第30話 白昼の刺客

文字数 2,358文字

 雑談に区切りが付いたところで、俺たちは食事をとることにした。

 勇者やら特殊能力に関する話も面白いが、空腹を何とかするのも大事だからね。
 剣聖との戦いで消耗している分もある。
 失った血を取り戻さねばならない。

 向かったのは階下の食堂だ。
 俺たちが顔を見せたらすぐに用意してくれた。
 食事中だった者たちは、続々と席を立っていなくなる。
 別に誰がいようと気にしないのに。
 剣聖を殺した実績はここでも大活躍みたいだ。

 入口から複数の視線を感じる。
 料理に毒は入れられていないし、単純に恐れられているらしい。

(俺のことを爆弾か何かと勘違いしているんじゃないか?)

 肉料理を口に運びながら苦笑する。

 俺はそんなに危ないものではない。
 爆発する時と場所は選んでいるつもりだ。
 少なくとも今じゃない。

 隣にいるニナは、食事があまり進んでいないようだった。
 先ほどからナイフとフォークを頻繁に置いている。
 腹が減っていないということはないだろうし、じろじろと見られるのが気になるのだろう。

(……やっぱり、爆発しようかな?)

 そう思って俺が席を立った瞬間、こちらを見ていた者たちは慌てて逃げ去る。
 そんなリアクションを取るなら、最初から覗かなければいいのにね。
 嘆息しつつ、俺は肉料理を平らげる。

 食事を済ませたところで、俺とニナは宿屋を出た。
 これから魔王信奉の教団の居場所を突き止めるのだ。

「どこで情報を集めるのですか? 情報屋を利用するにしても、そのための資金が必要ですが……」

「決まってるよ。適当な犯罪組織を襲って稼ぐのさ。資金と情報が同時に調達できてお得だね」

「そんなに生き生きと……」

 ニナは小声で嘆くも、特に反論はしない。
 彼女自身、俺を説得して止めるのは無駄だと察しているのだろう。
 下手な口出しをすれば、銃口が向くのも理解しているに違いない。

 短い付き合いながらも、俺のことをよく分かっている。
 そうでなければとっくの昔に殺しているだろう。
 ニナはよく頑張っている方だ。
 お世辞抜きで生存能力が高いと言えよう。

 街中には多少の活気が戻っているが、俺を目にするたびに人々が逃げ出す。
 まったく、暮らしづらい場所だ。
 気にした方が負けか。
 どうせ実害はないのだし、放っておくに限る。

 そんなこんなで通りを歩いていると、強い殺気を感じた。
 前方から武装集団が人並みを割って歩いてくる。
 その数は五人。
 全員男で、統一性のない武装を纏っている。

 彼らの視線は、俺へと一点集中していた。
 ふむ、よく分からないが狙われているらしい。
 正規の兵士ではないようだけと、何が目的なのだろう。

(知らない間に賞金首にでもされたかな?)

 その可能性は高い。
 元の世界でも経験はあった。

「……彼らは冒険者です」

 剣呑な空気を察知したニナが囁く。
 俺は無言で彼女を後ろに下がらせた。

 同時に各所に隠した凶器を意識する。
 どれもコンマ数秒で取り出せる。

 キリキリと張り詰める衝動。
 まだ堪えなければ。
 穏便に話をしよう。
 そう、穏便に。

 俺は近付いてくる集団に声をかける。

「やあ。そんなに怖い顔をして、皆が困っているよ?」

 筋骨隆々の禿げ頭が、頭頂部を撫でながら口を開いた。

「てめぇが剣聖を殺した男か? そうは見えねぇが……なッ」

 禿げ頭が背中の大剣を抜き放って振り下ろしてくる。

 予想していた動きだった。
 俺は拳銃を腰だめに発砲する。

「うぇぁっ?」

 禿げ頭の額に穴が開いた。
 慣性によって下ろされた大剣を半身になって躱す。

 禿げ頭が派手に倒れた。
 弾丸の突き抜けた後頭部は大きく欠損している。
 飛び散った脳漿と鮮血が、ぴたぴたと地面を濡らした。

 俺は拳銃を弄びながら苦笑する。

「まったく、乱暴だねぇ。もっと落ち着いた方がいいよ」

 刹那の静寂を挟んで、周囲から悲鳴の合唱が上がった。
 逃げ惑う人々を突き飛ばすように、冒険者たちが襲いかかってくる。

 俺は笑いながら拳銃を連射した。

 赤毛の男と小柄な男が、胸と首に弾丸を食らって即死する。
 その横を犬の獣人が駆けてきた。

「グルァッ」

 短い咆哮。
 素早い身のこなしを活かした二刀流だ。

 俺は紙一重で刃を躱しながら、獣人の首を掴んで力を込める。
 頸椎の折れる感触。
 途端に獣人は脱力した。

 そんな彼の身体を、俺の前に掲げる。
 風切り音と共に、獣人の腹から矢が飛び出した。
 貫通せず、鏃がはみ出たところで止まる。

 俺は顔をずらして前方を確認する。
 残る一人の冒険者が弓を構えていた。
 耳が尖っているのでエルフだろうか。
 男は愕然とした顔で震えている。

「あーあ、惜しかったね」

 俺は獣人を投げ捨て、袖に仕込んだ小さなナイフを投擲する。
 ナイフはエルフの男の片目に命中した。

「ぎぃぁぁっ!?」

 男は倒れて悶絶する。
 そこへ歩み寄って首を踏み砕いてやった。

「白昼堂々と襲われるなんて、俺も有名人になったんだね。びっくりだよ」

 冒険者と関わったことがないのにこれだもんな。
 まあ、退屈しないからいいけどね。
 正当防衛になるし。

 俺は冒険者の死体から現金をもらっておく。
 一人が良さげな斧を持っていたのでこれも奪った。

 俺は棒立ちのニナを促す。

「ほら、行くよ」

「は、はいっ」

 我に返ったニナは小走りで動き出した。
 とんとん、と斧で肩を叩きながら、俺は微笑む。

 この街もなかなか楽しめそうだ。
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