献体LOVERS-4

文字数 967文字

 呼吸ごとタイミングを数える。向こうもこちらを警戒しながら、障害物を盾に間合いを考えているだろう。見誤れば射程距離だ。少し間違えば死ぬ。この緊迫感が、フユトを獰猛な獣にする。

 盾にしていた障害物の陰から、少しも間違わずに飛び出す。艶消しされたコルトを持った相手も、同時に盾から飛び出していた。計算に狂いはない。躊躇わずトリガーを引き、二発、三発と重ね、隣の障害物を盾にした。相手の二発が耳と頬を掠めたことで、フユトの瞳孔は開ききっている。頬のかすり傷をさっと拭って、

「……ヤベ、勃ちそ……」

 呟き、陶然と息をつく。

「──狙いが甘い」

 メインとサブ、全てのマガジンを空にしたあと、銃身が冷めるのを待って、フユト愛用のコルトを分解しながら、シギが淡々と言った。その体はもちろん、顔さえ無傷だ。

「わざと逸らしたんだって」

「当てに来いと言った」

「お前なぁ、こんな薄ら寒い地下室で死にたいのかよ」

「死に場所に拘りはない」

 冬が巡ってきていた。例年なら積もらない雪が今年は多く、依頼も間遠になって退屈したので、シギを相手に実戦へ誘ったのだ。何ならお互い、不馴れなものを扱おうということで、愛銃を交換した上での実弾交戦だった。

 恒例のようにやんや言いながら、けれど、フユトが愉しげなのに、シギは気づいていて、何も言わない。

「整備も怠るなよ」

 フユトより慣れた風にコルトを元に戻して、グリップを差し出しながら、シギが釘を刺す。受け取ったフユトは不本意そうに首を竦めた。

「ちゃんとやってんだけどな」

 じろり、とこちらに流されたシギの視線に、フユトはもうそれ以上、余計なことは言わないことにした。ここで瑣末を争う意味がない。

 地下の訓練場に暖房はないので、動いて温まった体も、長居をすればするだけ冷えていく。ふるっと震えたフユトに気づき、シギは先程までの厳しい調子から一転、

「風邪ひくぞ」

 訓練場の隅に片付けてあった上着を取って、フユトへと投げる。難なく受け取ったフユトが、上着をさっさと羽織りながら、二へ、と、らしくなく笑うから、

「……最近のお前は読めなくて気味が悪いな」

 シギが遠回しに情緒不安定を指摘したところで、不機嫌になるはずもなく。

「俺、お前のこーゆーとこ、すき」

「──……はァ?」

 唐突な告白に、シギは一層、気味悪そうに眉をしかめた。





【了】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み