レッズ (1981)

文字数 1,079文字

【筋金入りラブスト-リー】 1981/4/24



いやはや、あらためてウォーレン・ベイティの才能に驚かされてしまった。
共産主義に命を捧げた男、彼を深く愛する女傑とのラブストーリーを、
なにやらインテリ好みの政治闘争のなかで、
しかし政治色抜きの盛り上がりのなかで描ききってしまう。
この迫力はなんともすばらしい。

明らかにREDSとかソビエト共産主義革命とかは、この二人の為の背景に過ぎない。
しかし、ウォーレンはこの背景を徹底的に表現している。
20世紀初頭のアメリカの風俗はまだしも、
ヒロインの密入国の旅、その細部の詰めにいたっては、
たとえ大掛かりな いかさまであろうと騙されてやろう
・・・と思わせる程度に説得力を持っている。

ウォーレンはジョン・リードとルイズ・ブライアントの歴史的ラブストーリーを
訴えたいがために共産主義をダシにした。
強引ではあるが、立派なプロジェクトだった。
まさにプロジェクトたるゆえんは、歴史上の実在人物を、
同じトーン、アングルで長期間撮り貯めし、
本シネマに登場させていることからも明らかである。

この有名人の証言は、本シネマのなかで、最も成功したカモフラージュでもある。
今は鬼籍になった人物が本シネマで再現されることの意義は計り知れないが、
よくよく証言の内容を聞いてみると、TV昼のワイドショーのゴシップとたいして違わない。

誤解されないように言うと、
ウォーレンはこのゴシップ、スキャンダルこそを狙ったわけで、
たまたま証言者の老齢から発する希少価値が観客に一種の錯覚を
(格調高く真実に満ち溢れているように)起こさせ、緊張させる。
この証言者たちが、狂言回し的立場になって、ラブストーリーが語られる展開は、
似非ドキュメンタリーで、これまた効果的カモフラージュだ。

という具合に全てのカモフラージュを剥ぎ取ってしまった「レッズ」というシネマは
実はラブストーリーの秀作であった。
男と女が、好きだ嫌いだと、グズグズするのも結構だが、
本シネマのように一気にモスクワ駅のクライマックスまで突っ走るのもいいものだ。

リードを見つけたルイズが近寄っていくまでの
ルイズ(ダイアン・キートン)の美しさは格別だった。

ところで、ジャック・ニコルソンが二人の愛に欠くことのできない人物(ユージン・オニール)として登場するが、内にプライドを秘めたクールな演技でシネマの質を高めていた。

冷たく言い放す「I PREFER GLASS」は決まっていた
(今回はオーバーアクション封印)。

「レッズ」の収穫は、シネマが表現する素材の中で
やはり《愛》ほど感動できるものはない・・・ということだった。

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