第29話 彼の能力
文字数 2,114文字
「まず前提として、勇者召喚とは異なる世界から人間を引き寄せる魔術です」
「うん、知ってるよ」
こちらに来た当初、他ならぬニナからそういう風に聞かされたのだ。
随分とぶっ飛んだ話だが、今となっては受け入れている。
夢や幻とは言い切れないほど、この世界はリアルだからね。
まさに異世界と呼ぶに相応しい。
「その引き寄せの際に、対象者の秘めた才能を魔力と特殊能力に変換して開放する術式が組まれています。これによって生まれるのが勇者ですね。秘めた才能を持たない人間には何も作用せず、無能力者として召喚されます」
「なるほど。そんなシステムだったんだ」
初耳の情報だ。
あまり興味のなかった分野だからね。
本職の魔術師でもないし、詳細な部分を話されても分からない。
ニナもその辺りを考慮して、内容を噛み砕きながら説明してくれているのだろう。
「ササヌエさんは魔力と特殊能力を持たないので、無能力者と判断されました。しかし実際は"既に才能を解放し尽くして、特殊能力に変換する余地がなかった"のではと考えています。その解放された才能こそが、ササヌエさんの身体能力だと思うのです」
「つまり、俺の身体そのものが、勇者の特殊能力に相当するものってことかい?」
「その可能性が高いと思います……」
興味深い仮説だ。
確かに身体機能に関しては、人並み外れたものである自覚はあった。
知り合いの闇医者によると、俺は"身体機能を人間の上限まで自由に発揮できる体質"らしい。
それに耐えるために肉体も頑強なものへと進化しているそうだ。
マンガに出てくるようなヒーローみたいだとからかわれたが、確かにその通りだと思う。
その気になれば一時的に筋肉のリミッターを外すことも可能だが、これは使用後に反動で筋肉断裂や骨折を伴うのであまり好まない。
元の世界でも数えるほどしか頼っていないし、この世界に召喚されて以降は一度も使っていなかった。
デメリットが大きい上、いつもの身体能力でも十分だからね。
まあ、この世界には比喩ではなく怪物もいるみたいだから、いずれ使わざるを得ない気もするが。
(こう考えると、特殊能力っぽい……かなぁ?)
俺は過去を振り返りつつ考える。
そこまで大袈裟な名称になるのか微妙なラインだ。
今まではちょっとした特徴くらいの感覚だったが……。
召喚当初の時点で自分が勇者ではないと判明していたけど、こうやって改めて考察されると色々と思う所が出てくる。
まさかこの体質こそが特殊能力の発現を妨げていたとは。
自覚したところでどうすることもできないけどね。
それにしても、無能力者の異世界人には同情してしまう。
ニナの推論が正しければ、彼らは特殊能力に目覚めるだけの才能を持っていなかった。
才能のリソースを使い切っている俺と似た状態だが、実質的には劣化版である。
こんな物騒な世界に放り出されるなんて、何とも不運な人々である。
「なんだか地味な能力だなぁ……」
「そんなことないですよ! ササヌエさんの戦闘能力は、常人の枠から大きく外れています。普通は勇者を倒せるはずがありませんから! 暗殺者マリィとも互角以上に渡り合っていましたし、魔力こそありませんが、特殊能力と評しても過言ではありません」
少しぼやいたら、なぜかニナにまくしたてるように褒められた。
とは言っても元から備えていた体質なので、特殊能力に値するとは思えないのだ。
何か見た目が変化するわけでもないし。
常人と比較しても誤差の範囲じゃないだろうか。
「せっかく召喚されたのなら、派手な能力の一つや二つは欲しかったけどね」
「一応、強大な力を得る方法はいくつか存在しますね。どれも難しいとは思いますが……」
「へぇ。たとえば?」
「竜の生き血を浴びたり、霊薬を飲んだりすれば、肉体に大いなる力が宿るとされています。ただし、どちらも稀少性が高いので容易には実践できません。あとは倫理面を考慮しなければ、吸血鬼から血を与えられることで吸血鬼になったり、邪悪な魔術師に依頼してアンデッド化することも可能です」
ニナの話を聞いた俺は口元を綻ばせる。
どれも楽しそうな手法だ。
別に人間に執着があるわけでもないし、人外になろうとも構わない。
割と真面目に念頭に置いておくべきかもしれない。
どこまで行っても、俺は能力を持たないただの人間だ。
いずれ殺される可能性は十二分に考えられる。
死に対する恐怖心なんて持ち合わせていないが、そんな結末はつまらない。
もしも、どんな怪物でも蹂躙できるような力があれば、それはもう愉快極まりない。
吸血鬼や不死身のアンデッドになって各地で殺し回れるなんて最高だろう。
いけない、想像したら実践したくなってきた。
機会があれば、人外化の手段も模索してみるか。
工作員の仕事の合間に調べてもいいだろう。
