第7話 もう朝でした
文字数 913文字
それがどうしてこんなことになってしまったのか・・。
こんなことをいうと姉は怒るでしょうが、死ぬべきだったのは姉ではなく、ぼくの方だったのです。
どうして「できのいい」姉が殺され、「できのわるい」弟であるぼくが生き残っているのか、ほんとよくわかりません。
世の中のことはぼくにはよくわからないことばかりですが、でもたしか高校の生物の授業では、優秀な遺伝子の方が優先的にあとに残ると教わったおぼえがあるのです。
姉の切断された右手が大きな川のほとりで見つかったのは七月十一日のこと。
その日の午後には、頭部を含んだ胴体と右手のない右腕と右足が見つかりました。頭部を含んだ胴体は川の中流域で、大きな倒木にひっかかっている状態で見つかったそうです。
その日、ぼくはいつものようにだらだらと夕方に起きて、二階の自分の部屋から一階に下りていきました。
だらしない話ですが、ぼくは大学生なのにろくに大学にもいかず、家にひきこもり、完全に昼夜が逆転した生活を送っているのです。
一階の居間に入ると、パートから帰ってきたばかりであろう、母が我が家の固定電話機の前でうずくまっていました。
「どうしたの?」
「まりちゃんが殺されたって・・」
「なにいってんの」
ぼくは思わず笑ってしまいました。
どんな冗談だよ、と思ったのです。
すると急に立ち上がろうとした母が前のめりに倒れそうになり、ぼくはあわてて母を抱きとめました。
「ちょっと、だいじょうぶ?」
ぼくは母を居間のソファの上に寝かせます。
泣き出す母。
まさか・・。
そのとき、つけっぱなしになっていたテレビからニュース速報の音が鳴り、画面にこうテロップが流れました。
「殺害された女性は瀬尾まりさん(二十四歳)。警察では・・」
いったい、なにが起きているというのか?
ぼくはとりあえずリモコンでテレビを消しました。
そのあとのことはよくおぼえていません。
おぼえているのは、母に毛布をかけたこと。それから、父がタクシーで帰ってきたこと。
姉に電話をしつづけたけど、姉が電話に出ることはなかったこと。
気がつくと、ぼくは自分の部屋のベッドに寝転んで、白い天井を見つめていました。
もう朝でした。