第23話 工作員の逆襲劇

文字数 3,021文字

 廊下の向こうから兵士たちが殺到する。
 怒声に次ぐ怒声。
 彼らは必死になって俺をこの先へ行かせないようにしていた。
 決死の覚悟で武器を手に接近してくる。

 いいね。
 結構な忠誠心である。
 さっさと職務放棄をして逃げ出せば助かるのに、真面目な連中だ。
 マリィを見習った方がいいんじゃないだろうか。

 まあ、彼らなりの仁義があるのだと思う。
 命に代えても守ろうとするくらいだからね。
 そこを悪く言うのはさすがに野暮か。

「こっちも相応のものをプレゼントしてあげるよ」

 俺は笑いを堪えながら、構えた銃器を作動させた。

 円状に構成された複数の銃身が高速回転する。
 次の瞬間、目も眩むほど大量の弾丸を吐き出し始めた。

 凄まじい反動を膂力で押さえ付けて狙いを定める。
 油断すれば銃身が跳ね上がりそうだ。

 破滅的な掃射を前に、兵士たちは反応する間もなくミンチになって即死した。
 廊下の壁や天井や床が弾丸の嵐で削れていく。

 その間、俺は照準の調整に集中した。
 殺意と愉悦を込めて、ひたすら兵士を狙っていく。

 ものの三十秒ほどで銃器は停止した。
 本体からはみ出ていた剥き出しの弾丸をすべて撃ち尽くしたのだ。
 数百発はあったというのに、とんでもない発射速度である。

 俺は弾切れになった銃器――ガトリングガンを床に置いて、眼前に広がる惨状を確かめる。

 圧倒的な乱射によって、廊下は完全に崩壊していた。
 あらゆる物体が破壊されて、跡形もなくなっている。
 壁に大穴が開いて外が丸見えだ。
 崩落していないのが不思議なほどである。
 ここだけが廃墟か何かのようだ。

 散らばっている肉片は兵士たちの残骸だろうか。
 損傷が酷すぎてよく分からない。

「うん、いいね。映画で観たんだけど、一度使ってみたかったんだ」

 俺は背後のニナに笑いかける。

「あー……はい、まあ、そう……ですね……」

 ニナは見事に頬を引き攣らせていた。

 ガトリングガンを召喚したのはもちろん彼女だ。
 ニナの協力がなければ、この光景を生み出せなかったのだ。
 半分は彼女の功績に等しい。
 もっと誇ってくれていい。

 ちなみに彼女とは数分前に再会した。
 付近の気配を順に調べたら簡単に見つかったよ。
 今は指輪をつけているので意思疎通が可能である。

 余談だが切断された俺の手は、ニナに持たせていた。
 驚くことに、魔法薬を用いれば接合可能かもしれないとのことだ。
 この世界で高度な外科手術は望めないだろうし、義手を用意するつもりだっただけに、これは思わぬ朗報である。
 ファンタジーの力は油断ならないね。

 マリィを撃退した俺は、領主の私室を目指して移動中だった。
 場所が分からないので徘徊していたわけだが、兵士たちの歓迎を受けている。

 まったく、今までどこに隠れていたのだろうか。
 考えるに、マリィの邪魔をしないように離れた地点で待機していたものと思われる。
 そして彼女の離脱を察知して、慌てて攻撃を始めたという感じかな。

 正直な話、マリィを殺し損ねた鬱憤はあったのでちょうどよかった。
 こういう気遣いをしてくれるのは嬉しいね。

 そうこうしている間に、後方から兵士が現れた。
 俺は腰に吊るしたグレネードランチャーを発射する。
 少しの間を置いて、榴弾が爆発した。

「ぎゃあああああああっ!」

「ぐぅおおおああっ!?」

 兵士たちが四肢を吹き飛ばされながら床を転がる。
 そこへ二発目をお見舞いしてトドメを刺してやった。
 あのまま苦しませるのは、良心が痛むからね。
 四散する人体を眺めて俺は笑う。

