を垂れ流すだけの行為ではなく、もっと、確実に鬱屈が解放される、あの瞬間なのも知っている。だから待たない、だから聞かない。鬱屈しているのはフユトだけではない。
「中も、お願いだから、中も触って……っ」
延々と寸止めされる苦痛を知り尽くすフユトが、素直に折れた。
「どうして欲しい」
折れたフユトにシギは畳み掛け、フユトの羞恥を促す。この時のフユトにシギが一番そそられるのを、本人は知らない。目元を赤くして発情しきっているのに、ねだれば与えられるのに、言葉にしてしまう恥ずかしさで引き結ばれる唇と、葛藤に揺れる濡れた瞳。
言えば叶えてやれるのに、この男はなかなかそれを口にしないから、こちらもかなり焦れている。けれど、願望を汲み取って動いてやるほど、優しくはない。
「──……ゆ、び……」
フユトが微かに言ったから、恐らくは期待しているであろう周囲を、触れるか触れないかでぐるりとなぞる。途端、甘く達したフユトが短く息を詰めた。
「満足か」
シギはフユトの反応を見るまでもなく、達したことを知っているのに、フユトは事実を知られたくないようで、息を整えてから首を振り、
「頂戴……」
シギの首を抱き寄せ、耳元で消え入るように求めた。
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