第14話 一撃必殺

文字数 2,242文字

 生き残りの騎馬兵は三人いた。

 先行して突っ走ってくるのは大男だ。
 両手にそれぞれ長柄の槍と斧を握っている。
 滅茶苦茶な戦闘スタイルだな。
 彼は手綱を持たず、脚で馬を操っていた。

 よく見ると馬も額から角が生えていたり、体表がゴツゴツとした硬質で覆われている。
 厳密な種は馬ではないのだろう。

 ちなみに銃撃を食らっても平然としていたのはこの大男だ。
 馬もしっかりと銃弾を弾いていた。
 下手な攻撃は通用しないと見た方がいい。

 顔に巻いた布の隙間から、大男の双眸が覗く。
 ぎらぎらと野性的な力を宿した瞳と目が合った。
 戦いが大好きだと言外に物語っている。

 そんな大男の後ろに続くのは細身の男だ。
 片手に杖を持っている。
 石の杭や火球を飛ばしてきたのはこいつに違いない。
 他にもどんな魔術を使うか分からないので、警戒しておいた方が良さそうだ。

 細身の男の後ろに付いて弓を持つのが三人目である。
 こいつは、腰に吊るしたサーベルで銃弾を弾いていた。
 細身の男の防御役も兼ねているのだろう。

 弓の性質上、両手が開いていないと射れないので、互いに上手く欠点をフォローしている。
 良いコンビネーションだ。
 二人とも遠距離攻撃を持つとあって、なかなか侮れない。

 以上の三人が騎馬兵の生き残りだ。
 なんとも殺し甲斐のありそうなメンツだね。
 一筋縄では行かないようなところがいい。

 爽快感いっぱいに薙ぎ倒すのも好きだが、その中にも多少の手応えはほしい。
 そして、完膚なきまでに叩き潰すのだ。

「危ないから下がっといて」

「はっ、はい!」

 俺が告げると、ニナは大破した馬車のもとへ退避する。

 前みたいに人質にされても面倒だしね。
 あの頃は大した価値がなかったが、今は銃火器を生み出せる存在なのだ。
 死なれるとちょっと困る。

(ただ、守るのはあまり得意じゃないんだよなぁ……)

 殺すことに関しては絶対の自信があるんだけどね。
 元の世界でも護衛の仕事を請け負ったことがあるが、見事に失敗してばかりだった。
 殺人に夢中になって守るべき人間を始末されてしまうのだ。
 以来、護衛を頼まれることは滅多になくなったが、今回はそうならないように善処しよう。

「貴様ァ! なぜ生贄の巫女を傷付けたのだァッ!」

 大男が叫びながら突進してくる。
 いきなり重要っぽいワードが飛び出したが、生憎と意味を訊ける感じではなかった。

 馬上から繰り出された槍の刺突を避け、追撃の斧を紙一重でやり過ごす。

(やりにくいな。あのリーチが厄介だ)

 相手が馬モドキに乗っているせいで、こちらから攻撃がしづらい。

 戦鎚があれば強引に仕掛けることもできそうだが、あれは重たいので王都に捨ててきた。
 こんなことなら持ち運べばよかったか。
 まあ、後悔しても仕方ない。
 幸いにも俺には銃火器があるのだ。
 やれないことはないだろう。

 大男は繰り返し突進してくる。
 暴風のように放たれる槍と斧を躱しつつ、俺は散弾銃で反撃した。

 無数の粒状の弾丸は、大男と彼の騎乗する馬モドキに命中する。
 しかし、有効打にはなり得ない。

「なんのこれしき! 羽虫に触れたのと同然よ!」

 大男は僅かに出血しているが、致命傷ではない。
 馬モドキに関しては、火花を散らせながらも体表で弾いていた。
 とんでもなく頑丈な生物である。

(ただ撃っているだけでは殺せないな……)

 俺は一瞬だけ視線をずらす。

 残る二人も、それなりに迫りつつあった。
 いつ魔術や矢が飛んできてもおかしくない。
 先に大男を殺さねば、ちょっと分が悪そうだ。

 俺は弾切れになった散弾銃に、新たな弾を装填する。
 大男の薙ぎ払いを避けつつ、グリップを動かして排莢を済ませた。
 相手の攻撃自体は大振りかつ直線的なので、対処は楽だった。

「先ほどから小癪なッ! 避けてばかりでは勝てぬぞォ!」

 大男が吠えながら飽きもせずに突進してくる。
 こいつに関しては守護の勇者と似たタイプだな。
 正面からゴリ押しでねじ伏せる戦い方だ。

 俺は対抗して跳び上がって接近する。
 身体全体をタイミングよく捻ることで、槍の刺突を躱した。
 さらに斧の斬り上げも、柄を蹴って凌ぐ。
 同時攻撃をやり過ごした俺の目の前には、大男の顔があった。

「なッ!?」

 大男は目を見開いて驚愕する。
 俺はその口に銃口を突っ込んでやった。

「ぐ、ぉが――っ」

「とっておきをプレゼントしよう」

 呻く大男をよそに、散弾銃を発砲する。
 凄まじい反動。
 大男が白目を剥いた。

 彼の後頭部が丸ごと吹き飛んでいた。
 皮膚と肉と骨片と脳漿が混ざり合って四散している。
 もちろん即死だ。

 今の攻撃に使ったのはスラッグ弾である。
 粒状の弾丸と飛ばす通常のものとは異なり、一つの弾になっている。
 とにかく破壊力が高いのが特徴だ。
 散弾だと弾かれるので切り替えてみたが、効果は抜群だったみたいだね。

 俺は空中で姿勢を変えて、大男の死体を蹴飛ばす。
 その際、斧を奪い取った。
 これで近接攻撃にも対応できる。

 俺は空いた馬モドキの背中に着地した。
 馬モドキは乗り手が変わったことにも気付かずに直進していく。

 その先には、残る二人の騎馬兵の姿があった。
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