閑話36 「続・よどみに浮かぶ……」なのぢゃ!

文字数 1,158文字

【閑話36】

 311の津波 でハッキリしたことは、津波で浸水した地域は、縄文時代には海だった土地なのぢゃよ。
 逆に言うと、縄文遺跡が発見されている場所は、浸水していないのぢゃ。
 そりゃそうぢゃ、今から1万年前の遺跡が綺麗に発見される、と言うことは、その遺跡の土地は、これまで1万年の間に浸水被害を被っていないと言うことの証明ですからのう。

 儂がこれまで住んできた場所は、なぜかたまたま高台の地盤の固い土地が多かった。
 終の棲家となるこの場所も、海を見下ろす高台で、縄文遺跡がゴロゴロ発見される場所なのぢゃ。

 で、海に面した河岸段丘の最高点が33mあることは知っていたから、千島海溝日本海溝地震津波の最高津波予測の30mが来ても、ギリギリなんとか持ちこたえることはできるだろう、とは思おうておったがの、浸水ハザードマップが見直しされたと聞いて、早速ネットを検索してみて改めて驚いた。

 マップは、儂の住む高台と、5kmほど離れたもう一つの高台の分譲地を除いて、沿岸の土地は全て真っ赤の全滅ぢゃった。
 低地の商店街と住宅地は、ものの見事に水没ないし浸水の予測になっておったのですわい。

 儂の住む分譲地は、海岸寄りの河岸段丘が天然の防波堤になってくれていたのぢゃ。
  そんで、驚いたことには、浸水地域のなかであっても、縄文遺跡が発見されている場所は、浸水しない予測なのぢゃよ。

 我が町の低地にある、田んぼを潰した分譲地に建った瀟洒な新築住宅は、その全てが水没ないし浸水の被害を受けることが明白なのぢゃ。
 その地震が来たらば、若夫婦と子供たちの笑い溢れるスイートホームが、一転して消えて無くなってしまうかもしれないのぢゃよ……。

 儂の住む分譲地が、津波被害から免れても、深度7の烈震では、家が持つかどうか分からんわい。
 お向かいさんも、その時、「こんなことになるなら、あの時、やめておけば良かった」と後悔しなければ良いがのぅ……と思ってしまう儂なのぢゃ。

 我が国は、キャッシュレス決済が遅れている、と云われて久しいが、こんなに自然災害の多い我が国では、これは当たり前のことではないかの。
 停電になったら、キャッシュレス決済なんて、何の役にも立たないことを賢明な人間ほど知っているからぢゃ。

 儂は、もうしばらく家には金をかけんことに決めた。
 地震保険と家財保険はしっかり継続して、できるだけ現金を貯めこむ決意をしておる。
 (現金を貯めこむのは、決意だけに終わりそうぢゃがな)

【よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる(たとえ)なし。】

 左様、方丈記の前文ぢゃ。
 儂らの文明生活など、川の淀みに浮かぶ、(あぶく)に過ぎん。
 消えては出来、出来ては消え、長くその安定を保つことはないのぢゃよ……。
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