第21話 「どうも、瀬尾まりです」
文字数 1,004文字
それからぼくは自分の部屋にいき、ベッドに横になった。
こういうときはじっとしていた方がいいことがわかっているから。だから、ぼくは何時間も何時間も横になっていた。ぜんぜん眠くならなかった。
明け方近くになって、ぼくはそうだと瀬尾まりさんのことを思い出して、ベッドから起き上がった。
リュックから瀬尾まりさんからもらった名刺を取り出して、勉強机に座ると、ノートパソコンを開けて、瀬尾まりさんの名刺を見ながら、彼女の会社のホームページを開いた。
するとそこにはアップされたばかりの動画があった。
その動画を見てみると、瀬尾まりさんが大きな川を背に映っていた。さっき(といっても、たぶんもう昨日だけど)撮影していたやつだ。
再生ボタンを押すと、瀬尾まりさんが出てきて、「どうも、瀬尾まりです」といった。
ぼくはなんどもなんどもくり返しその動画を見た。
瀬尾まりさんは会社や会社の仕事の紹介をしているようだった。
ぼくにはよくわからなかったけど、でも彼女のきれいな顔を見ているだけでよかった。
どれだけていても彼女の顔はきれいで、やはりひとつもみにくくなかった。
動画はほかにもいくつかあり、ぼくはその動画もやはりなんどもなんどもくり返し見た。
「どうも、瀬尾まりです」
「どうも、瀬尾まりです」
「どうも、瀬尾まりです」・・。
そのうちぼくは机の上で眠ってしまった。
どのくらい時間がたったのかわからないけど、ぼくは瀬尾まりさんの声で目を覚ました。ぼくは彼女の動画の自動再生をオンにしていたのだ。
彼女がいう。
「お前、なんか死んでしまえ」
「バカ!」
「やくたたず!」
「カス!」
「殺してやるからな」
「そうだ、かみ殺してやる!」
ぼくは彼女のきれいな顔から目をはなすことができなかった。
・・いまやっとわかった。
顔がきれいすぎると思っていたけど、この女の正体は犬だったのだのだと。
ぼくの両手がふるえだし、体があつくなる。気持ちがわるい。頭がかゆい。
すごくかゆくなってきたので、ぼくは頭をかく。かきむしる。
するとぱらぱらと粉が落ちた。
フケなのかと思って見てみると、それはぼくのかわいた血だった。
なんでこんなに血が出ているのか?
ぼくははっとして、振り返った。
でも、まだそこには犬たちの姿はなかった。
それからぼくはあわててノートパソコンを閉じた。
この動画が(瀬尾まりが)犬たちを呼び寄せているのかもしれないから。