第19話
文字数 3,933文字
俺は「待ってください!」と声を張り上げ、剣士の男に駆け寄った。
「あなたが斬るべき相手は、ここにはいません!」
「……お前、誰だよ?」
剣士の男は足を止め、俺の方を向いた。
「わ、私は佐藤匠太という者です」
「サトウ? 〈ラディア〉では聞かない名だな。〈流れ者〉か?」
「ええ、まぁ……」
剣士の男がまだ、まともに会話できる冷静さを持っていたことに俺は安堵した。
「で、サトウ。お前は俺に何の用だ? 俺は今、忙しいのだが」
「聞き耳を立てる気は無かったのですが、先ほど、受付で話していた内容を聞いてしまって……」
「お前、何か知っているのか?」
剣士の男は驚いた表情を浮かべ、握っていた剣の柄から手を離した。
「ええ、心当たりがあります……。先ず、あなたが向かっていた部屋に泊まっている人たちは、捜している人物ではありません」
「何故、そうだと言い切れる?」
「私たちは今、確かに大金を持っています。しかしそれは、奪って手に入れた物ではなく、ある人物から貰った物なのです」
俺は老婆とのやり取りの内容を剣士の男に聞かせた。
「なるほどな。つまりお前らは、俺の友達から奪った金を何も知らずに受け取ってしまったかもしれない、と……」
「恐らく……。あの老婆が、お友達殺しの犯人だと思われます」
「なら、そいつを連れて来い」
「えっ!?」
「そいつが犯人だと言うのなら、そいつを連れて来い。その後は俺が尋問して、犯人かどうか確かめる。できないというのなら、お前らが犯人だ」
「そ、そんな無茶な!? あのババア、名前も住んでいる土地も言わずに立ち去ってしまったのに! 捜し出すなんて無理ですよ!」
「だったらお前を斬るだけだッ! そのババアを夜が明ける前に連れて来いッ! できなかったら斬るッ!」
「わ、わっかりましたぁッ!」
俺はすぐに走り出した。
借りた部屋に飛び込み、シーナとアッシュを叩き起こし、強引に宿屋の外へと引っ張り出した。
「うぅ……。お兄さん酷いよ。せっかく良い夢見ていたところだったのに」
「ショウが早起きなのはわかったが、なんでアタシもそれに付き合わされなくちゃあならないんだ?」
何も説明されず、無理矢理外へ出されたことに、シーナとアッシュは怒っていた。
「シーナさん、本当にすみません! アッシュ、マジでごめん! 非常事態です!」
「非常事態?」
シーナがカクッと首を傾げる。
「ええ、そうです! 私たちが大金を受け取った老婆は、極悪人だった可能性が高いのです! だから今すぐ老婆を捜して、ここへ連れて来ましょう!」
「悪人だろうがなんだろうが、金はもう、アタシたちのもんだろう?」
「その悪人に復讐したいって言っている奴がいて、そいつは俺たちを、復讐したい相手と勘違いしているんだ!」
「ただのアホじゃねえか」
どうでもよさそうに、アッシュは欠伸を漏らした。
「アホだけどガチでヤバいんだよ! 怒りで頭がイカレてしまったのか、そいつは俺たちを殺すって言ってやがるんだ!」
「誰だよ、そいつ? シーナ嬢にぶっ飛ばしてもらって、頭冷やしたらいいんじゃね?」
「相手は見るからに強そうな剣士の男だ! 相手が魔法使いならシーナさんの敵ではないが、剣士となると返り討ちに遭うかもしれん!」
俺はバイルに一撃で気絶させられたシーナを思い出した。
近接戦闘に特化した人間は、卓越した身体能力でもって、魔法使いよりも素早く動ける。だからシーナと戦闘させるのは危険だ。
「マジかよ……。どうしてこうなった?」
「俺たちがババアと取引しちまったからだよ!」
「あ~あ……。あの時、アタシの忠告を素直に聞き入れていれば、こんな面倒臭いことにはならなかったのに……」
「いやお前、最後は金を手に入れろって言ってたじゃねーかよ!?」
