その①
文字数 944文字
神教圏の北中部に位置する神聖ラファーン帝国は、他の国々同様、ダーマ神教を唯一無二の国教と定めている教圈国であるが、異なる点がひとつある。
それは他の国々のように単一の王朝によって統治されている国ではなく、計十二の聖騎士団領の連衡(れんこう)によって成立している連合国家ということだ。
それぞれの騎士団の頭領である総長が事実上の君主として麾下の聖騎士たちとそこに住む領民を統べ、その十二人の騎士団総長の中からダーマ教皇によって【聖都守護】に任じられた者が、ラファーン皇帝として戴冠するのである。
ゆえに【聖帝】とも称されるラファーン皇帝の地位は、終身制であるが世襲制ではない。
時の皇帝が崩御するつど教皇庁において選帝会議が開かれ、十二人の総長の中から次の皇帝を選び、教皇がそれを承認することになっている。
選君制と呼ばれる他の国にないこの制度は、建国来九百年間、変わることなく続いている。
ラファーン軍――十二聖騎士団連合軍の総兵力は七万人ほどで、これより強大な兵力を有する国は教圏内にはいくつもあるが、教皇領を守護する【聖軍】という宗教的権威を旗印とするラファーン軍は、ある意味、教圏世界において最強といえる軍隊であった。
ラファーン軍の最大の任務はむろん教皇領の守護であるが、ときとして教皇の勅命により教圏諸国に対して軍事行動をとることもある。
内戦などの理由で混乱におちいった国への停戦や和平の仲介がほとんどだが、ときとしてダーマ神教と教皇庁に対し、対抗的ないし背教的行動をとった国へ懲罰目的の武力行為にでることもある。
だがラファーン軍が他の教圏国とまともに戦闘を交えたことは、歴史上ただの一度もない。
教皇庁がラファーン軍を派遣したと聞いただけで制裁の対象となった国は動揺し、陣頭に立てられた教皇庁の紋章入りの軍旗を見ただけで、その国の兵士は武器を捨て、戦わずして地にひれ伏すからだ。
連合軍であるラファーン軍の主力は、皇帝に選ばれた聖騎士団総長麾下の騎士団が務め、その多くは国都メサイアに駐屯している。
ダーマ神教の総本山であるファティマ教皇領は、その国都の一画に領土をかまえる神教圏最小の国である。