第39話 いい子になって
文字数 361文字
ぼくは川村さとし。
大きな川を流れる死体。
しばらくの間、うつぶせで川を流れていたぼくですが、骨折した右腕が川底の大きな岩にあたり、それで体が反転し、いまやあおむけで川を流されています。
きらきらと輝く星空が見えます。赤い星が見えます。たぶん火星です。いちばんかっこいい星!
川の冷たさ、川のにおい。なんだか気持ちがいいです。
空が白くなっていきます。夜から朝に。こい青からうすい青に。施設のちいさな窓からよく見ていた色です。
「ちゃんとたべてる?」
「たのしい?」
「ともだちができたんだって?」
ママの声がします。
死んでしまったぼく。もうママに会えないぼく。
でも、だいじょうぶ、だいじょうぶ。二週間したら、ぼくはたぶんここにもどってくるから。それも、いい子になって。
左足の黄色いスニーカーがゆっくりと脱げていきます。