「シーナ嬢が、魔法使いがどうとかこうとか余計なことを言わなければ、ショウは取引せずに済んだのに」
「罪をいちいち仲間に擦り付けようとするな!」
「どの道、金が無ければこの先に進むのは困難だった。金を手に入れたのは間違いではなかったと思うよ」
シーナのポジティブな言葉に頷き、俺は「ほらな」とアッシュを見た。
「金が手に入ったこと自体は、選択ミスではなかったんだよ! 問題は、その金の出どころだ! 大金を手に入れた代償として、厄介なことに巻き込まれてしまった! だが、逆に言えば、厄介事を解決させてしまえば、俺たちは準備万端の状態で旅を再開できるってことになる!」
「解決したら、その剣士の男に、ババアから貰った金を全部返せとか言われるんじゃね?」
「それに関しては、約束していない」
「金持ったまま逃げた方がよくないか?」
「だから、そうすると剣士が殺しに来るって言ってんだろうが!」
「もういい、面倒臭いよ。つまり何をすれば解決なの、お兄さん?」
シーナがじれったそうに俺の衣服の裾を引っ張った。
「俺たちと取引をした老婆を捕まえて、剣士の男のもとへ連れ帰る。それで解決です」
「あっそう。簡単だね」
シーナは片手を自身の額に当て、ぶつぶつと呪文のような言葉を呟き始めた。
「厄介事は厄介事を生むぞ、ショウ。アタシはもう、この件には関わらない方がいいと思うんだが。その剣士の男をぶっ飛ばして、旅を再開させた方が良い」
「今度はその剣士の友達が復讐しにやって来るかもしれねえだろうが。お前の発言が次の厄介事を生んでいるんだ」
アッシュを黙らせて、俺はシーナの結果を待った。
何をしているのか、俺にはわからないが……。
「わかった。あのお婆さんはここから西側にいるよ」
俺の傍に転移した時に使ったのと同じ魔法をシーナは活用したのだろう。一度会ったことのある相手なら、シーナは魔法で見つけ出すことができる。
「じゃあ、そのままババアの傍に魔法で転移したらいいじゃん」
「転移した場所に罠が仕掛けられていたらどうするんだよ」
俺はアッシュの思い付きの提案を却下し、
「ところで、ここから西側って何かあるのですか?」
「わからない」
俺の質問に、シーナだけでなく、アッシュも「わからない」と答えた。
「西って、森しかねえだろ。〈危険区域〉でもない、ただの森だ。なんでそんなところにいやがる?」
「行ってみればわかるだろう。シーナさん、道案内をお願いします」
「わかった」
シーナを先頭に、俺とアッシュは歩く。
村を出て西の森に入り、老婆がいると思われる地点まで向かって行く。
「よう! お前ら早起きだな!」
草むらから飛び出したヒュドラが、勝手に俺たちの列に加わった。
もう慣れた。俺は勿論、シーナもアッシュも、勝手について来るヒュドラに何も突っ込まない。
「ヒュドラさん。私たちが歩いているこの森について、何か知っていますか?」
「普通の森だ! モンスターはいるが、どいつもこいつもザコだぜ!」
「なるほど。ありがとうございます」
「お前、どこに行くのか訊かないのか?」
〈バスルーン湿原〉とは違う方向へ進んでいることに疑問を抱かないのか、アッシュがヒュドラに訊いた。
「どうせまた、やることができたんだろう!? お前らはそういう奴だぜ!」
「どういう奴だよ」
アッシュとヒュドラが会話している間、俺もシーナと、例の老婆について話をした。
「シーナさん。何かおかしいとは思いませんか?」
「思う。あのお婆さんはせっかく手に入れた大金を私たちに渡した。取引という名目で、さりげなく大金を渡すことに、何か理由があったのかもしれない」
「そうですね……」
「おかしいことと言えば、もう一つある」
「え?」
「なんで、お兄さんはこんなことをしているの?」
「え?」
何を聞きたいのかわからず、固まった俺に、シーナはわかりやすい内容で、もう一度質問した。
