第44話

文字数 1,012文字

「さっきのタヌキとかあり得なくね?」
「どう見ても犬だよな」
「いーや、猫だ」

 環奈、愛羅、詩歌はファミリーレストランへ強制連行した義翔を取り囲みながら野良犬サークルの活動という建前でただ普通に食事をしに来ていた。

「つか俺サークル入るって言ってねーし!」
 抗議する義翔に、義翔の隣に座る愛羅が巻き舌を使って脅すような口ぶりで返した。
「友達いねぇんだろ!だったら入っとけよ!」
「なんで友達いなかったら入んなきゃならないんだ!」

 義翔が困り果てているとウェイターがやって来て、愛羅が話しかけた。
「久しぶり!元気そうじゃん。春花は?」
 義翔の耳がピクリを動いた。【はるか……?】
 顔を上げてウェイターを見ると、いつも春花と一緒にいる男だった。仁である。仁は義翔に一瞬鋭い視線を向けると、すぐに愛羅のほうへ視線を戻した。
「友達?」
 愛羅は義翔と顔を見合わせるなり「サークルの仲間」と答えた。義翔は呆然としていた。【こいつら春花ちゃんと友達なのか……】
 考え込んでいる義翔に仁は事務的な口調で話しかけた。
「ご注文は?」
「え?」
 仁と顔を見合わせた義翔はふと大学の入学式よりも前にどこかで会ったことがあるような気がした。
【どこで会ったんだ?】
 考えながら開いたメニュー表の1番上にでかでかと載っているのを読み上げた。
「あ……じゃぁ、クリーム煮込みハンバーグで」

 全員のメニューを聞き終えた仁は厨房のほうへと戻っていった。その背中を見送りながら対面に座っている詩歌に話しかけた。
「あの人名前なんていうの?」
「へ?杉山仁だけど?」
「すぎやまじん……漢字どう書くか分かる?」
「漢字……?仁のやつ連絡先教えてくんねーしSNSもやってねぇしなぁ」
 そう言いながら仁の漢字の手がかりを探してスマホをいじる詩歌を尻目に愛羅が「杉山は普通の杉山で仁は人偏に漢数字の二だよ。好きだったときに覚えた」とサラッと言うなり「ジュース取ってくる」と立ち上がりドリンクバーのほうへ歩いて行った。
「あ――、そういや昔好きって言ってたかも」
 ホットココアを入れる愛羅を見ながら言う環奈に詩歌が「あーしも好きだったし」と不満げにつぶやいた。

 義翔は以前通っていた学園の生徒の名前を思い起こしたが、すぐに『杉山仁』と一致する名前は出てこない。【いや、そもそもあの学園から外の大学を受験したのは俺だけのはずだ。ならどこで会ったんだ……?】思い出せない気持ち悪さにモヤモヤとした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み