2022/5『シネマ歌舞伎 桜姫東文章 下の巻』

文字数 738文字

 『桜姫東文章』のクライマックス、後半です。歌舞伎座での観劇の際には、思わぬトラブルでバタバタと劇場に滑り込んだので、今回は席に着いて、落ち着いて上演開始を迎えられて幸せでした。

 さて、後半では桜姫は零落してみすぼらしくなり、権助も始まってすぐに顔に痣ができて二枚目が台無しです。それでも、舞台の上の二人は魅力的で、艶っぽいやり取りも前半とは違い、慣れ合ってきた感じを醸し出していて、さすがです。だらだらと運命の坂を落ちて行ったような桜姫に、最後にどすんと急降下があります。腐れ縁のようになってきた亭主と思っている権助が、お家の仇と判明するのです。そこから、女郎にまで落ちた桜姫が、家のために復讐を遂げるまでの凄まじいお芝居が続きます。
 衝撃から怒り、後悔、苦渋、悲嘆、迷い、色々見せられたあげくに、凄惨な復讐場面が続くわけで、もう、見ている方がいっぱいいっぱいになります。清玄と白菊との因縁とか、もろもろ全部が長い序章だったのではないかというぐらい、最後に話を盛りすぎじゃないのかしら、南北さん。今どきの言い方だと、伏線回収が一気すぎる、というところですね。それを、ほとんど桜姫の一人芝居で見せるわけですから、玉三郎さんでなければ無理なのではないでしょうか?
 復讐を遂げ、入り口の戸の脇で捕らえられるのを待つ佇まいが、桜姫の覚悟を見事に表現しています。これで幕でいいんじゃないかとも思うのですが、歌舞伎らしいカーテンコール的な場面が華やかに、美しく用意されていました。玉三郎さんも、仁左衛門さんも(別役で)、美しい装いで登場し、お家再興の大団円で終了します。
 この、取って付けたような大団円、無理くりかと思いましたが、人心地ついて劇場を後にするためには必要なものなんですね。
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