「剣士に嘘をついていれば、こんな面倒事に巻き込まれずに済んだはずだよ。それなのに、お兄さんは真面目に剣士と向き合って、誤解を解いた上で、問題解決までしてあげようと決めた。……まぁ、お兄さんらしいやり方だとは思うけれど。理由が気になったから、一応、訊いてみた」
「私は……」
剣士の男が怖かった、というのも、面倒事を作ってしまった理由の一つだ。
俺は剣士の男の圧に怯えて、知っていることを全部、正直に話してしまった。
だが、その他にも一つ、俺は剣士の男の言う通りに行動する理由がある。
「あの剣士の男には、友達がいます。もしも本当に、剣士の男が捜している人物があの老婆だったのなら、私たちが手に入れた大金は、元々、その友達の物だったことになります。剣士の男の友達は、私たちと同じ〈夢追い人〉だと聞きました。夢を叶えられる一歩手前まで来ていたところに、老婆という邪魔が入った。老婆は剣士の男の友達を殺し、金を奪って逃げた。同じ〈夢追い人〉として、それが許せなかったのです」
「損得ではなく、自分の感情に従って、面倒事に首を突っ込んだってこと?」
俺は頷いた。
「お兄さんは、お人好しが過ぎるね。今回の件だけれど、ちょっとイラッとした。無理矢理叩き起こされて、問題解決のために働かされて、気分悪いよ」
そりゃあ、そうだよな。本当に、悪いことをしてしまった……。
無理矢理叩き起こす、という部分に関しては言い返したいところだが、俺のせいで面倒事に巻き込んでしまった手前、シーナには頭が上がらない。
「もしも、私にできることがあれば、なんでも言ってください。シーナさんのために、なんでもやります」
「なんでも?」
「はい」
シーナはニコッと微笑み、
「じゃあ、この件が解決したら話すね。なんでも聞いてくれるって言ったんだから、約束守ってね」
「は、はい……?」
シーナが俺に何をさせる気なのか、内容が気になるが、機嫌が良くなった様子なので、今はこれで良しとする。
「あなたが斬るべき相手は、ここにはいません!」
「……お前、誰だよ?」
剣士の男は足を止め、俺の方を向いた。
「わ、私は佐藤匠太という者です」
「サトウ? 〈ラディア〉では聞かない名だな。〈流れ者〉か?」
「ええ、まぁ……」
剣士の男がまだ、まともに会話できる冷静さを持っていたことに俺は安堵した。
「で、サトウ。お前は俺に何の用だ? 俺は今、忙しいのだが」
「聞き耳を立てる気は無かったのですが、先ほど、受付で話していた内容を聞いてしまって……」
「お前、何か知っているのか?」
剣士の男は驚いた表情を浮かべ、握っていた剣の柄から手を離した。
「ええ、心当たりがあります……。先ず、あなたが向かっていた部屋に泊まっている人たちは、捜している人物ではありません」
「何故、そうだと言い切れる?」
「私たちは今、確かに大金を持っています。しかしそれは、奪って手に入れた物ではなく、ある人物から貰った物なのです」
俺は老婆とのやり取りの内容を剣士の男に聞かせた。
「なるほどな。つまりお前らは、俺の友達から奪った金を何も知らずに受け取ってしまったかもしれない、と……」
「恐らく……。あの老婆が、お友達殺しの犯人だと思われます」
「なら、そいつを連れて来い」
「えっ!?」
「そいつが犯人だと言うのなら、そいつを連れて来い。その後は俺が尋問して、犯人かどうか確かめる。できないというのなら、お前らが犯人だ」
「そ、そんな無茶な!? あのババア、名前も住んでいる土地も言わずに立ち去ってしまったのに! 捜し出すなんて無理ですよ!」
「だったらお前を斬るだけだッ! そのババアを夜が明ける前に連れて来いッ! できなかったら斬るッ!」
「わ、わっかりましたぁッ!」
俺はすぐに走り出した。
借りた部屋に飛び込み、シーナとアッシュを叩き起こし、強引に宿屋の外へと引っ張り出した。
