2021/7『衛生』

文字数 1,578文字

 オリンピックが始まる前の駆け込み観劇でした。コロナ禍でハリーポッター劇場になるのが延びた赤坂ACTシアターで上演された、ハリーポッターとは真逆な大人ミュージカルです。何しろ、悪人親子が主役です。それも、最後の最後まで、反省どころか元気いっぱいで終わります、主役ですから。




 パンフレットの表紙は清潔感あふれる白一色、タイトルはこのコロナ禍に誰もが神経質になっている「衛生」、しかるにストーリーは清潔感からも「衛生」からも程遠い排泄物で始まります。この作品の脚本、演出の福原充則さんが脚本を書いた「いやおうなし」という舞台をかなり前に見たことがありました。主演は、今回と同じ古田新太さんです。残念ながら映像化はされていないようですが、何が起きるのかわからない面白さがありました。そこで使われていた神奈川ネタ、KAAT神奈川芸術劇場で見たので、神奈川でやってるからご当地ネタにしているのかな?とその時は思っていましたが、違ってたんですね。「衛生」も神奈川ネタが…。理屈とかじゃなく、肌で感じるおかしさが随所にあって、神奈川県民ならではの増幅した笑いをいただきました。

 いまだに配信も放映の話が出ていないので、これも映像化はないのかな?と思って、少々ネタばれ的なことも書かせて頂きます。

 昭和30年代からの高度成長期の平塚を舞台にした、新興の汲み取り業者「諸星衛生」の諸星親子(古田新太さんと尾上右近さん)が市会議員(六角精児さん)とつるんで事業を拡大していくための悪行三昧をミュージカル仕立ててで見せます。おもしろいのか、それ?と思われるかもしれませんが、露骨で雑でストレートな欲望に生きる諸星親子の姿は、取り繕いや、言い訳のない痛快さがあります。この親子に、数奇な運命の後に諸星衛生に勤めることになった麻子(咲妃みゆさん)が絡み、ますますドロドロ、陰惨な展開に…。おもしろいのか、それ?ですよね、言葉で説明すると。大丈夫です、悪事もミュージカルになると、歌と踊りでスラスラとできちゃうんです。そして、ポイントはぐっと力の入ったお芝居で盛り上げる、演出の妙があります。
 出演者に、歌舞伎(尾上右近さん)、宝塚(咲妃みゆさん)、劇団新感線(古田新太さん)、相棒(六角精児さん)とバラエティに富んだキャストを揃え、それぞれの持ち味が生きて、更にそれが作品のパワーになっていました。他にも、諸星衛生に蹴落とされるライバル会社の社長夫人にともさかりえさん、社長に村上航さん、市会議員の秘書に佐藤真弓さん、諸星衛生の従業員に石田明さんが、それぞれの濃い物語をきっちり表現します。
 「いやおうなし」でもそうでしたが、登場人物それぞれが全員濃い背景を持っていて、それが絡みあい、どう転ぶのかわからず、そう来たか!となって、え~という展開に終始するところが、福原脚本の醍醐味ですね(二作品しか見ていないのですが…)
 作品中では、秘書が市会議員への秘めたる愛を歌うシーンと、老いた諸星父と市会議員のサウナでの哀愁あふれるシーンが忘れがたいです。ちょっとマニアックかもしれませんが。
 残念な形になってしまったオリンピックにコロナの感染も拡大もあって、憂鬱だった気分を忘れさせてくれる快作でした。


脚本・演出 : 福原充則
音楽 : 水野良樹(いきものがかり) 益田トッシュ
振付 : 振付稼業air:man

出演者 : 古田新太 尾上右近 咲妃みゆ 石田 明(NON STYLE)
      村上 航 佐藤真弓 ともさかりえ 六角精児

      稲葉俊一 今國雅彦 尾上菊三呂 甲斐祐次 加瀬澤拓未 久保田武人
      後東ようこ 高山のえみ 竹口龍茶 新良エツ子 八尋雪綺

      江見ひかる エリザベス・マリー おでぃ かにえゆうき 鏑木信三 高橋伶奈

劇場 : 赤坂ACTシアター
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