第11話:天一の秘密と家づくり

文字数 2,678文字

 その話を聞いて、天一も親になったし、いつ話そうかと思いながら、言いそびれたことがある言うと目に涙をため、ため息をついた。その後、小さい頃、農家に嫁いで、亭主が交通事故で死んだと話したが、あれは、嘘なんたと言った。そして実は、港北ニュータウンの中の池辺商店に15歳の時、東北を出て、就職し事務員になった。

 そこの主の池辺作一という大尽さんが、女癖が悪かった。米子が18歳の時、仕事を終えて、風呂を出て、4畳半の部屋で寝てるときに寝床に入ってきて、おもちゃにされた。でも、店主に刃向かうこともできず黙っていたが、それが数回続き、子供を宿した。それが、お前、天一なんだよと教えた。これがわかると、池辺作一が、他の人に知られないように私に手切れ金を渡して、クビした。

 その後、子供の養育費を出すように言うと景気の良い時代で出してくれた。池辺作一は、政治家と仲良くなり、港北ニュータウンができる話や小机の近くに新幹線が通り、新駅ができる話をあらかじめ知って大儲けした。その時、安い金で買収し、立ち退きをせまった農家が数件あり、その中で新横浜駅から一番遠い、古い農家を私の名義にして、お前と2人で住むようになったと言った。

 その話を静かに聞いていた天一は、そうだったのかと言い、俺には、そんな過去があったのかと寂しげにつぶやいた。でも、仕方ない、俺も成人になって、横浜信用金庫に勤めて、子供で来たから、これから、自分の家族を幸福にしてやるしかないと言い放った。そうだねと、母が、言うと、涙があふれ、こぼれ落ちた。ずーっと、秘密にしていてごめんねと、母が言うと、仕方ないよ、言いにくいものな、母の肩を抱いた。

 許しておくれよ、母が言うと、大丈夫だ、学校も出させてもらい、これから、俺の家族と母に宅をさせてやるよと言った。すると、母が、天一に、本当の強くて優しい子に育って、良かったと静かに言った。次に、天一が、母さんの家を壊して、新しい2階建ての大きな家を作って、俺の家族4人と母の5人で住もうよというと、本当かい、それはありがたちと言い、また泣いた。

 そして、しばらくして、店を出て、母と別れた。数日後、天一は奥さんの清実さんに、母から聞いた話をすると、驚いて、小説みたいなドラマチックな話ねと言った。お母さんは、さぞ、苦しかったでしょうねと言い、同情した。でも、世の中には、そんな、とんでもない男が、いるのねと驚いていた。その後、母の家を新築する話をすると、素敵な大きな家が欲しいわねと喜んでくれた。

 2000年も3月下旬となり、桜が咲き始め4月2日の日曜に、横浜の住宅展示場を母と家族4人の5人で回った。どれも立派な家ばかりで、テレビドラマに出てくるような家で、今ひとつ、しっくり行かなかった。そこで、地元のMS工務店に聞くと、最近、住宅資材メーカーで、格安で良い木造住宅を作る会社ができたと教えてくれ、私の所がその会社とフランチャイズ契約をしたと話した。

 そして家のプランを見せてくれ、この会社の向こう側に、今モデル住宅を建設してるところで、4月30日までには、完成する予定だから、是非、見てくれと言った。この会社なら、基本仕様じゃなくて、床、窓、玄関、風呂、トイレ、駐車場もオプションしようにすれば、大手住宅メーカーに決して引けを取らすに家を建てられ、費用は、2,3割、安くできると力説した。

 そこまで言うのなら、展示会に来て見て、判断しようかと、奥さんと母に言うと、その方が良いかも知れないと賛成してくれた。その後、4月30日に、MS工務店に行くと、内覧会をしていて、朝一番に、北川天一家族5人が到着した。すると工務店の社長が、これが第一号の来訪者への商品ですとお菓子の詰め合わせをいただいた。そして、社長自ら、家の説明を始めた。

 これが門扉で、ドアが、これで玄関を吹き抜けにすることも出来ますと言い、部屋に入ると12畳くらいの大きなリビングと8畳くらいの広いダイニング、その横を曲がると、拾いキッチンと3つ口ガスコンロ、大きな冷蔵庫と米をはかれる機械の入った食器棚、それを突っ切ると、着替え室と大きな風呂場となっていて。右のドアを開けるとトイレと、玄関を横切った先には、10畳に、板の間が着いた和室。

 この和室の板の上に大きなタンスが3つ置けると言った。玄関まで戻り、ドアを開けると大きなリビング、その左側には10畳の和室があり、寝室としても、和風の応接間としても寝室としても使えますと説明した。2階にあがる、4つの8畳の洋室があり、子供部屋としても一部は物を置く部屋にもできると言った、そして、階段を上がった所のドアを開けると16畳の広さの洋室になっていた。

 ここは、広いので、2世帯住宅として、洋風の応接間としてソファーと入れることもでき、デレビを見る部屋としても使えると言った。総床面積が50坪と非常に大きい2世帯住宅となっていると話した。これを見て、母の米子さんが、おいくらと聞くと、オプションなし、一番簡素な、格安使用で2500万円、普通の仕様で3000万円、デラアックス仕様で3500万円と言った。

 それは、安いと驚いた様に言った。シンクも窓も風呂も住宅資材は、一流メーカーだと言うと、このメーカーの子会社として、できた会社なのですよと話してくれた。自社製品だけを使ったから安く提供できるのですと、熱心に説明してくれた。その後、母が、興味あるから、3000万円と3500万円の仕様の家の図面と写真が欲しいなと言うと、1週間ほど待って下さいと言った。

 なにせ、この会社ができたのは4ヶ月前なのでと頭をかきながら、社長が言った。そして、5月6日、北川天一の家に電話が入り、資料が完成したので、また、おこし下さいと、MS工務店の社長から言われた。翌日、5月7日・日曜、住宅展示場を北川家の5人で訪問すると、社長に案内され、できたばかりのカタログと写真を見せてくれた。それを見て、母と奥さんと、すごい、素敵と言った。

 それを見て、社長が、気に入ってくれましたら、最初のお客様として、ここにある冷蔵庫、コンロなど、設備も無料でつけて差し上げますと言うと、母と奥さんが、これで十分よと、話すと、社長の顔には笑みがこぼれた。この部材でこの価格は、他社では、絶対に出来ませんと言い、価格の割に費用に豪華な仕様になりますと念を押した。それを聞き、できたら、敷地を見せて下さいと言うと母が良いわよと答えた。
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