「うぅ……。お兄さん酷いよ。せっかく良い夢見ていたところだったのに」
「ショウが早起きなのはわかったが、なんでアタシもそれに付き合わされなくちゃあならないんだ?」
何も説明されず、無理矢理外へ出されたことに、シーナとアッシュは怒っていた。
「シーナさん、本当にすみません! アッシュ、マジでごめん! 非常事態です!」
「非常事態?」
シーナがカクッと首を傾げる。
「ええ、そうです! 私たちが大金を受け取った老婆は、極悪人だった可能性が高いのです! だから今すぐ老婆を捜して、ここへ連れて来ましょう!」
「悪人だろうがなんだろうが、金はもう、アタシたちのもんだろう?」
「その悪人に復讐したいって言っている奴がいて、そいつは俺たちを、復讐したい相手と勘違いしているんだ!」
「ただのアホじゃねえか」
どうでもよさそうに、アッシュは欠伸を漏らした。
「アホだけどガチでヤバいんだよ! 怒りで頭がイカレてしまったのか、そいつは俺たちを殺すって言ってやがるんだ!」
「誰だよ、そいつ? シーナ嬢にぶっ飛ばしてもらって、頭冷やしたらいいんじゃね?」
「相手は見るからに強そうな剣士の男だ! 相手が魔法使いならシーナさんの敵ではないが、剣士となると返り討ちに遭うかもしれん!」
俺はバイルに一撃で気絶させられたシーナを思い出した。
近接戦闘に特化した人間は、卓越した身体能力でもって、魔法使いよりも素早く動ける。だからシーナと戦闘させるのは危険だ。
「マジかよ……。どうしてこうなった?」
「俺たちがババアと取引しちまったからだよ!」
「あ~あ……。あの時、アタシの忠告を素直に聞き入れていれば、こんな面倒臭いことにはならなかったのに……」
「いやお前、最後は金を手に入れろって言ってたじゃねーかよ!?」
「シーナ嬢が、魔法使いがどうとかこうとか余計なことを言わなければ、ショウは取引せずに済んだのに」
「罪をいちいち仲間に擦り付けようとするな!」
「どの道、金が無ければこの先に進むのは困難だった。金を手に入れたのは間違いではなかったと思うよ」
シーナのポジティブな言葉に頷き、俺は「ほらな」とアッシュを見た。
「金が手に入ったこと自体は、選択ミスではなかったんだよ! 問題は、その金の出どころだ! 大金を手に入れた代償として、厄介なことに巻き込まれてしまった! だが、逆に言えば、厄介事を解決させてしまえば、俺たちは準備万端の状態で旅を再開できるってことになる!」
「解決したら、その剣士の男に、ババアから貰った金を全部返せとか言われるんじゃね?」
「それに関しては、約束していない」
「金持ったまま逃げた方がよくないか?」
「だから、そうすると剣士が殺しに来るって言ってんだろうが!」
「もういい、面倒臭いよ。つまり何をすれば解決なの、お兄さん?」
シーナがじれったそうに俺の衣服の裾を引っ張った。
「俺たちと取引をした老婆を捕まえて、剣士の男のもとへ連れ帰る。それで解決です」
「あっそう。簡単だね」
シーナは片手を自身の額に当て、ぶつぶつと呪文のような言葉を呟き始めた。
「厄介事は厄介事を生むぞ、ショウ。アタシはもう、この件には関わらない方がいいと思うんだが。その剣士の男をぶっ飛ばして、旅を再開させた方が良い」
「今度はその剣士の友達が復讐しにやって来るかもしれねえだろうが。お前の発言が次の厄介事を生んでいるんだ」
アッシュを黙らせて、俺はシーナの結果を待った。
何をしているのか、俺にはわからないが……。
「わかった。あのお婆さんはここから西側にいるよ」
俺の傍に転移した時に使ったのと同じ魔法をシーナは活用したのだろう。一度会ったことのある相手なら、シーナは魔法で見つけ出すことができる。
「じゃあ、そのままババアの傍に魔法で転移したらいいじゃん」
