第54話

文字数 897文字

「これじゃぁ生活ができない。全部で何冊購入したんだ!?
「さぁ?3千冊くらい?」
「くそ!邪魔だし開けるのが面倒だ!このまま全部あいつにくれてやろう!」

 銀次と2人で1つずつ段ボールを持ち上げた。
「おっも!!業者はなぜ来れない!?
「3日後とかなら来れる業者あったんデスけどねぇ」
「3日もこんなところに居られるか!足の踏み場もねぇまるでゴミ屋敷じゃねぇか!もう一度宅配業者を呼べないのか?この部屋から向かいのアパートへ郵送すればいい」
「いや、宅配業者も最短明日デスよ。諦めて明日まで待ちまショウぜぃ」
「せめて足場だけは確保しないとトイレも行けないだろ。半分だけでも運ぶぞ」

 2人でせっせと30分ほどかけて千5百冊分マンションの前まで運び出した。
大量の段ボールを向かいのアパートの2階に運ぼうとする義翔に銀次が疲れた声で言った。
「1階の嬢ちゃん所に預かってもらいまショウぜぃ」
「バカ野郎!春花ちゃん家をゴミ屋敷にする気か!」

 錆びた階段を重い足取りでコンコンと音を立てながら上り2階にたどり着くと部屋のブザーを鳴らした。だが仁は出てこない。
「留守なのか……」
 そのとき下から銀次が両手を振りながら義翔を呼んだ。
「坊ちゃん!やっぱり1階に居まシタぜぃ!」
「は?」

 1階ということは春花の部屋にいるということになる。義翔は段ボールを抱えたまま急いで階段を降りた。降りてからハッとした。
「しまった!!段ボール2階に置いてこればよかった!!

 息を切らせながら春花の部屋のドアへ視線を向けると、仁が立っていた。義翔は嫉妬で怒りながら問いかけた。
「なぜ春花ちゃんの部屋にいる!?
 仁は微笑みながら義翔の問いかけを無視して言った。
「本を持って来てくれたそうじゃないか」
「俺はなぜ春花ちゃんの部屋から出てくるのかと聞いているんだ!!?
「わざわざありがとう。だが借りるはずだった本は全てネットで無料で読むことができた。だからもう必要がない。持って帰ってくれ」
 そう言うなりドアを閉める仁に義翔と銀次は呆然とした。
「一杯食わされマシタな」
 
 閉めたドアにもたれた仁はフッと頬を緩めた。
【相変わらず要領の悪い奴だ】
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