その③
文字数 952文字
「あ、あの赤い空はいったい……!?」
底知れない驚愕と困惑におもわずカルマンがあえぐような声を漏らした次の瞬間、それは生じた。
見あげる夜空の一角から突然、ひと筋の赤い光線が地上のカルマンめがけて伸びてきたのだ。
それに気づいたカルマンがおもわず「あっ」という声を漏らしたのとほぼ同瞬。
垂直に一閃してきた光線はほどなくカルマンの身体を直撃し、その体面上で音もなく弾けとんだ。
突如として出現した赤く輝く光の球体が、その身を音もなく包みこんだのは直後のことである。
わが身を襲った不可解な現象に、カルマンの声が驚愕にひびわれた。
「な、なんだ、この光は!?」
さらなる異変が生じたのは、まさにその瞬間だった。
にわかに球体内に、霧とも煙ともつかぬ正体不明の赤い色をした<もや>が発生したのである。
狼狽するカルマンをよそに赤い<もや>は、球体内で濃度を高めながら広がりつづけ、やがて手足の先端がそれに触れたとき、それは起きた。
カルマンの手足の先が消えたのだ。
否、それは消えたというよりはむしろ、まるで<もや>の中に身体が溶けていくような光景であった。
「な、なんだ、身体が消えていく……!?」
わが身に生じた異変にカルマンが声をわななかせているうちにも、球体内で広がりつづける<もや>はカルマンの身体を「浸食」しつづけた。
指先から手首、つま先から膝へと身体の消失部分は徐々に拡大し、やがて両手両足が完全に消えてしまうまで時間は必要としなかった。
あいつぐ理解不能な怪異現象に思考が麻痺してしまったのか。
カルマンはもはや声すらだすことなく、ただ喪心したような目つきで消えゆく自らの肢体を見つめていた。
そうしているうちにも球体内で増幅をつづける<もや>はカルマンの腹部を消し、胸部を消し、ついには顔にまで迫ってきた。
ほどなくあごが消え、口が消え、鼻が消え、そして両目にまで迫り、今まさに視界までもが消えようとしていたその寸前。とっさに眼球だけをわずかに動かした先にカルマンはたしかに見た。
金色の髪をした自分と同齢とおぼしき若者が一人。微笑を浮かべながら森の一角にたたずみ、消えゆく自分を見つめている姿を……。