混ざる-2

文字数 1,149文字

 いくらアルコールに強いとはいえ、このところのフユトの飲酒量は常軌を逸している。依存症の患者のそれだ。酒に溺れ、酒が抜けない状態で仕事をこなしているらしいから、今に大怪我で済まなくなるのではないかと、アゲハの寿命のほうが縮んでしまう。

「……うっせ……」

 アゲハの小言に文句を言って、けれど、フユトは酔いきれていないようだった。体は酩酊していても、頭だけは冴えている、そんな感じだ。

「心配なんですよ、ボクも、あの人も」

 勝手知ったる動きで、アゲハは冷蔵庫から冷えた水のボトルを出すと、水切りカゴに伏せてあった清潔なグラスに注いで、フユトの横に置く。

「オーナーと何かあったんでしょう?」

 タブーとわかっていながら、思わず聞いてしまった。フユトは無言だ。

「ボクのせいですか?」

 アゲハは居た堪れないとばかりに質問を重ね、そのあまりの身勝手さに気づき、

「……ごめんなさい」

 謝った。

 フユトは注がれた水に手をつけず、気だるげにテーブルへ寄りかかるばかりで、何の反応もない。アゲハを横目で見ることすらしない。

 ただ、椅子に座るフユトの傍で立ち尽くすだけ。その時間がとてつもなく長く、苦しく、重い。静謐が耳に痛かった。深く俯くことしか出来ないアゲハの腕に、不意に、フユトの火照った指が絡んで、引く。よろけるまま、唇が重なる。アルコールの匂いを含んだ唾液に、アゲハのほうが酔ってしまいそうだ。

 フユトの肩にしがみつき、舌を吸われて、ひく、と瞼を震わせると、

「──誘っといて何だけど、」

 フユトの重い声がして、薄目を開ける。

「やっぱ無理、だ」

 火照った舌が、唇が、指が、アゲハから離れていく。苦しそうに眉を寄せるフユトに、どうして、アゲハは泣きそうになる。

「ねぇ、フユトさん」

 責める意図はなかったものの、フユトの表情は冴えない。

「ちゃんと向き合いましょう」

 それはアゲハの、切実な願いだ。

「誰からも逃げないで、ちゃんと見て下さい」

 膝立ちになって、座したままのフユトの顔を覗き込む。苦しげで、切なげで、怯えている。

「ボクはここに居ます、ずっとここに居ます、フユトさんは?」

 アゲハはそっと、フユトの手に手を重ね、

「フユトさんは、ここに居てくれますか」

 きゅっと、握った。

 悲痛に見つめるアゲハから逸らされた目が、伏せられる。アゲハの問いの意図を、意味を、図るように。

 アゲハはただ、待ち続けた。それは答えでなくても良かった。フユトの視線がアゲハの視線と絡む、その瞬間だけを待っていた。

「……結局……」

 フユトがきつく目を閉じて、呟く。アゲハは待っている。

「俺は他人の幸せなんか願えない、卑怯者だ」

 そう零して、自嘲して、力のない目で、アゲハを見る。

「シュントに押し付けて、シギに強請って、でも俺からは何もしない」
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