2022/3『ラビットホール』

文字数 843文字

 これは、この観劇感想ブログを始めてから、初の翻訳劇です。日本で上演されるストレートプレイの翻訳物は、泣ける、とか心温まる系より、人の内面に厳しくせまり、深いけれどキツイ、という印象があって、今の時期、積極的に挑む気持ちになれませんでした。でも、この舞台には木野花さんが出演されていて、近くの劇場だし、で気になっていました。なんとか、スケジュールとお財布の都合がついたので、行って来ました。




 NY郊外の一戸建てに住む経済的に安定している様子の若夫婦は、4歳の一人息子を交通事故で亡くしてから、深い悲しみを抱えて暮らしている。息子の動画を何度も見返しながらも日常を取り戻しつつある夫、もっとセンシティブに息子の物や廻りの人の言動に反応して心を乱され続ける妻。かつて息子を亡くし、そして孫を失った祖母。子供を亡くした姉に寄り添いながら、パートナーとの新たな命を宿した妹。道路に飛び出してきた子供を車でひいてしまった高校生。誰もが傷持ち、悩みを持つのに、それはあくまでそれぞれの物であることを、日常の描写の中に浮かび上がらせる。さすがのピューリッツアー賞受賞作。それから、物語の中心である妻が、それぞれと理解を深めて行く道程が、静かな感動を呼びます。特に、母親とのシーンは、木野花さんの、慈愛あふれる語りにウルウルでした。
 最後に、夫婦が悲しみを抱えつつ、静かに手を重ねて一緒に耐えつつ生きて行こう、という姿が描かれ、それを見守るような気持ちで観劇を終えられて良かったです。

 若夫婦を演じる小島聖さんと田代万里生さんのスラリとした姿が、翻訳劇の世界に違和感なく連れて行ってくれました。緊張感あふれる夫婦、姉妹のやりとりに対して、和ませる役割を果たしつつ、大きな感動を与えるシーンを作り上げる木野花さんが、本当に素晴らしく、観劇して良かったです。

作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
上演台本:篠﨑絵里子
演出:小山ゆうな

出演:小島聖 田代万里生 占部房子 新原泰佑 木野花

劇場:KAAT 大スタジオ


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