「転移した場所に罠が仕掛けられていたらどうするんだよ」
俺はアッシュの思い付きの提案を却下し、
「ところで、ここから西側って何かあるのですか?」
「わからない」
俺の質問に、シーナだけでなく、アッシュも「わからない」と答えた。
「西って、森しかねえだろ。〈危険区域〉でもない、ただの森だ。なんでそんなところにいやがる?」
「行ってみればわかるだろう。シーナさん、道案内をお願いします」
「わかった」
シーナを先頭に、俺とアッシュは歩く。
村を出て西の森に入り、老婆がいると思われる地点まで向かって行く。
「よう! お前ら早起きだな!」
草むらから飛び出したヒュドラが、勝手に俺たちの列に加わった。
もう慣れた。俺は勿論、シーナもアッシュも、勝手について来るヒュドラに何も突っ込まない。
「ヒュドラさん。私たちが歩いているこの森について、何か知っていますか?」
「普通の森だ! モンスターはいるが、どいつもこいつもザコだぜ!」
「なるほど。ありがとうございます」
「お前、どこに行くのか訊かないのか?」
〈バスルーン湿原〉とは違う方向へ進んでいることに疑問を抱かないのか、アッシュがヒュドラに訊いた。
「どうせまた、やることができたんだろう!? お前らはそういう奴だぜ!」
「どういう奴だよ」
アッシュとヒュドラが会話している間、俺もシーナと、例の老婆について話をした。
「シーナさん。何かおかしいとは思いませんか?」
「思う。あのお婆さんはせっかく手に入れた大金を私たちに渡した。取引という名目で、さりげなく大金を渡すことに、何か理由があったのかもしれない」
「そうですね……」
「おかしいことと言えば、もう一つある」
「え?」
「なんで、お兄さんはこんなことをしているの?」
「え?」
何を聞きたいのかわからず、固まった俺に、シーナはわかりやすい内容で、もう一度質問した。
「剣士に嘘をついていれば、こんな面倒事に巻き込まれずに済んだはずだよ。それなのに、お兄さんは真面目に剣士と向き合って、誤解を解いた上で、問題解決までしてあげようと決めた。……まぁ、お兄さんらしいやり方だとは思うけれど。理由が気になったから、一応、訊いてみた」
「私は……」
剣士の男が怖かった、というのも、面倒事を作ってしまった理由の一つだ。
俺は剣士の男の圧に怯えて、知っていることを全部、正直に話してしまった。
だが、その他にも一つ、俺は剣士の男の言う通りに行動する理由がある。
「あの剣士の男には、友達がいます。もしも本当に、剣士の男が捜している人物があの老婆だったのなら、私たちが手に入れた大金は、元々、その友達の物だったことになります。剣士の男の友達は、私たちと同じ〈夢追い人〉だと聞きました。夢を叶えられる一歩手前まで来ていたところに、老婆という邪魔が入った。老婆は剣士の男の友達を殺し、金を奪って逃げた。同じ〈夢追い人〉として、それが許せなかったのです」
「損得ではなく、自分の感情に従って、面倒事に首を突っ込んだってこと?」
俺は頷いた。
「お兄さんは、お人好しが過ぎるね。今回の件だけれど、ちょっとイラッとした。無理矢理叩き起こされて、問題解決のために働かされて、気分悪いよ」
そりゃあ、そうだよな。本当に、悪いことをしてしまった……。
無理矢理叩き起こす、という部分に関しては言い返したいところだが、俺のせいで面倒事に巻き込んでしまった手前、シーナには頭が上がらない。
「もしも、私にできることがあれば、なんでも言ってください。シーナさんのために、なんでもやります」
「なんでも?」
「はい」
シーナはニコッと微笑み、
「じゃあ、この件が解決したら話すね。なんでも聞いてくれるって言ったんだから、約束守ってね」
「は、はい……?」
シーナが俺に何をさせる気なのか、内容が気になるが、機嫌が良くなった様子なので、今はこれで良しとする。