閑話37 「読みたくても読めん」のぢゃ!

文字数 902文字

 この閑話は、こちらのサイトにお引越しする前、ネット小説の横読みの読みにくさを嘆いたものですぞな。

【閑話37】

 儂はの、物心ついた時分から本というものを手放したことは無かったぞ。
 手放すのは、飯を食う時と、風呂に入る時ぐらいぢゃったのぉ。
 ん? といれ(・・・)の時は?ぢゃと?
 儂にとって、(かわや)に入っているときは、最高の読書時間ぢゃぞい。

 儂が二十代の頃ぢゃったかのぉ、文庫本で、やたらと活字の大きな本が出始めたのぢゃ。
 それはの、今では珍しくもないが、老眼の年配者向けの本ぢゃった。

 儂は当時、そんな本が嫌いでのぉ。
 何故かと言うに、まず、字が大きいと子供向けの絵本みたいで、書物の内容まで幼稚になったような気がして、ありがた味が薄れるように思ったのぢゃな。

 次に、活字が大きいから、本全体の文字数は少ない訳ぢゃ、しかし、本の値段は普通のものと変わらんから、なんだか損をしたような気がしてのぅ。
 当時は、とにかく活字がビッシリと詰まった本が好きだった訳ぢゃ。

 しかし今、還暦を過ぎた身になるとぢゃな、小さな活字の読みにくいこと、読みにくいこと、本を読む速さもすっかり遅くなり、読む根気もめっきり衰えてきましたわい。

 で、本はまだしも、問題はこのすまほ(・・・)ですわい。
 文字が活字よりも更に小さく、画面は文庫本より小さいからのぉ……。
 左手にすまほ(・・・)を持ち、右手で大きな虫眼鏡を持って画面を眺めておる儂にとって、これで小説を読めとは、かなりの苦行なのぢゃな。はあ……。

 で、気づいたのぢゃがな、すまほ(・・・)の小さい画面のなかの、更にちっちゃな文字でも、改行や一行改行があれば、かなり読みやすくなるのぢゃよ。ふむ……。

 龍田が、小説投稿さいと(・・・)なるものに、彼奴(きゃつ)の小説まがいのものを投稿するようになってからは、やれ「先生ぜひ読んで下さい」「あれは読んでくれましたか?」「感想を教えて下さい」等々、五月蝿(うるさ)いこと(おびただ)しい。

 そこで儂は、老眼の身で、すまほ(・・・)で小説を読むことの切なさを、切々と涙ながらに嘘泣きで訴え、こう提案したのぢゃ。

「龍田よ、お主がそれほどまでに言うのなら、百歩譲って、文章を適度に改行してくれたら、読んでみようかの?」
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