2021/6『未練の幽霊と怪物』

文字数 1,031文字

 この舞台も昨年の6月の上演予定が、中止になってしまったもの。幸い今年、同じキャストで上演されました。作品自体が未練の幽霊にならなくて、本当に良かったです。

 休憩を挟んで、二つの物語が紡がれます。前半が敦賀(つるが)、後半が挫波(ざは)。作られたけれど使われなかった原発「もんじゅ」と、作られなかった国立競技場のとその設計者「ザハ・ハディド」の話です。能の形式を踏襲した音楽劇でした。
 私は、室町時代から続く伝統芸能の能を、きちんと見たことがない現代人です。記憶にあるのは、子供頃に連れて行かれ爆睡した薪能と、サスペンスドラマにでて来るお面のトリックとか、昨年の宮藤官九郎さん作のドラマ「俺の家の話」です。だから、今回の舞台で、能の形式がようやくわかったようです。実に練られたシンプルな形式ながら、無限の広がりがありそうで、伝統芸術のポテンシャルはすごいですね。
 能でいうシテを敦賀では石橋静河さんが、挫波では森山未來さんが演じます。シテは台詞がほとんどなく、踊りというか、舞で表現します。最初は面のようなものを被って出て来るし、取ってからも表情はありません。森山さんがダンサーとしても有名なことは知っていましたが、石橋さんは女優さんだと思っていました。彼女も、素晴らしいダンサーでした(後で、コンテンポラリーダンサーでもあると知りました)。ワキとかアイという役割を役者の台詞やモノローグ、(うたい)が、作品の主題を言葉で伝えてくれます。これは、能と違って現代語なので、ストーリーは飲み込みやすい。
 でも、圧倒的なのは雰囲気で、(うたい)囃子(はやし)作り出すゆったりとしたリズムの中で、静謐さと力強さを持つシテの舞、物語へ引き込むワキと主題を伝えるアイの組み合わせ、配された役者の表現力がぴったりとはまって作り出されていました。片桐はいりさんが、下品にならずに巧みに下世話な台詞を担って、主題を伝えてくれて、素敵でした。

 全編、じっと見つめ続けるような舞台でしたので、今回、KAATの大スタジオで採用されていた椅子では、なかなか背中や腰に辛いところがありました。『王将』のときと椅子自体は同じなのですが、観劇姿勢が違ったのですね。あちらは、ちょこちょこ笑いがあって、自然に体が動いていたので。椅子、大事です…。


作・演出:岡田利規
音楽監督・演奏:内橋和久

出演:森山未來、片桐はいり、栗原類、石橋静河、太田信吾/七尾旅人(謡手)

演奏  内橋和久 筒井響子 吉本裕美子

劇場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
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