俺は破壊活動リストの余白に、力を得るための方法を追記しておいた。
「うん、知ってるよ」
こちらに来た当初、他ならぬニナからそういう風に聞かされたのだ。
随分とぶっ飛んだ話だが、今となっては受け入れている。
夢や幻とは言い切れないほど、この世界はリアルだからね。
まさに異世界と呼ぶに相応しい。
「その引き寄せの際に、対象者の秘めた才能を魔力と特殊能力に変換して開放する術式が組まれています。これによって生まれるのが勇者ですね。秘めた才能を持たない人間には何も作用せず、無能力者として召喚されます」
「なるほど。そんなシステムだったんだ」
初耳の情報だ。
あまり興味のなかった分野だからね。
本職の魔術師でもないし、詳細な部分を話されても分からない。
ニナもその辺りを考慮して、内容を噛み砕きながら説明してくれているのだろう。
「ササヌエさんは魔力と特殊能力を持たないので、無能力者と判断されました。しかし実際は"既に才能を解放し尽くして、特殊能力に変換する余地がなかった"のではと考えています。その解放された才能こそが、ササヌエさんの身体能力だと思うのです」
「つまり、俺の身体そのものが、勇者の特殊能力に相当するものってことかい?」
「その可能性が高いと思います……」
興味深い仮説だ。
確かに身体機能に関しては、人並み外れたものである自覚はあった。
知り合いの闇医者によると、俺は"身体機能を人間の上限まで自由に発揮できる体質"らしい。
それに耐えるために肉体も頑強なものへと進化しているそうだ。
マンガに出てくるようなヒーローみたいだとからかわれたが、確かにその通りだと思う。
その気になれば一時的に筋肉のリミッターを外すことも可能だが、これは使用後に反動で筋肉断裂や骨折を伴うのであまり好まない。
元の世界でも数えるほどしか頼っていないし、この世界に召喚されて以降は一度も使っていなかった。
デメリットが大きい上、いつもの身体能力でも十分だからね。
まあ、この世界には比喩ではなく怪物もいるみたいだから、いずれ使わざるを得ない気もするが。
(こう考えると、特殊能力っぽい……かなぁ?)
俺は過去を振り返りつつ考える。
そこまで大袈裟な名称になるのか微妙なラインだ。
今まではちょっとした特徴くらいの感覚だったが……。
召喚当初の時点で自分が勇者ではないと判明していたけど、こうやって改めて考察されると色々と思う所が出てくる。
まさかこの体質こそが特殊能力の発現を妨げていたとは。
自覚したところでどうすることもできないけどね。
それにしても、無能力者の異世界人には同情してしまう。
ニナの推論が正しければ、彼らは特殊能力に目覚めるだけの才能を持っていなかった。
才能のリソースを使い切っている俺と似た状態だが、実質的には劣化版である。
こんな物騒な世界に放り出されるなんて、何とも不運な人々である。
「なんだか地味な能力だなぁ……」
「そんなことないですよ! ササヌエさんの戦闘能力は、常人の枠から大きく外れています。普通は勇者を倒せるはずがありませんから! 暗殺者マリィとも互角以上に渡り合っていましたし、魔力こそありませんが、特殊能力と評しても過言ではありません」
少しぼやいたら、なぜかニナにまくしたてるように褒められた。
とは言っても元から備えていた体質なので、特殊能力に値するとは思えないのだ。
何か見た目が変化するわけでもないし。
常人と比較しても誤差の範囲じゃないだろうか。
「せっかく召喚されたのなら、派手な能力の一つや二つは欲しかったけどね」
「一応、強大な力を得る方法はいくつか存在しますね。どれも難しいとは思いますが……」
「へぇ。たとえば?」
「竜の生き血を浴びたり、霊薬を飲んだりすれば、肉体に大いなる力が宿るとされています。ただし、どちらも稀少性が高いので容易には実践できません。あとは倫理面を考慮しなければ、吸血鬼から血を与えられることで吸血鬼になったり、邪悪な魔術師に依頼してアンデッド化することも可能です」
ニナの話を聞いた俺は口元を綻ばせる。
どれも楽しそうな手法だ。
別に人間に執着があるわけでもないし、人外になろうとも構わない。
割と真面目に念頭に置いておくべきかもしれない。
どこまで行っても、俺は能力を持たないただの人間だ。
いずれ殺される可能性は十二分に考えられる。
死に対する恐怖心なんて持ち合わせていないが、そんな結末はつまらない。
もしも、どんな怪物でも蹂躙できるような力があれば、それはもう愉快極まりない。
吸血鬼や不死身のアンデッドになって各地で殺し回れるなんて最高だろう。
いけない、想像したら実践したくなってきた。
機会があれば、人外化の手段も模索してみるか。
工作員の仕事の合間に調べてもいいだろう。
俺は破壊活動リストの余白に、力を得るための方法を追記しておいた。