天地明察 (2012)

文字数 768文字

【「諦めない気持ち」を今の日本に届ける】 2012/9/15



どちらかというと地味な素材をニッチな歴史エンターテイメントに仕上げた沖方丁原作。
一方シネマとして結構地味な素材にもかかわらず、「華」を輝かせた滝田フィルム、
僕の懸念は払拭された。

徳川幕府、初代天文方を務めた「渋川春海」の名前は受験用記憶でしかなかった。
しかし、歴史は自らを進化させる人間を英雄として運命付ける。
この物語は本名安井算哲、将軍はじめ名家の囲碁の相手をすることを生業とする男が、
日本独自の「貞享暦」を創造するまでのサクセスストーリーだ。

史実かどうか僕には判定できないが、
主人公の周りにはキラ星の如く輝く時代のヒーローたちが集い、導いてくれる。
保科正之、水戸光圀、関孝和、安藤有益、本因坊道策との交友をシネマでは堅実に描いている。
製作側はこれらの人物に豪華なキャスティングを惜しんでいない、
観客にはあり難いことである。

前半の見所である日本各地での緯度計測、和算の操作の実態は映像ならではの説得力があった。
美しい山並み、荒れ荒ぶ海、そして夜空に広がる無数の輝く星・・・シネマの特権であった。

一方では、
クライマックスの「生命」を賭した暦の正誤を争う京都での辻説法は、
江戸での同様な戦略との違いが薄弱になっていた。
主人公のバイタリティの強さを、僕は「類稀な政治力」と推定していたのだが、
肝心のこの部分が最後の最後で立ち消えていたようで残念だった。
それでも、若き算哲がその青春を費やして証明した、
太平の世の中に「挑戦する息吹」「成功するまで諦めない執拗さ」は
現代の日本人にも痛く届いたことだろう。
歴史の影に埋もれた上品な「青春根性物語」がしっかりと再現されていた。

岡田さんは武士の世のインテリに適役、
妻の宮崎あおいさんは相変わらずの強面ビューティ、
お二人の夫婦物語でもあった。

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