2023/3『蜘蛛巣城』

文字数 2,212文字

 表紙を変えておきながら、感想が手つかずでした。半年以上経っていて今更なのですが、観劇後すぐは、まったく感想がまとまらずに放置してしまいました。今なら整理できるかな?と思っています。

 赤堀さんの作、演出(そして必ず出演)の舞台はいくつか観てきました。市井の人々のどこにでもありそうな問題を、シビアな目線で暴きつつ、やさしい眼差しも忘れない描き方に毎回唸らされました。キャストも毎回、この方しかいない!と思えて、好きです。
 今回は、なんと元ネタありの時代劇、という変化球です。それだけでもわくわくする上に、主演が早乙女太一さん!私の推し俳優の一人じゃないですか。池袋でも、下北でも、三茶でも行くぞ、と思える舞台をKAATで観ることがきる!幸せです♪
 赤堀さん演出の時代劇といえば、実は数年前に中村獅童さん主演の歌舞伎を観ています。天王洲の寺田倉庫で上演された『女殺油地獄』です。小さな四角い舞台を三方から見るようにな設定で、リアルに事件を覗いてしまったような迫力にドキドキしました。『蜘蛛巣城』は大きいホールですが、やはりお芝居に生々しさを感じました。衣装(プリーツ生地で凝っていましたが、形は袴、打掛)に鬘、所作等々、きちんと時代劇なのですが。さて、その『蜘蛛巣城』、どんな物語かは、KAATのHPからいただきました。

【あらすじ】
日本の戦国時代、天下統一の野望を抱いた者たちが群雄割拠の様相を呈した頃、蜘蛛巣城の城主・都築国春は味方の謀反により苦戦をしいられていた。一の砦の大将・鷲津武時と二の砦の大将・三木義明は隣国との激しい戦いの末、蜘蛛手の森の中をさまよっていると、二人は森に棲む謎の老婆と出会い、二人は予言めいたことを告げられる。武時には「今宵からはあなたは北の館のお殿様、やがては蜘蛛巣城のご城主様」、義明には「あなたのお子はやがて蜘蛛巣城のご城主様」。この予言を聞いてから武時とその妻・浅茅の運命は大きく変わり、予言に誘われるかのように動き出す――。

 ん、これは?そうです、『マクベス』です。そして、『蜘蛛巣城』は、マクベスを戦国時代に置き換えた黒沢明監督の映画の舞台化です。映画もシェイクスピアの『マクベス』の舞台も観たことがなく、戯曲も読んだことがなく、マクベスと言えば豊洲のぐるぐる劇場(IHIステージアラウンド東京)で観た『メタルマクベス』のみなので、私にとっては赤堀さんの新作です。

 主人公の鷲津武時を早乙女太一さん、その妻・浅茅を倉科カナさん、親友の三木義明を中島歩さん、城主の都築国春の軍師・小田倉則保を長塚圭史さんが演じます。映画では三船敏郎さん山田五十鈴さん主演、と聞くと重厚感がありそうですが、赤堀版の舞台では若夫婦の物語になっています。そして、貧しい出自の武時と、良い家柄ながら親の反対を押し切って武時と一緒になった浅茅、という夫婦の物語も前提にあります。戦場に出入りして商売をする農民の五兵衛(赤堀雅秋)も出てきて、そこで農民、下級武士の目線も出て来ると、物語の転がり方に必然が感じられます。
 森に棲む謎の老婆(銀粉蝶さん)は存在感たっぷりで、観ている側にも予言が重く伝わるのですが、だんだん、予言は登場人物の恐怖や願望を言葉にしただけだったとわかってきます。心の奥底にあるものを引っ張り出され、そこから城主たちの言動が今までと違って聞こえて来る。若い夫婦という設定で、その危うさが切迫して伝わります。
 最後は、人を殺す戦とは関わらないように何とか生きて来た農民の五兵衛の、自分の命を守るための必死の一突きが武時に刺さる。あっ…と心の中で声をあげてしまう不条理な終わり方。若い夫婦の野心と失敗、でも悲劇はそこだけじゃないんだよ、と伝わってくるところが赤堀さんです。

 早乙女太一さんは、迷い、翻弄され、這い上った場所から転がり落ちて行く武時を、丁寧に演じていると思いました。武時の生真面目さや不器用さ、やさしさ弱さが伝わったから、この物語が悲劇になるのでしょう。いつも体幹の強さが半端ないなぁ、と思わせる美しい倒れ方をする太一さん、今回は座った姿勢で頭からゴン、そしてパタッ。美しさより、ふいに途絶える命を感じさせます。   
 倉科カナさんは、可愛らしさと負けず嫌い(政略結婚を受け入れて、かつ幸せそうな妹に対する)を同居させ、夫を予言の道に誘導してしまう浅茅を、艶のある声で狂ってもなお魅力的に見せてくれました。
 軍師の小田倉役の長塚圭史さんが、後半激しく感情を露わにするシーンがあって、これも新鮮でした。他のキャストの方たちも、それぞれ物語の流れを作る役割を的確に演じられていました。城主国春の出来の悪い息子を演じられていた新名基浩さんは、NHKの大奥2に出演されていますね。その姿を見ていて、『蜘蛛巣城』、WOWOWあたりで放映してくれないかな…と思ってしまいました。
 
 
 日時 2023/2/25(土)~2023/3/12(日)
 会場 KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

 上演台本:齋藤雅文 赤堀雅秋
 演出:赤堀雅秋
 出演:早乙女太一 倉科カナ 
 長塚圭史 中島歩 佐藤直子 山本浩司 水澤紳吾
 西本竜樹 永岡佑 新名基浩 清水優 川畑和雄 新井郁 井上向日葵 小林諒音
 相田真滉 松川大祐 村中龍人 荒井天吾・田中誠人(Wキャスト)
 久保酎吉 赤堀雅秋 銀粉蝶 ほか
 
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