第3話 初めての殺人事件
文字数 949文字
この町を流れる大きな川のほとりに生えている、背の高い葦の茂みの中から、若い女性の切断された右手が見つかったのは七月十一日のことでした。
その日、わたしのスマホは早朝から鳴りっぱなしだったのですが、そんな日にかぎって眠りが深かったわたしはすぐに起きることができずにいて、ようやく何度目かのコール音で電話にでたところ、「バカモリ!」というタカバヤシさんの怒鳴り声が聞こえてきました。
「はい、ハナモリです」
「なにやってんだ! バカモリ」
「すみません、寝ていました」
「バカ、このバカモリ! 殺人事件、それもバラバラ殺人事件だ! 早く来い!」
「はい!」
殺人事件!
それもバラバラ殺人事件!
わたしは一気に目が覚めました。
とうとうきたのです。
ほんと不謹慎ですみませんが、ベッドの上でガッツポーズするわたし。
わたしはベッドから飛び降りるとパジャマをぬぎ、いつもの黒いスーツを着て、それからこれもいつもの白のローカットのコンバースをはいて、マンションの部屋を飛び出しました。
四階から一階まで階段を一気にかけおりる、若くて、かわいい女刑事。
すみません、わたしのことです。
わたしはマンションの前にとめているスクーターに飛び乗ります。
わたしのスクーターはヤマハのビーノ。制服警官時代からの愛車です。
色はイエロー。より正確にいうと、「パールシャイニングイエロー」(!)。よくわかりませんが、かっこいいです。
さっそくエンジンをかけて、わたしは愛車ビーノを飛ばします。
朝の町、わたしが生まれ育った町、わたしが大好きな町。大きな川が流れている町、昨日まで平和だった町。
もちろん、ヘルメットはかぶっています。
ヘルメットはSHOEIのフルフェイスです。スクーターにはおおげさなヘルメットですが、頭のわるい娘を心配して母が買ってくれたのです。
もちろん、スピード違反もしていません。
いや、その日はスピード違反していたかもしれません。
なにしろその日は、またまた不謹慎なことをいってもうしわけございませんが、待ちに待った殺人事件(それもバラバラ殺人事件!)が起きた日なのですから。
やがてこの町を流れる大きな川が見えてきます。
わたしはその大きな川にかかった橋を渡ります。
いつものひどい横風をうけながら。