「いやぁ、素晴らしい。上出来の威力だ」

 俺はグレネードランチャーを弄ぶ。

 ニナが召喚魔術に慣れてきたのか、様々な種類の銃火器を出してくれるようになった。
 召喚魔術はイメージが大事らしいから、実際に銃の運用方法を目撃したことでコツを掴んだのかもしれない。
 きちんと成長してくれているようで何よりだ。

 俺たちはガトリングガンで破壊し尽くされた廊下を進んで上の階へ進む。
 すると、頭上からいきなり兵士が斬りかかってきた。

「死ねぇぇあああッ」

「そっくりそのまま返すよ」

 俺は散弾銃を使って問答無用で射殺する。
 腹を引き裂かれた兵士は、あえなく階段を転がり落ちていった。
 俺は口笛混じりに階段を上りきる。

 ここが最上階だった。
 突き当たりに一つだけ扉がある。
 他の部屋に領主はいなかったし、たぶんここにいるだろう。
 逃走されないように気を配っていたので、もぬけの殻なんてパターンはないはずだ。

 緊急用の隠し通路なんかがあれば話は別だろうが、館内のあちこちを破壊した感じだと、そのような設備は見当たらなかった。
 万が一、敷地外へ逃げ出していたとしても、必ず足取りを掴んで地の果てまで追いかけるまでだ。
 その辺りは徹底する主義である。
 仕事に関する一切の妥協はしない。

 俺は扉の前に移動する。
 そのまま蹴り破ろうとしたところ、奇妙な感覚と共に弾かれた。

「あれっ?」

 まるで強化ガラスでも張り付けてあるようだ。
 見た目は完全に普通の扉なのに。

 ニナが扉を注視しながら原因を指摘する。

「ドアに厳重な防護が施されています。強固な結界魔術ですね」

「それって壊せそう?」

「はい、強い衝撃があれば十分に可能かと――」

 ニナの返事を聞き終わらないうちに、俺は散弾銃を発射した。
 スラッグ弾が扉を粉砕する。
 その際、何かが割れる甲高い音が響いた。
 結界魔術とやらが壊れたのだろうか。

 意外と脆かったね。
 もう何発かは耐えるかと思ったのだが。
 文明の利器の勝利というわけかな。

 扉が開くことを確認してから、俺は堂々と室内へ入る。
 そこには顔面蒼白で椅子に座る領主がいた。

「どうも、感動の再会ですね。涙が出そうですよ」

 俺は間の机を蹴り倒しながら領主に歩み寄っていった。
 領主は身を仰け反らせながら問いを口にする。

「マ、マリィは……?」

「彼女なら逃げたよ。もう少しで殺せるところだったんだけどなぁ……」

「な……な、んだ……と……?」

 それを聞いた領主は、狼狽を露に椅子から転げ落ちた。
 彼は電光石火の動きで俺の足元に縋り付いてくる。

「た、頼む! 話を……私の話を聞いてくれっ! 本当は貴方を雇うつもりだったんだ! お願いだ、今からでも契約しないかっ? 金ならいくらでも払う! 言い値で対応しよう!」

 領主は号泣しながら言葉を重ねる。
 清々しいほどの手のひら返しだな。
 あれだけふてぶてしい態度を見せたくせにね。
 俺が話に乗るとでも思っているのだろうか。
 なんとも滑稽な男である。

 俺は領主の肩に手を置いて、優しく声をかけた。

「領主さん、大丈夫ですよ。顔を上げてください」

「ゆ、許してくださるのですか……!?」

 それには答えず、俺は柔和な笑顔を浮かべた。
 希望を見い出した領主に、続く言葉を告げる。

「ええ、安心してください――どうせ夜明けにはすべて終わってますから」

 俺は近くにあった花瓶を掴み、懇願する領主の頭に叩き付けた。
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