第26話 望まれない快進撃

文字数 2,016文字

 俺はひらりと跳んでニナの隣へ移動する。
 戸惑うニナをよそに、荷台の狙撃銃を手に取って弾丸を装填した。
 問題なく動作することを確認してからスコープを覗き込む。

 拡大する視界。
 ちょうどいい倍率だ。

 これから向かう関所では、兵士が大いに慌てていた。
 俺たちを指差して何か叫んでいる。

 おっと、関所の先へ続く門を数人が閉じようとしていた。
 馬車を食い止めるつもりらしい。

 俺は国外での仕事を頑張ろうとしているだけなのに、なんて酷い奴らなのだろう。
 職務妨害する連中には鉄槌を下さねばならない。

 俺は片手で狙撃銃を構える。
 照準を兵士の頭に合わせて発砲した。

 腕と肩を突き飛ばす衝撃。
 ライフル弾が兜を貫いて兵士の頭部を吹き飛ばした。
 脳漿をぶちまけたそいつは、門を閉じる作業を永遠に中断する。

 そのまま続けて近くにいた兵士を射殺していった。
 この狙撃銃はセミオート式なので、テンポよく連射ができる。
 片腕にも優しい仕様だね、素晴らしい。
 弾切れになった狙撃銃から空弾倉を外して、新しい弾倉を装着した。
 そのついでに念押しの指示をニナに行う。

「このまま真っ直ぐ突撃ね。止まっちゃダメだよ」

「そ、それはさすがに甚大な被害が――ひっ」

 返答代わりに銃口を向けると、ニナは口を噤んで静かになる。
 よしよし、いい子だ。

 つまらない意見を聞くために同行させているわけじゃないのだ。
 余計なことを言って興醒めさせるのはやめてほしい。

 馬車が加速し始めたことに満足しながら、俺は狙撃銃を前方に向ける。
 飛んできた矢は弾丸で破壊した。
 魔術を使いそうな人間は、発動前に射殺する。
 詠唱があるので判別は非常に簡単だ。
 おまけにどいつも棒立ちなので、目を瞑っていても撃ち殺せる。

 あちらの反撃を妨害しているうちに、馬車はどんどん突き進んでいく。
 既にスコープ越しではなくとも、兵士の表情がはっきりと分かる距離まで接近していた。

 関所には頭部の吹き飛んだ死体だらけだ。
 見える範囲にほとんど生存者がいない。

 建物内にはまだ無事な者が潜伏しているが、こちらに攻撃を仕掛ける気概はないらしい。
 怯えて隠れているのだろう。
 賢明な判断だ。
 命は大事にしないといけないからね。
 職責に駆られて無謀なことなんてしなくていいのだ。

 俺は狙撃銃から短機関銃に持ち替える。
 そこから適当に乱射して、迎撃を試みる残り僅かな兵士を殺害していった。

「あの! 進路上に兵士がっ!?」

「気にせず突っ込めばいいよ」

 立ちはだかろうとした兵士や、転がる死体を馬車が轢き潰した。
 がたん、と大きな揺れが生じる。
 こんな状況でも馬は元気に疾走する。
 ニナよりよほど胆力があるね。
 馬の良し悪しなんて分からないが、こいつは当たりだった。

「ほら、プレゼントだ」

 門を通り抜ける際、ピンを抜いた手榴弾を置き土産にいくつか放り投げる。
 数秒後、後方にて連続で爆発が起きた。

 振り向けば関所が炎上している。
 何か可燃性のものに引火したらしい。
 消火に動こうとする兵士に、ダメ押しの銃撃を浴びせてやった。
 これだけやれば、追跡もしてこないだろう。
 かなりの速度で走る馬車は、瞬く間に関所から離れて行く。

 俺は体勢を戻して上機嫌に笑う。

「あはっ、最高だねぇ。今度からは顔パスしてくれるかな」

「これは不法入国どころの騒ぎでは……ああ、どうしよう。私には何もできない……」

 一方、ニナは青い顔で呻いていた。
 彼女にも色々と悩みがあるみたいだ。
 大変そうだね。
 俺に出会った頃からずっと気苦労している。

 個人的には、もう少し肩の力を抜いたほうがいいと思う。
 俺に手を貸した時点で、こうなることは予測できただろうに。
 さっぱりと開き直ってしまえば、案外楽しい旅になるんじゃないだろうか。

 ぶつぶつと嘆きながらも律儀に馬車を操るニナを一瞥して、俺はくすりと笑う。

 その後は実に平穏な道のりが続いた。
 関所からの追手も特に来ない。
 あれだけの被害を受けたのだ。
 さすがに報復に打って出るほどの余裕はなかったらしい。

 それでいいのだ。
 無駄に命を散らすこともないからね。
 きちんと国境の警備に集中してほしい。

 関所を抜けて数時間ほど経った頃、前方に街が見えてきた。
 あの街こそ、魔王信奉の教団が潜む場所である。
 領主の件はスピード解決できたのだ。
 今度もサクッとこなしたいね。
 敏腕工作員を目指していこうか。

「今度は平和的に街へ入りましょうね……」

「努力はするよ」

 懇願の眼差しを向けてくるニナにそう返して、俺は銃火器の整備を始める。
 こうして俺たちは国境を越えて、新たな街へと至った。
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