第5話 名刑事とメロンクリームソーダ
文字数 1,615文字
わたしがついていった先は警察署の裏手にひっそりとたたずむ、『スターダスト』という名前の喫茶店でした。
カフェではなく、喫茶店です。それも純喫茶というのでしょうか、ザ・昭和な喫茶店です。
署の裏手にこんなお店があるなんて知りませんでした。こういっては失礼ですが、前を通っても見過ごしてしまうようなお店なのです。
しかし店内は思いのほか明るく、天井からぶらさがっているペンダントライトがかわいらしいです。
とはいえ、天井も壁もヤニでべっとりでしたが・・。
ジンさんはいかにも常連らしく、入口の横のテーブルの上に無造作に置かれているスポーツ新聞を取ると、いちばん奥の席へと向かいました。
わたしもジンさんについていき、ジンさんの向かいに座ります。革のソファはふかふかでした。
テーブルの上には謎の小さなルーレット。ルーレットの横には星座が並んでいます。ルーレットに星座。なんなのでしょう? よくわかりません。
「なんだ、占い好きなのか?」
「これ、占いなのですか?」
「うん」
「占いは好きじゃないです」
わたしはルーレットを見るのをやめます。
「好きなものを頼めよ」とジンさん。
「はい」
わたしはメニューを手に取り、それを広げます。
「おはようございます!」
しばらくするとカウンターからマスターが出てきて、水を持ってきてくれました。
かなり年配のマスターですが、デニムシャツにネクタイとおしゃれ心は健在で、かっこいいです。
「いつもの」とジンさん。
「わたしはモーニングセットをお願いします」
朝食抜きだったのでお腹が空いていたのです。
ジンさんはスポーツ新聞を広げ、読みはじめます。
わたしはまだ落ちつかず、店内をきょろきょろと眺めます。どうやらわたしたちが朝いちの客だったようで、ほかにお客さんはいませんでした。
「はい、お待たせ」
マスターがすぐに(ほんとうにすぐに!)、わたしたちの注文の品を持ってきてくれました。
まったく「お待たせ」ではない、仕事早過ぎなマスターなのでした。
ちょっとというか、かなり気になっていたのですが、ジンさんの「いつもの」はなんとメロンクリームソーダ(!)でした。
名刑事とメロンクリームソーダ・・。
合っているのか、合ってないのかよくわかりません。
わたしはおいしくモーニングセットをいただきました。
モーニングセットはトーストにスクランブルエッグにサラダでした。はちみつがついていたのがうれしかったです。甘いトースト、好きです。
飲み物はコーヒーではなく、紅茶にしました。紅茶もおいしかったです。
食後(メロンクリームソーダを食事とするとですが)、しばらくしてもジンさんはスポーツ新聞を広げたままでした。いっこうに立ち上がる気配はありません。
これはもしかして、と刑事ドラマ見過ぎなわたしにはぴんときました。ジンさんは情報屋を待っているにちがいないと。
「ひまだろう。マンガでも読んどけ」
「はい」
わたしは立ち上がり、本棚の前までいくと、ずらりと並んだマンガを眺めます。
ありました!
『グラップラー 刃牙』
わたしの愛読書です。わたしはひさしぶりに読み返そうと思い、第一巻を手に取りました。
さっそく革のふかふかのソファに座り、『グラップラー刃牙』を読みはじめるわたし。
一巻、二巻、三巻と調子よく読んでいきます。あいかわらず、刃牙くん、かっこいいです。お父さん、強すぎです。
結局、その日情報屋がくることはありませんでした。わたしはいったいなにをしていたのでしょうか?
