灯台守の恋 (2004)

文字数 1,389文字

【人は皆「灯台」を頼りたいもの】 2007/8/15



なかなか興味の尽きないテーマに考えさせられました。
今回は詳細ネタバレ(僕としては)になりそうです、ご容赦ください。
■荒筋をブリーフィングすると;
まずもって論理的にも情緒的にも薄っぺらい第一印象があります。
父母がなくなったのを機会に灯台の見える生家を
売りに出そうとする娘(アン・コンサイニー)。
彼女の出生の秘密が解き明かされるべくシネマは過去に戻っていきます。
最果ての島でひっそりと生きる美しい女性(サンドリーヌ・ボネール)、
夫(フィリップ・トレトン)は灯台守。
灯台守の見習いとして島に流れてきた若い男(グレゴリ・デランジェール)と
人妻との燃え上がる恋心。
最後に、娘は両親たち三人の生き方を理解して思い出の家を留め置くことにします。

■あまりにもご都合主義ストーリーと思いきや・・・?
実はこのストーリー、一冊の小説が三人の関係を解き明かし、
暴露していく手法になっています。
両親たちの物語(おそらくはが若い男による著作)が
娘が生家に戻ったそのタイミングで届きます。
母と若者との一目ぼれと衝撃の不倫、
父と男の信頼、友情がその物語の骨子のようです。
シェイクスピアの時代から小説は戯言とはいえ、
この展開は安直過ぎて、さすがの僕も虚を突かれました。
「マディソン郡の橋」に感じた衝撃愛の不可思議さをはるか高く超える心もとなさでした。
それでも、
不倫の愛に燃える二人の瞳の奥にちらついていた
「怯え」と「憧れ」が妙に僕の気持ちにからみついて離れません。
女の瞳に見えたのは閉ざされた島の不満、未知なる外界への焦燥だったのでしょうか?
後からわかったのは、夫は彼女に惚れ抜いて、
逆にその外界から閉塞のこの地に飛び込んだとのこと。
彼女には結婚後も意識下での大きな負荷、
「この地を離れたい」が暗く蠢いていたのが想像できました。
彼女の哀しみと諦めを吸収してしまうような目と微笑を絶やさないハンサムな流れ者、
彼の心にもまたアルジェリア戦争の痛みが巣食っていました。
「名誉と栄光のためでなく」(アラン・ドロン最高作と思っている)でも観た
アルジェリアでのフランス軍の残虐性を、
島の住民に問いただされる流れ者、
しかし彼は勇気ある優しい男でした。
彼が戦争で心身ともに負傷し灯台守を希望したのは
そんな人間不信、厭世観もあったからでしょう。
絶えることない微笑の裏に隠された絶望、それを女が読み取り感じたのは
やはり運命としか言いようがないのです。

■フランスらしいシネマ作法がストーリーの瑕疵を塗りつぶしています。
娘演じるアン・コンサイニーのアンニュイ、
頬杖をついて母の想いを自分に感じているところは絶品。
冷たい表情から時折めらめらと燃える情愛を放つ人妻像は
サンドリーヌ・ボネールならではの絶品。
グレゴリー・デランジュールは期待を裏切り続ける優男ぶり、徹底した流れ者ぶりも絶品。
フィリップ・トレトンも、定番のコキュを過不足なくこなし、
椅子作りが趣味という役作りが絶品。
フィリップ・リオレ監督はかくも淡々と人間の奥底を晒しだしています、フレンチ伝統の絶品。

■オリジナルタイトルはただの「灯台」、
邦題の「灯台守」も」恋」も余計だったと思います。
両親、流れ者に必要だったのは荒海に屹立する灯り、
それは「三人の娘」にも欠かせないものです。

こんな時代、人は皆「灯台」を頼りたいものだから。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み