その日、警察の捜索により、この町を流れる大きな川の中流域から頭部を含んだ胴体が見つかりました。下流域からは右手のない右腕と右足が見つかりました。左腕と左足はまだ見つかっていません。
しかしその歯型から、その日の夜には身元が判明しました。殺害後、バラバラに切断され、川に捨てられた女性は瀬尾まりさん。
二十四歳。わたしと同じ年でした。
カフェではなく、喫茶店です。それも純喫茶というのでしょうか、ザ・昭和な喫茶店です。
署の裏手にこんなお店があるなんて知りませんでした。こういっては失礼ですが、前を通っても見過ごしてしまうようなお店なのです。
しかし店内は思いのほか明るく、天井からぶらさがっているペンダントライトがかわいらしいです。
とはいえ、天井も壁もヤニでべっとりでしたが・・。
ジンさんはいかにも常連らしく、入口の横のテーブルの上に無造作に置かれているスポーツ新聞を取ると、いちばん奥の席へと向かいました。
わたしもジンさんについていき、ジンさんの向かいに座ります。革のソファはふかふかでした。
テーブルの上には謎の小さなルーレット。ルーレットの横には星座が並んでいます。ルーレットに星座。なんなのでしょう? よくわかりません。
「なんだ、占い好きなのか?」
「これ、占いなのですか?」
「うん」
「占いは好きじゃないです」
わたしはルーレットを見るのをやめます。
「好きなものを頼めよ」とジンさん。
「はい」
わたしはメニューを手に取り、それを広げます。
「おはようございます!」
しばらくするとカウンターからマスターが出てきて、水を持ってきてくれました。
かなり年配のマスターですが、デニムシャツにネクタイとおしゃれ心は健在で、かっこいいです。
「いつもの」とジンさん。
「わたしはモーニングセットをお願いします」
朝食抜きだったのでお腹が空いていたのです。
ジンさんはスポーツ新聞を広げ、読みはじめます。
わたしはまだ落ちつかず、店内をきょろきょろと眺めます。どうやらわたしたちが朝いちの客だったようで、ほかにお客さんはいませんでした。
「はい、お待たせ」
マスターがすぐに(ほんとうにすぐに!)、わたしたちの注文の品を持ってきてくれました。
まったく「お待たせ」ではない、仕事早過ぎなマスターなのでした。
ちょっとというか、かなり気になっていたのですが、ジンさんの「いつもの」はなんとメロンクリームソーダ(!)でした。
名刑事とメロンクリームソーダ・・。
合っているのか、合ってないのかよくわかりません。
わたしはおいしくモーニングセットをいただきました。
モーニングセットはトーストにスクランブルエッグにサラダでした。はちみつがついていたのがうれしかったです。甘いトースト、好きです。
飲み物はコーヒーではなく、紅茶にしました。紅茶もおいしかったです。
食後(メロンクリームソーダを食事とするとですが)、しばらくしてもジンさんはスポーツ新聞を広げたままでした。いっこうに立ち上がる気配はありません。
これはもしかして、と刑事ドラマ見過ぎなわたしにはぴんときました。ジンさんは情報屋を待っているにちがいないと。
「ひまだろう。マンガでも読んどけ」
「はい」
わたしは立ち上がり、本棚の前までいくと、ずらりと並んだマンガを眺めます。
ありました!
『グラップラー 刃牙』
わたしの愛読書です。わたしはひさしぶりに読み返そうと思い、第一巻を手に取りました。
さっそく革のふかふかのソファに座り、『グラップラー刃牙』を読みはじめるわたし。
一巻、二巻、三巻と調子よく読んでいきます。あいかわらず、刃牙くん、かっこいいです。お父さん、強すぎです。
結局、その日情報屋がくることはありませんでした。わたしはいったいなにをしていたのでしょうか?
その日、警察の捜索により、この町を流れる大きな川の中流域から頭部を含んだ胴体が見つかりました。下流域からは右手のない右腕と右足が見つかりました。左腕と左足はまだ見つかっていません。
しかしその歯型から、その日の夜には身元が判明しました。殺害後、バラバラに切断され、川に捨てられた女性は瀬尾まりさん。
二十四歳。わたしと同じ年でした。